七十一話 影魔法
その頃、洋平は先に進んだ部屋で二人の敵と相対していた。
「よう、狐調先輩。それと人型の影……」
洋平は異形の影を見て、即座にその存在が〝魔法〟だと知覚した。
おそらく、体質同調も可能だろう。〝影魔法〟か……?
「和泉さん、ようこそ我が家へ。思っていたよりも早かったですね。わたくしがかけた呪いの影響もあるかとは思いますが……」
全身漆黒の和服に身を包んだ、狐調は淡々と話す。
狐調、狐全共に、全身が漆黒のため、黒い影二つと話しているような印象でもある。
「その通りですよ、狐調先輩。早く渡辺さんにかけた呪いを解いてください。そうすれば、これ以上屋敷も壊さないし、お仲間も傷つけませんよ?」
「それはそれは、ご心配ありがとうございます。大丈夫ですよ。あなたより、わたくしは強いので」
狐調は真面目な口調だ。
「そうっすか。じゃあ、ぶっ飛ばしますね?」
洋平は眼光を鋭くする。
「お主、随分と思い上がっているのだな。私達に勝てると思っているのか……?」
人型の影が低い声を発する。
「やっとしゃべったか、影野郎。お前ェが宮宇治狐全か?」
「口の利き方がなっていない小僧だな……。そうだ。私が宮宇治狐全だ。お主の話は複数聞いている。頑固者であり、それなりに強いとな……」
狐全は静かに話す。
「ご当主さんの耳に入っていて恐悦至極だぜ。そんじゃ、それなりに強い俺がお前ェら倒して、さっさとこの騒動終わらせてやるよ……!」
洋平はマナを丹田で練り上げる。
まずは、狐全の魔法を〝無効化〟する。おそらく、体質同調で対処可能だ。
「《体質同調魔法――影魔法》……!」
詠唱と共に洋平の身体は狐全と同じ、影の塊となる。
「それが、皆が言っておった完全コピーの魔法か。見たところ、私の《影魔法》を自らの体質として認識し、コピーしているようだな……」
狐全は冷静に分析を口にしつつ、鋭利な影を複数洋平に向けて放つ。
「さて、ダメージになるかな……? まあ、んなこと確認せずぶっ倒すけどな!」
洋平も同様に鋭利な影を狐全に放つ。
鋭利な影同士はぶつかりギャリギャリと衝撃音が響く。
「この魔法便利だな。思い通りに動かしやすいぜ……!」
洋平は狐全の攻撃に影をぶつけ距離を詰めていく。
「こんな攻撃はどうだ……?」
影魔法を洋平の足元から柱のように創出し、一気に天井に到達する。
天井に手をつけ、影魔法を広範囲に伸ばす。
天井から下方向に〝影の槍〟を複数狐全と狐調に放つ。
「自惚れるな、小僧!」
狐全は影魔法でドーム状のシールドを創る。
強度があり、狐全と狐調に攻撃は届かなかった。
「ちっ、流石に本家にすぐ勝てはしねェか……」
そう言った直後、洋平は影に刺し貫かれる。
正確には貫かれた瞬間から、体質同調の効果で吸収できたが。
なんだ……?
天井を振り返ると、『天井の外側』から影魔法が刺し貫いた跡が見えた。
俺の攻撃パターンを予測してたのか? もしくは最初から、意表を衝いた攻撃を用意してたのか……? 厄介な野郎だ……。
「ほぉ……やはり『シンプルな魔法は吸収できる』のだな。実に興味深い魔法だ……。我等、宮宇治家の陰陽師となる気はないか小僧?」
「危険思想集団の仲間になんてならねェよ! このやり取り何回もしてるぜ?」
「宮宇治家としての慈悲であるぞ、小僧。まあよい、大体魔法特性は分かった。力の差を分からせてやろう」
狐全は影魔法の動きを五倍程に変化させる。
鞭のようにしなる影が、周辺に置いてあった壺や剣を持った戦士の銅像を破壊する。
「いくら速さが上がったところで……」
瞬間洋平は気づく。
今すぐに防御態勢をとらないと死ぬと……。
狐全の〝影〟は破壊した壺や銅像の破片や銅剣を〝持っている〟。
そこに併せて、鋭利な影での攻撃が重なる。
洋平の体質同調はあくまで影魔法の無効化、吸収ができるだけだ。
〝他の物体〟を持つような形で攻撃されれば、ダメージがそのまま入る。
とてつもない速さの破片等が様々な動きをして突っ込んでくる……。
「《影魔法――球影砦》……!」
先程、狐全が使っていた技を模倣し、発動する。
しかし、防げていた時間は七秒程だった。
影と破片などがぶつかる乾いた音が鳴り響き、球影砦は崩壊する。
洋平は自身の影魔法の削られ方の早さに気づき、〝身体の表面〟に影魔法を纏わせ球影砦の崩壊と同時に一息に脱出する。
「クソッ。なんつう威力と速さだ……」
洋平は影魔法で自分を押し出す形で、高速移動して狐全に近づく。
一気に決めないと、単純にマナ量で競り負けそうだ……。
「その判断力は賞賛に値する。だが、無策過ぎるのではないか……?」
狐全は影から散弾銃の如く、破片を放出する。
洋平はそれらを、影魔法で自分を押し出す方向を変えて躱す。
刹那、左脇腹に痛みを感じる。
見ると、後方から狐全の鋭利な影魔法が洋平を貫いていた。




