七十五話 ヒトガタ
その頃、洋平は《影魔法》を使い狐全と戦っていた。
「お主、先程とは動きが違うな。何があった? それに狐調はどうした?」
「狐調先輩はぶっ倒した。マナ知覚力が上がると全体的に能力が上がるんだな。今それを改めて実感してる。お前ェの動き、自分の身体を廻るマナを知覚することで、速度、威力を上げることができている……」
洋平は淡々と答える。
「お主が狐調を倒した? 戯言をぬかすな。お主程度の小僧が勝てる相手ではないわ……」
「さあ? じゃあ、何でお前ェの目の前に俺がいるんだ? ま、どっちみちお前ェもぶっ倒すだけだから、関係ねぇよ……!」
前回の戦いとは違い、洋平は狐全と互角に戦えていた。
狐調との契約のおかげでだ……。
「《体質同調魔法×影魔法――影喰》……!」
洋平の影は巨大な鰐の怪物のように口を開ける。
そして、狐全の影魔法を喰い、吸収する。
「小僧……! 影魔法と体質同調魔法の利点を合わせて攻撃したのか……!」
狐全はやや驚きつつ声を上げる。
「魔法ってのは結構『解釈の余地と幅がある』。俺の体質同調の解釈を拡大すれば魔法にその性質を付与することも不可能ではない。まあ、影魔法という『俺と繋がってる魔法』だからこそできた芸当かもしれないけどな……。とりあえず、お前ェの『本体』のところまで行く!」
「お主、そこまで気づいたか……。クッハハハハ! 良いではないか! お主、存外金の卵やもしれぬな。来い! 辿り着けるならな……!」
狐全はより速く、質量の多い影で攻撃を仕掛ける。
「《体質同調魔法×影魔法――影喰》、《影魔法――動影》……!」
洋平は《影喰》を主軸に攻撃し、《動影》による〝自分の影の上を移動する際の速度を上げる〟魔法で高速移動する。
狐全の攻撃は手数が多いが、影喰で道を切り拓いていく……。
ついに、〝狐全の影の塊〟の前まで辿り着く。
「来たぜ……? まずは、お前ェから倒す……!」
吸収したマナを使い一気に〝狐全の影の塊〟を飲み込む程の大きさの影喰を創出する。
狐全の影の塊は、影魔法で応戦するも、洋平の影喰は物ともせず全てを飲み込む……。
「影が続いてるのは奥の部屋か……」
洋平は奥の部屋へと進んでいく。
「よもや、『私本体』のところまで来るとはな……。良いぞ、和泉洋平……」
低い声で話す男は、狐調と同様に漆黒の和服に身を包んでいる。
短い黒髪で細く高い鼻が特徴的だ。そして、細長いつり目であり、狐調と似た顔立ちをしている。身長は一七〇センチメートル程だ。
「戦いに出てたのは、影魔法で作った人型だった訳だな。腰抜け当主さんよォ……」
「口を慎め小僧。先程までとは違うぞ……? 覚悟しろ……」
狐全は影魔法を周囲に伸ばす。
「覚悟するのはご当主さんだぜ? いくぞ……! 《影魔法――影喰、動影》……!」
加速しながら、狐全の影魔法を喰らい、吸収していく。
「ふん、単調な攻撃じゃな。何でも喰えると思わぬことだな……。《影魔法――棘影木》……」
洋平はすぐに異変に気づく。
影喰が内部から破壊されている……。
直後、棘を纏った木の形をした影が、影喰を貫く……。
「くっ、流石に本体ともなると、出力が段違いか……。でも十分、射程距離まで来たぜ」
「小僧……。狐調の《呪詛魔法》を心臓にかけられておるな……? 体質同調魔法のせいか気づくのが遅れたわ……。だが、妙だな。あの狐調が小僧相手に心臓への呪詛のみしかできておらぬとは……。狐調に施した『法術呪符』は狐調が生きていることを示しておる……。何をした小僧……!」
狐全は洋平を睨み付ける。
「やっと、表情変えたなご当主さんよォ……。気になるか? 実の娘だもんなァ。安心しろよ。命までは取ってねェ。この馬鹿げたマナ知覚者を増やそうとする動きをやめるっつう約束するなら、無事に帰してやるよ」
「……舐めるなよ小僧……。お主の言葉は宮宇治家を貶めるものだ。私の娘が小僧程度に負けるはずがない。いざとなれば法術呪符を使い、無理やりにでも私の前に来るように命令もできる……。まあ、その必要もない。小僧を半殺しにして居場所を聞くまでだ……」




