九十五話 親子の想い
ちょうどその頃、洋平達は屋敷から脱出していた。
「何とか出れたね。良かった……」
空乃は安堵の表情を見せる。
「……どうしたの? ヨウ君。何か考え事?」
晴夏が洋平に尋ねる。
「……あァ。いや、まだ残ってたんだなって驚いたのと。少し迷ってる……」
「え? 何言ってるの? 内容聞いていい?」
晴夏はあえてテレパシーを使っていないようだ。
「……悪ィ。結構、複雑な話なんだ。はァ……どうしても戻らないといけない理由ができた。狐全は何とかなりそうみてェだから、怪我したりとかはしないと思う。ただ、俺じゃないといけない状況っぽいわ。てことで、俺行くわ」
「え? え? ちょ、ヨウ君、狐全の所に戻るってこと? そんなのダメだよ!」
「晴夏の言う通りだよ! 何⁉ マナ使いすぎて、脳に後遺症ができたとか……」
「違ェよ空乃。安心してくれ。怪我はしない。というか、これ以上は働き過ぎだ。労災も出ねェのにこれ以上無理したりしねェよ……。とにかく、時間がねぇっぽいから! ついてこないでくれよな。絶対だぞ!」
洋平はそう言い、一気に駆け出す。
「全く……。まさか、まだ人魂呪詛が残ってるなんてな……。残りかすみてェなもんだったけど。でも、あんだけ切実に頼まれたら断れねェよ……!」
◇◇◇
洋平が現場に着いた時には、狐全は業火で焼かれていた。
狐全の叫声も相まって地獄を彷彿とさせる光景だった。
「親父! 何でいるのかとか、そんなの今はどうでもいい! 狐全への攻撃を止めてくれェ!」
「お! 洋平! 久しぶりだな! 感動の対面って訳にはいかねェか……。で、何で狐全への攻撃を止めてほしいんだ……?」
「細かい説明は省くけど……。俺は狐全の娘の狐調に呪詛魔法をかけられてて、今もわずかに繋がりがある。狐調が何度も泣きそうな声で言うんだよ。『父上はせめて自分の手で終わらせてあげたい』って。俺も色々思うところはあるけど、狐調の真剣で切実な気持ちに偽りはない!」
「ほうほう。洋平の考えは分かった」
「親父!」
「ただ、どうやって終わらせるんだ? 朱音ちゃんの《炎帝魔法》と俺の《幻影魔法》で瀕死くらいにはなってる。瀕死とはいえ、狐全は完全に呪いの化身になっちまった。強ェぜ? それに、あそこで倒れ込んでるのが狐調ちゃんだろ? 身動き一つできてない。残念だけど何もできないさ……」
「それは俺も分かってる! ……狐調は狐全を呪いとして、自身に吸収するつもりだ!」
「おいおいおい……それは流石に許可できん。もし、狐調を狐全が乗っ取ったらどうする? 呪いの本質は願い、感情だ。狐調と同化して、感情を爆発させて、呪いの暴走を加速されたら、街にも被害が出る可能性がある」
「分かってる、分かってるよ! そん時は親父……いや、俺が何とかする! 命懸けで何とかするよ! だから!」
「洋平……。あの子のこと好きなのか? 危険な可能性が高いことにそこまで執着するなんて、お前ェらしくない……」
「違ェよ! 俺は狐調が親を思う気持ちを……願いを叶えてやりたいだけだ!」
「親……ね。洋平も物好きだねェ。自分が何度も殺されかけた相手、しかも親子のために動こうとしてるんだからよォ」
「悪ィかよ⁉ 俺はできることなら、知ってる奴だけでも幸せになってほしいだけだ! それに、俺が狐調の立場だったら同じことをすると思う……」
「…………は~ァ……。狐調ちゃんもなかなか策士だねェ~。せがれの洋平に泣きつかれたら、父である俺の心が動くと思った訳だ」
「狐調はそんな奴じゃ」
洋平が言葉を言い切る前に恭介が答える。
「分かった。愛しいせがれからのお願いだ。ただし、狐全に対面するのは業火の中でだ。狐調ちゃんが動けねェなら俺の《幻影魔法――ファントムピープル》で運ぶ。業火の熱も幻影魔法で防いでやるよ」
「親父……!」
「泣いて抱きついてもいいんだぜ? なんてな。時間もねぇ。狐調ちゃんとこ行ってこい。俺ァ朱音ちゃん説得しとく」
「ありがとう!」
洋平は狐調のもとへ駆ける。
「狐調先輩! 親父は何とか説得できた。動けるか?」
「……和泉さん……。ありがとう……ございます。はは……何故でしょう……。父上はあの状態になっても……わたくしへの呪詛法術は決して……解かないのです。まるで、わたくしが巻き込まれないようにするため……かのよう」
「……そうかもしれねェっすね」
洋平はそう言い、狐調に肩を貸す。
「親父が狐調先輩と狐全が会うのを手助けしてくれます。ただし、業火の中でですけど……」
「構いません……。地獄の業火で焼かれても……おかしくないことをしたのですから。父上の吸収が失敗したら……その時はわたくしごと焼き払ってくださいませ……」
「縁起でもないこと言わないでください。きっちり、ケリつけましょう……!」