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マナの天啓者  作者: 一 弓爾
宮宇治 戦乱
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八十九話 執行者と仲間達

 その頃、洋平はユウカと話していた。


(……洋平。……和泉洋平。聞こえますか? 和泉洋平)


(ん? ユウカさん? 聞こえてますよ!)


(良かった。やっと話せますね)


(え? もしかして、何回か話しかけられてました?)


(ええ。あなたの身に異変があったことを察知したので。何があったか聞いてよいですか?)


(あァ~結構色々ありました。……このタイミングで話しかけられるようになったってことは、多分っすけど狐調先輩の人魂呪詛が解けたからかな?)


(人魂呪詛……。前に聞いていた、宮宇治狐調の魔法ですよね? 戦闘があったのですか?)


(戦闘も少しだけしました。最終的に協力関係になったんですけどね。今は当主の狐全を倒そうとしてます。ただ、狐全が呪詛法術っていうので、〝呪いと影の化物〟になったんです。既に俺も含めてマナがなくなりかけで勝てそうにないんです。何か手はないですか?)


(なるほど……。実は宮宇治邸周辺で邪悪なマナを感知していたのです。バロンスはマナ災害レベルだと判断しています。今の話を聞いて詳細も分かりました。あと、既に執行者が介入すべき事案となり、行動は起こしています)


(ってことは、ユウカさんが力を貸してくれるんですか?)


(いえ、今回の事案は私ではなく、別の者が対応します。近くにいた者がいるので)


(そうですか。ユウカさんじゃなくても助かります! もう、打てる手がなくて、出たとこ勝負で、強引に体質同調して狐全諸共に吸収して自爆でもしようかと思ってましたから……)


(……和泉洋平。あなたは強いですね。どんな逆境でも、自分の命を使ってでも、脅威を消そうとしている。……すみません。あまり長話をしている状況ではないですよね。そろそろ、協力者が来るはずです。それまで何とか耐えてください。どうか死なないで……)


(分かりました。とにかく、時間稼ぎます。ありがとうございます!)




「ヨウ君、今ユウカさんと話してたの?」

 晴夏が洋平の顔を覗き込む。


「ああ。意識がユウカさんの方と現実世界と半々くらいだったんだが、今はまだ騎召が狐全と話しているのか?」


「そうだよ。でも、どうしよう。みんなもうマナもほとんどないし、戦えないよ……。だけど、このまま狐全を放っておく訳にもいかない。あれでも狐調先輩が弱体化させてくれてる状態だし」


「ユウカさんと話して分かったんだけど、狐全と戦える人……いや、人じゃないのかな? とにかく、戦ってくれる味方がもうすぐ来てくれる。それまで、時間稼ぎだけしよう。下手に戦いに行く必要はない」


 淡々とした口調で志之崎が洋平に向かい、言葉を出す。


「和泉……お前が執行者などの上位存在との関わりがあるのは分かっている。だが、今一度聞かせてくれ。お前のことを本当に信じてよいのだな? 今ならば、隙を衝いて逃走することも不可能ではない。というより、元々勝てない敵を相手にしていた場合、できる限りの仲間を連れて離脱するつもりだった。最悪、全滅することも考慮した上でだ」


 志之崎は息を吸い込み、続きを話す。


「……俺は仲間を……街を護りたいと思っている。だが、無駄死にする気はないし、させる気もない。和泉に責任を押し付けたい訳じゃない。せめて、命を……魂をかける義と勇を示してくれないか?」


「義と勇……。義ってのは『正義』……人としての正しい道。勇ってのは、正義を実践する『勇気』って解釈でいいんですか?」


「ああ、そうだ」


「……俺は死にたくないです。それでも、今止めないと、呪詛法術と融合した狐全はもっと多くの人を傷つける可能性がある。俺が死にたくないように、街の人にも死にたくない人がいる。俺は俺の思う正義のために、なけなしの勇気を振り絞るだけです。なけなしの勇気ではありますけど、覚悟は決まってます」


「……そうか。和泉、お前の義と勇は分かった。俺も命を懸けよう。そして、身命しんめいして皆を護る」


「シノさん死んじゃ嫌だよ! 美鈴も戦う! 美鈴もみんなを護るね!」


「美鈴はもう戦えないだろう……。傷が酷過ぎる。美鈴は屋敷から離れて待っていてくれ」


「嫌だ! シノさんと会えなくなるくらいなら、一緒に死んだ方がマシだよ!」


「馬鹿を言うな」

 志之崎は美鈴の額を軽く指で弾く。

 そして、頭をなでる。


「俺は美鈴に死んでほしくない。無論、他の者もだがな。美鈴はこれ以上戦闘を続行できる状態ではない。インビジブルゴーレムを使役するマナもないだろう?」


「……それはそうだけど……」


「小鳥遊……。貴様に無礼な態度をとっていた俺が言うのも不愉快かもしれないが、志之崎師匠は俺が命と引き換えにしても護る。だから、ここは任せておいてくれ」


「馬鹿者。弟子に護られる師がおるか。王誠、一緒に戦うぞ。……だが、感謝する。美鈴、お前は俺達が帰ってきた時に備えて待っていてくれ」


「でも……。……ううん。ごめんなさい。時間もないよね。美鈴が残ってもきっと足手まといになる。約束してください。絶対帰ってきて、美鈴に剣術を教えるって!」


「ああ、約束だ」

 志之崎は美鈴と指切りをする。




「僕は戦うよ。援護くらいはできる」

 晴夏は真っ直ぐ洋平を見る。


「私も同じく! 物理攻撃を防いだりはまだできる」

 空乃も同様に洋平を見る。


「あァ。ほんとは小鳥遊さんと一緒に離れといてほしいけど、お前ェらは言うこと聞かないだろうからな……」


「そりゃ、ヨウ君が残るって言うんだし! それにまだ、もう少しなら戦える」


「私もだよ。これで最後の戦いだと思えば、まだ少しは余力があるからさ」


 直後、騎召の側頭部が、狐全による影のハンマーで殴りつけられた鈍い音が響く。


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