七十二話 体質同調魔法への対応
「がッ……。なんでだ……?」
血が喉に上ってきているのが分かる。
同時に知覚する。今脇腹を貫いた狐全の影魔法は、〝質〟が違うということに……。
「やはりな……。全て無効化できる訳ではないか。大きく二つ無効化できない条件がありそうだな。一つは『魔法ではない物体や肉体などを使った攻撃』。もう一つは今のように、『知覚させる暇を与えず質を変えた攻撃』をすること」
狐全はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「影魔法一つにも『質』が色々とある。例えば、硬度を強めたもの、軟度を強めたものでは、マナの質が異なる。お主が知覚できれば自動発動するようだが、知覚する間もなく攻撃を当てれば対応できず、そのままダメージとなる」
狐全は淡々と実験結果を報告するように話す。
「ハッ、ご報告どうも。たしかにお前ェの言う通りだぜ。でも、そのパターンを想定すれば問題ねぇよ……!」
「そうか? お主は私の攻撃に反応しきれていなかった。速度で劣る……その時点でお主の魔法の強みは一つ死ぬ。まあ、他の能力もあるのだろうがの……」
「……舐めんな……! 攻撃一回当てた程度で勝った気になるなよ……!」
洋平が声を出した瞬間、目の前に〝黒い人魂の浮き出た大斧〟を持った狐調が現れる。
狐調は背丈程の大斧を振るい、刃のない側面で洋平を床に叩きつけようとする。
「このタイミングで狐調かよ……!」
躱そうとするも、狐調に気を取られていた洋平は、足元を縛り付ける狐全の影魔法を知覚するのが遅れる……。
まずい……体質同調が間に合っていない。足が動かない……直撃する……。
轟音と共に洋平は床を突き破り、地下へと落ちていく。
「……んなとこで死ねるか……!」
影魔法をクッションのように使用し衝撃を弱める。
「はァはァ……。クソッ、八メートルくらいは落ちてんじゃねェか? 地下室かここは?」
直後、大斧を持った狐調が降りてくる。
「華奢な見た目して、力持ちなんすね狐調先輩……」
洋平は既に身体中に傷を負っている。
特に狐全に貫かれた左脇腹の怪我が酷い。
何とかしたいが、この状況を切り抜けねェと無理だ。
「ええ……わたくしは呪われていますから……」
狐調はどこか儚さを感じる微笑みを浮かべる。
「呪い……。狐調先輩の肌に浮き出ている人魂の痣、斧にある人魂の模様、どちらも呪いですか?」
「そうです。わたくしは呪われた忌み子。この斧……《人魂斧呪》は呪われた武器です。普通の人が使おうとすれば、呪われてまともに動くこともできないでしょう。わたくしは呪いのような存在……。ですから、呪われることなく強力な武器を扱うことができるのです」
地下室は照明が所々ついている程度で薄暗く、狐調の笑みは美しくも、妖しくも見える。
「……呪われた忌み子……。狐調先輩、あなたは呪いを受け入れてる訳じゃないのか?」
「いえ、受け入れています。……わたくしが産まれた際に、母上は死んだ。本来であれば、わたくしは死産するはずでした。その運命を変えるために母上は陰陽師として研究していた呪いに縋った。母上の命と引き換えにわたくしへ『人魂呪詛』という『人間の生み出した呪い』をかけました。結果として、わたくしは死なず、こうして力持ちになれた訳です」
狐調は表情を少しばかり崩す。
「……そうですか。何回聞いても同じと思いますけど、渡辺さんの呪いを解くつもりはないですか?」
洋平は狐調の過去を聞き、無意識に共感してしまったのだろう。口調が柔らかくなっているのを自覚する。
「……条件を飲んでくれたら考えられます。父上には『和泉さんが逃げないように、上で見張ってほしい』と言っています。すぐには父上も降りてくることはないでしょう。という訳で、わたくしと契約しませんか?」
狐調は軽く口角を上げる。
「あァ? 契約……? 唐突だな……。内容によるし、俺は今あなたを敵だとみなしてます。それでもいいなら、話は聞かせてもらいます」
「構いません。では、父上に怪しまれないように、少々音とマナを出します」
狐調は人魂斧呪を振るい、周辺の壁を一気に破壊する。マナを多く込めたのだろう、マナの残留エネルギーが周辺に舞っているのを知覚する。
「ちょいちょいちょい。急に怖ェな……。狐調先輩、もしかして断ったら『この壁みたいに粉々にする』ってこと暗に伝えてます?」
洋平は思わず声が出る。
「どうでしょうか? ご想像にお任せします。では、契約内容の確認といきましょうか?」
狐調は妖しい笑みを浮かべる。




