七十話 憑依の真髄
――その瞬間は訪れる。
〝高上が壁に突き刺した剣〟が真後ろまで迫る。
高上の思考が剣に向く。この瞬間に全てを懸ける……!
「悪いのぉ、童……」
高上は素手での連撃の流れのままに右手で剣を掴み取る。
そして、高上は剣で強引に壁を切り壊し、素早く二連の斬撃を入れようとする。
「読めてるんだ……! お前の思考も攻撃も……!」
左腕にだけ集中して練り上げた《念甲冑》で剣を弾き返す。
瞬間、高上が剣を壁から取った際に出た壁の破片を、念力で高上の顔面に向けて撒き散らす。
「むぅ……童ァ……!」
高上は思わぬ反撃に判断が遅れる。
「喰らえ! 高上!」
晴夏は高上の心臓に向け、右手を念力で強化した《念殴打》を打ち込む。
「ごほっ……! ……やるではないか、童……」
高上はふらつきながら二歩下がる。
「悪いけど、このまま決めさせてもらう……! 《念打撃、念斬撃》!」
高上を取り囲むように念力の猛攻が襲う――。
コレで終わりだ……。そう思ったのも束の間、高上は未だ立っていた。
約六メートルの槍を持ちながら……。
「ホッホッホ。よもや、この魔法を使わなくてはならぬとはの……。《憑依魔法――武将憑依、本多忠勝》。童、ヌシは誇ってよい。ワシの持ち得る最強の魔法を発動するまで追い込んだのだからな……」
高上の見た目は変わっていない。だが、決定的に違うものがあった。〝魂〟が二つあるのだ。高上のもの。そして戦国武将、本多忠勝のものだ。
意識は高上がベースのようだが、戦闘能力が格段に上がっている。
巨大な槍は見かけ倒しなどではない。おそらく、オリジナルのものを複製していると思われる。
――ちなみに、本多忠勝は生涯で五十七回もの戦闘に参加したにもかかわらず、傷ひとつ負わなかったという逸話がある戦国武将だ――。
「憑依魔法を高精度で自身に使えば、魂を憑依させて戦闘技能、生前使っていた武器も、マナを消費するで再現できる。この武器は『蜻蛉切』じゃ。……もう少し正確に言うと、武将の伝記的魂の存在、概念を具体的に思い描くことで実現しておるのじゃがな……」
高上は丁寧に自身の状態を説明する。それ程に自信のある魔法なのだろう……。
「……憑依魔法で上がった武術で僕の念力を全て防いだのか……」
晴夏は思わず唖然とする。
「そうじゃ……。悪いの童。ワシは戦士。歳が孫程に離れた者にも勝たねばならぬのじゃよ。では、再戦といこうか……。蜻蛉切は名前の通り、刃の鋭さ故に槍先に止まったトンボがそのまま真っ二つに切れたという逸話がある。気を付けよ……」
高上は蜻蛉切を大きく回して構える。
「……どれだけお前が強くなろうとも、僕は負けられない……!」
晴夏の覚悟とは裏腹に、高上は元々の強さに本多忠勝の戦闘技能が加わり、もはや別格となっていた。
約六メートルの長いリーチ、魂が二つになったことでテレパシーでの先読みがしづらく、戦いにくい。
高上の行動選択、本多忠勝の行動選択が常にあるため、確実な先読みは不可能だった……。
晴夏は念読拳、念打撃、念斬撃をフルに使い戦うも、格が違っていた。
身体中が切り刻まれていく……。血が……マナが足りない……。コレが〝死〟……。
ごめんね、ヨウ君……。僕はヨウ君が必要だった。だからヨウ君にも必要とされる存在になりたかった。
願わくは、少しでもヨウ君に必要な存在だと思ってもらえてたら嬉しいな…………。




