九十三話 増援
「レディースアーンドジェントルメーン! マナ災害の撲滅に来たぜ!」
「ちょっと、『和泉』さん、どんな登場の仕方ですか、それ……?」
裁奈が思わず振り返った方向には、二人の男女がいた。
「何じゃお主らは? それに『和泉』と言ったか……?」
「あァ。俺ァ和泉恭介だ。せがれがいると聞いてたんだが、まだ生きてるよな……?」
こう話す男は、和泉洋平によく似た顔立ちだ。
だが、洋平より目力があり、溌剌とした印象である。
歳は四十代。背丈は洋平よりも五センチメートル程高く、一七五センチメートル程だろう。
服装はベージュのスーツだ。ただし、かなり着崩しており、サラリーマンとして見るならやや信頼性に欠けると判断する者もいるだろう。
「お主、和泉洋平の父か……。何という偶然! お主も魔法を使うのだろう? 強力なマナを感じるぞ……!」
「目ん玉野郎、一人で興奮すんなって。んで、俺のせがれはいんのか?」
「ふん。あやつは戦いから尻尾を巻いて逃げおったわ」
狐全は侮蔑を含めたような笑みを浮かべる。
「おォ~。あいつちゃんと逃げたんだな! よかった、よかった。変なとこで正義感発揮しやがるからな~。全く、誰に似たんだか! 父ちゃん安心したよ」
恭介は素直な笑みを見せる。
「もう! 和泉さん雑談してる場合じゃないでしょ!」
「すまんすまん、朱音ちゃん。やっぱ、我が息子のこととなると心配しちまうのが、親ってもんだろ?」
「それはわかりますけどね……。さて、私も名乗りますね。私は南城朱音。君が宮宇治狐全で合ってる? 君は危険過ぎる、私達が天啓者として止めます」
鮮やかなロングの赤髪。目鼻立ちが整っており、髪に負けないくらい華やかな印象の女だ。
服装も変わっており、巫女装束を着用している。
歳はちょうど二十歳くらいだろう。身長は一六五センチメートル程だ。
「私が宮宇治狐全だ。それより、天啓者……? 何を言っている? スーツの男に巫女装束の女……。何者なのだお主ら」
「目ん玉野郎、お前ェが深く知る必要はねェよ」
直後、恭介の声色が柔らかくなる。
「……はいはい、そこの気の強そうなお姉ちゃんは下がっててね~。……狼女は敵ってことでいいのか?」
「ちょ、ちょっと待て、白犬。あぁいや、深山は敵じゃねぇ。アタシと協力関係なんだ」
裁奈は慌てて恭介に声をかける。
「あ、そうなの? おじちゃん先走っちゃったか~。メンゴメンゴ」
恭介は軽く自身の手を合わせる。
「深山! とりあえず、退くぞ。これ以上はアタシもアンタも戦えないだろ?」
裁奈は深山に声をかけつつ、何だこのノリの軽いおっさん。本当に和泉の親か……? と疑問が喉まで出てくるのを抑えていた。
「……私は…………」
深山は動こうとしない。
すると、深山と狐全の間に霧が立ち込める。
「《幻影魔法――秘幻霧》……。深山ちゃんも下がってな。こっからはおじちゃん達に任せろ。俺の役目はマナ災害を撲滅することだからよ」
恭介は歯を見せて笑う。
「逃がすと思っておるのか!」
狐全の鋭利な影が雪崩れ込む。
「俺がただおしゃべりしてただけと思うか? 目ん玉野郎。お前ェはもう俺の術中にかかってるんだよ。朱音ちゃん! 深山ちゃんとお姉ちゃんは退避できた?」
恭介の声が響く。
狐全が攻撃した方向には誰もいなかった。おそらく、恭介の幻影魔法で深山の位置を錯覚させたのだと思われる。
「退避しましたよ。はあ……和泉さんの急な行動に合わせるのはもう慣れました」
裁奈と深山は、身体中に炎を纏った朱音に助け出されていた。
「おォ~。流石朱音ちゃん! しばらく一緒に旅できたのが朱音ちゃんで良かったよ!」
「本当に調子の良い人ですね……。まあ、お二人を救出できたので、結果オーライです」
「ありがとうございます。アンタ達が来てなかったら、アタシ達負けてたと思うんで」
裁奈は朱音に礼を伝える。
「……」
相変わらず、深山は黙ったままだ。
「狼女さん。君にとって狐全と戦うことに、何か意味があるのは何となく分かる。でも、これ以上戦うのは見過ごせない。私達が戦うから待っててほしい」
朱音はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「……なら、せめてこの目で見届けたい。邪魔はしないから、ここに居させて!」
深山の変身は限界に達したのか、人間の姿へと変化していく。
人の姿となった深山が真っ直ぐ朱音を見つめる。
「……分かりました。ただし、これ以上前には出ないでね。狐全は強い。戦いに巻き込まれないようにして」
「分かった……」
深山は狐全の方を睨むように見つめる。
「チッ。手間が掛かる白犬だな……。アタシも居てやるよ。多少はマナも残ってる」
深山は裁奈を不思議そうに見つめる。
「あなた、意外と良い人……?」
「……さぁな? アタシが居ねぇと暴走しそうな気がするから居るだけだ」
「そう……。ありがと」