八十四話 危機
独裁当主が……。お前ェのやり方は間違いだ。正してやるよ……!」
「ちょ待って、ヨウ君! 今の狐全もめちゃくちゃ強いと思うよ! 勝てるの?」
晴夏が急いで声を出す。
「そうだよ。何か手があるの?」
空乃も尋ねる。
「……人魂呪詛の力を応用して何とか攻撃を通す。無理させてマジですまん。俺が攻撃する隙を作ってくれねェか?」
「ヨウ君……! その方法じゃ、下手したら片腕……いや片腕どころか命すら失う可能性あるんじゃないの⁉」
晴夏は洋平の思考を読んだのだろう。
そうだ。俺は命をかけて攻撃を仕掛けようとしている。
人魂呪詛の浸食を片腕だけに集中させて、強化した一撃で狐全を倒そうと思っている。
無論、リスクはかなりある。既に、人魂呪詛の力を借りた状態で長く戦っている。
下手したら、肉体、心、魂が持たず俺は死ぬかもしれない。
それでも、街の被害、晴夏、空乃、そして狐調のことを考えれば、命をかけてもいいと思える。
「分かってるよ晴夏。心配してくれてありがとな。でも、今はこれしか道がない。晴夏、空乃頼む……」
「そんな……。僕は嫌だよ! ヨウ君と二度と会えなくなるなんて……!」
晴夏は涙を流す。
「バカヤロ、まだ死ぬわけじゃねェよ。目ん玉影坊主ぶっ倒して、渡辺さんのとこ帰るぞ!」
「……うん。うん……。絶対だよ……?」
「あァ。俺ァこんなとこで終わらねェ。食いたいもんも、やりたいことも山程あるからよォ」
「小僧。作戦会議……いや、死出の別れは済んだか?」
「黙ってろ。目ん玉影坊主。……いくぜ!」
洋平は狐全に一気に突っ込む。追従する形で晴夏と空乃が狐全の攻撃を防いでくれる。
狐全は鋭利な影、槍状の影を複数放つ。
洋平はそれらを《体質同調魔法――影魔法、棘影》で何とか弾く。
もはや、相殺する程の出力も出ない……。
人魂呪詛に耐えられる肉体等の限界値も、既にギリギリのラインだ。
「ふん。防ぐこともままならぬ状態ではないか……。先程の威勢はどうした小僧? それに仲間も死にかけではないか。このまま続けて無意味に死ぬか……?」
「うるせェよ! 仲間は殺させねェし、俺も死なねェよ! ぶん殴ってやるから、ちょっと待ってろ!」
「そうか……。ではこの攻撃はどう躱す……? 《影魔法――棘影木、地這影」
狐全の詠唱の直後、攻撃が畳み掛けられる。
棘影木は棘を纏った木の形をした影だ。地面から斜め方向に〝影の木〟が高速で生える。棘影木は空乃に超高速で突進してくる。
地這影は晴夏に向かって地面を這い進む。地這影には無数の鋭利な形の影が見える。あのような影の塊に引きずり込まれれば、一瞬で生きたまま挽肉になってしまうだろう……。
「晴夏! 空乃ォ!」
「影人型……」
狐全は小さく呟き詠唱を終えた。洋平の後方に留まっていた影から、〝影の人型〟が現れる。
「クソがッ……!」
洋平は叫ぶ。




