八十五話 チカラの行く末
二人を同時に守ることはできない。どうしたらいい……? 影人型が背後から洋平への刺突を狙ってるのも分かってる……。
待て……。やめろ……。やめてくれ……。俺の大切な仲間を……友達を。殺すなら俺だけを殺せ。晴夏と空乃のためなら、命は惜しくない。
……力を寄越せ……。呪いだろうが、悪魔の力だろうが何だって受け入れてやる……!
「がァァァァアアアアアア……!」
洋平の咆哮が響く。
人魂呪詛が洋平の肉体、心、魂を乗っ取る。
存在そのものが強引にぐちゃぐちゃに消されていくような激痛が走る。
そして〝人魂呪詛は消失〟した。
洋平は事態が飲み込めなかった。命まで賭けたにもかかわらず、人魂呪詛は消え失せたのだ。
狐調が保険として死なないように呪詛魔法をかけていたのか、洋平の〝心の特殊性〟からくるものなのか、現状真実は分からない。
ただ、頼みの綱だった人魂呪詛が洋平から消えたという事実だけが残った。
……なんだよ。俺の命はいいんだ。せめて、友達二人を助ける力をくれよ……。
失意の中、空を切る音を聞く。
影魔法の攻撃音。そして、高音の風切り音を……。
「和泉、動くな!」
短く、芯のある男性の声が聞こえる。
咄嗟に振り返る。そこには、見覚えのある侍と女流剣士がいた。
「危なかったね、和泉君! でも安心して! 美鈴とシノさんが助けに来たよ!」
影人型の攻撃は志之崎の《風魔法――駆天風魔》による巨大な風の斬撃で相殺している。
そして、美鈴の《使役魔法――インビジブルゴーレム、不可視の鉄拳》により、影人型は破砕される。
「な……。志之崎さん。それにマイエンジェル……。助けに来てくれたんすか……?」
「ああ……。本当は俺が回復したら、美鈴を安全な場所まで連れていくつもりだったがな。あまりにも禍々しい邪気を感じたから、急いで様子を見に来た」
志之崎は淡々と答える。
「助かりました。あ、晴夏と空乃は……⁉ あいつらは……⁉」
「安心しろ。他にも来ている。それより、一旦距離をとるぞ」
志之崎は洋平を抱える。そして、風魔法にて加速し、戦線離脱する。
美鈴も追従する。




