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マナの天啓者  作者: 一 弓爾
宮宇治 戦乱

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九十二話 狼と女王

「何をしておる? 高上」


 即影を止めるために高上が、狐全と騎召の間に割って入ったのだ。

 結果、騎召の鼻先で即影は止まった。


「ゴボッ……。狐全様……ワシは宮宇治家の発展を同じように……望んでおります……。じゃが、それは……子ども達が息災に暮らすため。当主たる……あなたが子に……手をかけてどうする? あの頃語り合った……宮宇治家は……栄華はどこへいって……」


 そこまで話し、高上は力なく、だらんと脱力する。


 狐全は数秒、間を置き即影を戻す。


 高上の身体はそのまま前方に倒れ込む……。


「高上……。お主もか……。私は…………。いや、宮宇治家は強くあらねばならぬのだ。でなければ……。そうでなければ、何も。何も、守れはしない。もはや、止まれぬのだ……」


「高上さん……⁉ 嘘だろ? 何で……」

 そこまで言葉を出し、騎召は意識が限界に達したようで、倒れる。


「栄順! 高上さん! 何で! 何で二人を……!」

 深山は涙で光る瞳で狐全を睨み付ける。


「……私の思い描く宮宇治家は強くあらねばならぬ。そこについてこれない者は要らぬ」


「……狐全様。じゃあ、私も要らないですね……。私はあなたのやり方にはついていけない」


「そうか……。行き場のなかったお主を拾ってやった恩を仇で返すか……。では、ここで死ぬがよい。私はもう止まらぬ……」



 ここまでのやり取りを見ていた洋平は、思わず声を上げる。

「おいおいおい、無茶苦茶だぞ……。マジで狂ってやがる……」


「和泉。とりま、ここはアタシと白犬に任せろ。これ以上戦えばアンタ達、冗談抜きで死ぬぞ?」

 裁奈が手を向けて、この場から離れるようにジェスチャーする。


「いや、でも……」


「いや、じゃねぇよ。ヒガ様から聞いてる。増援がもうすぐ来るはずだ。それまで耐えればアタシ達の勝率が一気に上がる」


「……分かりました。俺達がいる方が戦いにくいっすよね」


「まあ、言葉を選ばないなら、その通りだ」


「裁奈さん、無理はしないでくださいね……」


「あぁ、善処する」


「……みんな、影の攻撃に気を付けながら、退避しよう」

 晴夏、空乃、志之崎、王誠の四人から同意する返答がある。



「白犬! ここからは共闘だ! 二人で戦うぞ! ただし、時間稼ぎでいい。増援が来る予定だからな」


 しかし、深山から返事はない。


「おい、聞いてるのか? 白犬!」


「裁奈ちゃん……。私は狐全様が憎い。『家族』を……友達を傷つけたあの人が許せない……」


「そうか……。アタシも戦う。無茶な戦い方はすんなよ」


「……今考えると、無茶の定義って曖昧だよね……。私は私の中の本能に従うよ……」

 そう告げた深山は一気に加速し、狐全に接近する。


「おい、馬鹿! クソッ。援護する……!」

 裁奈は左手で荊絡蠢、右手で荊の弾丸を放ち、狐全の攻撃をできる限り跳ね返す。


 深山は俊敏な動きで影を躱し、狐全まで三メートル程の距離まで進む。


「随分とマナを浪費しているな。高上と騎召がヤられたのが余程頭に来たか?」


「家族を傷つけられたら誰でも頭に来るでしょう……!」


「家族? 家族とはお主の両親のことか? 完全に理性を失った狼男と狼女は殺さねばならぬ。もう十五年も前のこと。今更の仇討ちだな……」


「違う! パパとママはたしかにあなたに殺された。でも、理性を失ってしまっていて、あの時そうする他なかったのは、もう……納得してる……。私の言ってる家族は、栄順、高上さん、狐調様のことだ! あの人達は私を家族に入れてくれた」


「ほう。あやつら、うまく手懐てなずけおったな。獣の扱いは注意が必要だからな」


「黙れ! 黙れ! 私にとっての光を侮辱するな!」


「そういうところが、獣なのだ。熟考せず、衝動的に反応する。言葉で注意を逸らされ、自ら隙を作る」


 深山の意識が怒りで狐全に集中している間に、致命傷を与える準備は着々と進められていたのだろう。いつの間にか、深山は両足を影で固定され、更に四方から巨大な影の刃が迫っていた。


「終わりじゃ……」


「終わらせねぇよ……! 深山ぁ! 後ろと左の刃はアタシが潰してやる……! アンタは前と右の刃ぶち壊せ!」


 深山は裁奈の声で平静を取り戻したようで、攻撃モーションへ移行する。


「荊絡蠢……! 影を飲み込め!」


「銀狼掻、銀狼咬ぎんろうこう!」


 裁奈の荊絡蠢は二方向からの影の刃を飲み込み、強引に破砕する。


 深山は右手にマナを集中させ放った銀狼掻にて、右の影の刃を破壊する。

 そして、前方の影の刃に荒々しく咬みつく。

 身体中に刃の衝撃で傷ができるも、圧倒的な咬合力こうごうりょくで刃を咬み砕く。


「ほう。やるな。では、次だ……」


 次の攻撃が来る……そう思った。

 だが、それよりも一瞬早く、聞き慣れない声を耳にする。


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