八十二話 忌み子の想い
「《呪詛魔法――人魂呪詛解放》!」
狐調の身体中に隙間なく人魂の痣が浮かび上がる。
その姿はもはや人と呼ぶには程遠いものだった。
「父上はこの姿を誇れと言ってくださいましたね。他の者はこの姿を見れば、声を上げて逃げ出す者もいました。中には呪われると言い、石をぶつけてくる者もいましたね……。それでも、呪われた『私という存在』を肯定してくれたこと感謝致します。……できることなら殺したくはない。早く正気に戻ってください父上」
「ミヤウジハ……カタネバ……ナラヌ。タトエ……アイテガ……ダレデアッテモ……」
「私の想いは届きそうにないですね……。早く解放して差し上げます」
狐調は人魂斧呪と童子切安綱を諸手に持ちながら戦う。
その戦い方は人間業ではない。
本来であれば両手で扱うような巨大な武器を、片手で扱っているのだ。
人魂斧呪、童子切安綱は時に矛になり、時に盾となる。
狐全の攻撃を防ぎ、破壊し、互角に戦っている。
「斧も剣も投げれば攻撃にバリエーションが持たせられる。そして、重みがなくなった分スピードが出せる。普通の人間ではできない戦い方ができる。父上は私の戦い方を色々と考えてくださいましたね。こうして、『お互いに人間離れした状態』で思い出すのは何故でしょうか……? 感謝……? それとも、父上が同族になってくれて歓喜しているのでしょうか? 私はやはり人間とは思考が異なるのでしょうか?」
狐調の問いかけに、狐全からは雄叫びだけが返ってくる。
「久しぶりに《人魂呪詛解放》を使ったからか、思考がそのまま出てしまいますね。そろそろ、終わりにしましょう……」
狐調は人魂斧呪を高速で、狐全に向けて回転させながら投擲する。
狐全は複数の鋭利な影で止めようとするも、人魂斧呪の回転は止められない。
狐全は途中で、巨大な拳の影を創り、側面から人魂斧呪を殴打し軌道を変える。
結果、狐全から数メートル離れた地面に人魂斧呪は深く突き刺さる。
その間も狐調への影での攻撃は並行して続いていた。
しかし狐調は、童子切安綱で影を切り裂き、だんだんと狐調は狐全へと近づいていた。
「理性がなく、反射的にしか行動できないならば、父上相手でも負けません……!」
狐調は更に童子切安綱も回転させながら投擲する。
武器を捨てると予想していなかったであろう、狐全は反応がやや遅れたように見える。
そして、狐全は武器を全て奪おうと、多くの影を童子切安綱に向ける。
「『今の父上』ならそうすると思っておりました」
狐調は丸腰になった代わりに身軽になっていた。
童子切安綱を持っていた時の三倍は速度が出ている。
「ブキナシデ……シニニキタカ?」
狐全は不敵な笑みを浮かべる。
狐全まであと、四歩というところで、狐調の足元から複数の槍状の影が創出される。
狐調は見切って躱す。
しかし、その先には鋭利な影が待ち構えていた。
「ギャハハハハ! シネ!」
狐全の声が響いた後に、鈍器で殴ったような鈍い音が鳴り響く。
「ア? ナニガオコッタ……?」
鋭利な影は狐調の拳で打ち砕かれていた。
「私の身体は丈夫で、力持ちなんです。童子切安綱の方に影を多く使ったのは判断ミスでしたね。このまま決めます」
狐調は襲い掛かる五つの鋭利な影を素早く殴り壊す。
そして、地面に突き刺さる人魂斧呪を一気に引き抜き、その勢いのままに狐全へと接近する。
狐全は鋭利な影を狐調へ放つ。
しかし、狐調の突進を止めるには圧倒的に影の数が足りなかった。
「《呪詛魔法――斧呪廻転》……!」
狐調の一撃は狐全を側面から吹き飛ばす。
狐全の影が奪って持っていた、童子切安綱は影の形が崩れていき、地面に落ちていく。
狐調は童子切安綱が地面に触れる寸前で回収し、更に加速して狐全へと向かう。
狐全の影が狐調を止めようと、鋭利な影、槍状の影を雪崩れ込ませる。
しかし、追い詰められ、急いで出したと思われる攻撃は冷淡に躱される。
「父上、痛むと思いますが、ご容赦ください」
狐調が言い終わると同時に、人魂斧呪、童子切安綱による、二つの武器での連続攻撃が狐全を襲う。
狐全は攻撃をモロに喰らい続ける……。
だんだんと狐全の形が崩れていく。




