九十七話 宝物
(父上……。心から嬉しいです。できれば、このような事態になる前に聞きたかった……)
(私は私の手で確実に狐調を守りたかった。だからだろうか、自然と全ての物事を自らの手で進めたくなっていた。宮宇治家の皆のことも信頼していた。だが、どこか一線を引いてしまっていたのだろう。皆に反抗されてようやく気がついた……。私は当主失格だ……)
(当主……。当主という立場も大事ですが、一人の人間として皆と接することができていれば様々なことが変わったかもしれませんね。わたくしでは分からない当主としての苦悩もあると思いますので、勝手なわたくしの考えですが)
(いや、狐調の考えは間違ってはいないだろう。当主としての判断に私情を挟むことは論外としても、皆一人の人間なのだ。私も一人の人間として関わるのが筋というものだろう。私は陰陽師の栄華を取り戻すことに固執し、皆を私と同じ人間だと思えてなかった……)
(そうですか。……父上一つ、あなたの娘として弱音を吐いてもよろしいですか……?)
(ああ。父親らしいことを何一つできなかったのだ。何でも言ってみよ)
(ここで父上を終わりにしたら、わたくしが宮宇治家当主となるでしょう。……怖いのです。先程話した内容は〝人間〟だから成り立つことなのではないかと……。わたくしは生まれながらに呪われし存在。そんなわたくしが、人間とは言えない存在が皆をまとめられるのかが……)
(狐調……。お主はたしかに普通の人間ではない。だが、私よりも皆に好かれていると思うぞ? 騎召も深山もお主のことを優しいと言っていた。無論他の者達が口にしていることを聞いたこともある。それに、私ではできなかったことができるのではないかと思っている)
(それはどういう……?)
(一つはさっきも言ったが、宮宇治家の者に好かれているというのは重要なことだろう。仲良しごっこにならぬように注意は必要だがな。もう一つは、お主が私と調の子だからだ。こんなことを言ったら、ただの親馬鹿でしかないかもしれぬ。それでも、本気で思う。調は優しく強い女性だった。私にないものを多く持っていた。私は優れているところなど多くはない。だが、私と調の子ならばきっと大丈夫だ)
(父上……本当に……もっと早く言ってくださいよ……。わたくしは、わたくしはずっと不安だった。わたくしのせいで死んでしまった母上のことで恨まれているのではないかと……。母上の代わりに宮宇治家を支えられるように、努力を続けた。不安があろうとも、自分の存在自体を憎んでいたとしても……!)
(本当にすまなかった。至らぬ父親で……。……もう肉体の方が持ちそうにない。辛い役目をさせてすまぬ……。私を呪いとして取り込み終わりにしてくれ……)
(はい……。最期に話せて良かった。父上……)
(礼を言うのはこちらの方だ。私に会いにこんな所まで来てくれてありがとう。抱きしめる腕すらないのが悔やまれる。これからもお主のことを〝私達〟が見守る。だから、何も不安に思わないでくれ。私達の愛しい狐調……。お主は私の宝物だ……)