九話 ニックネーム
洋平は舞里に傷を回復してもらい、動けるようになった。
「渡辺さん、ちょっと迷ったけど、もう普通にしゃべるわ。今俺の友達が二人、傷負って倒れてるんだ。頼む、回復してくれないか?」
真っ直ぐ目を見つめて伝える。
舞里は視線を逸らしながら答える。
「……分かった。そこまで案内して」
薬草園までダッシュで移動する。
晴夏も瓜生も倒れたままだった。
「この二人だ。外傷はあんまないけど、多分『心』にダメージを負ってると思う」
「……片方の人、顎の辺り殴られたような痕あるけど……。まあ、いいや。ちょうど薬草園で良かった。離れてて……。《罪花魔法――回復魔花》……」
すると、周囲にあった薬草も回復魔花に絡みつき、温かな黄色の光を放ちだす。
洋平は祈り続ける。頼む……二人共、回復してくれ……。
すると、晴夏がまず目を覚ます。
「う……頭と心、魂が軋むみたいに痛い……」
ふらふらと頭を振りながら声を出している。
「晴夏! 良かった!」
思わず洋平は抱きつく。
「ふぉおぉおおお! ヨウ君どうしたの⁉ えっ! 何コレ! 夢? 天国?」
晴夏が動揺したように奇声を上げる。
「夢じゃねェよ! マジで心配したんだからな!」
「ヨウ君……僕のことそんなに心配してくれてたの? ありがと……」
晴夏はものすごく嬉しそうな顔をする。
「当たり前だ! 俺の大切な友達なんだ……。無茶させてごめんな……」
「ヨウ君……」
晴夏はずっと洋平を抱きしめ返している。
「……晴夏……。俺から抱きついておいて言うのも気が引けるんだが、そろそろ一旦離してくれないか……?」
かれこれ二十秒くらい経ってる気がする……。
「えっ? あっごめん。僕ったらつい……。……本当はあと、五分くらいこうしてる予定だったんだけどね……」
「え……。なんか言ったか? 晴夏?」
「いや、何でも……」
晴夏はゆっくりと離れていく。
「……あなた達が尋常じゃなく仲が良いのは分かった。他の人の回復もしないとだから、私は行く。薬草園の人達の傷の回復は終わった。緑髪の人もそろそろ目を覚ますと思う……」
舞里はそう言い、他の場所へと向かう。
舞里の背中に向かい「ありがとう、渡辺さん!」と叫ぶ。
そうこうしているうちに、瓜生も目を覚ました。
「ここは……?」
まだ意識が戻りきっていないようだ。
「ミドイケ……良かった。ここは大学の薬草園だ。俺達が来た時には倒れてたんだ。目が覚めて良かった」
魔法のことまで説明するのは頭が追い付かないと思い控えた。
「ちょ、ミドイケじゃないでしょ。瓜生先輩だよ」
晴夏がすぐに訂正する。
「あ、ヤベ……」
瓜生は三年生だ。先輩でかつほぼ初対面の相手に失礼か……。
「ミドイケ……。その言葉を僕は聞いた。物凄く怖い『黒い塊』に飲み込まれた僕を『ミドイケ』という言葉が現実に引き戻してくれた……。君が呼んでくれたのかい?」
「あァ~、そうっす。すみません……」
洋平は素直に謝る。
「いや、いいんだ。とても素敵なニックネームをありがとう。君のおかげで僕は戻ってこれた。もしよければ、僕も君にニックネームを付けてもいいかい?」
「あ、全然大丈夫っす。変なのじゃなければ……」
「そうだな……。閃いたぞ……! 君のことは『ちゃぱつん』と呼ぼう! どうだい?」
瓜生は透き通るように、綺麗な瞳を洋平に向ける。
「ちゃぱつん……。うん、いや、そうっすね……。あの……はい……ちゃぱつんで……」
――あんな純真な瞳を向けられると、ミドイケなんて名前で呼んでた俺が断れるかよ――。
「気に入ってもらえて良かった! これからよろしく! ちゃぱつん!」
「こちらこそ、よろしくお願いします。ミドイケ先輩……」――。