七話 三大美男
薬草園に着くと、女学生が十人いた。
その十人は一ヶ所から動く気配がなかった。
「あそこに魔法使ってる奴がいるかもしんねェな。あの子達には悪ィけど気絶してもらうか」
洋平は声を出す。
「……仕方ないね。手荒になるけど手早く済まそう……」
晴夏も覚悟を決めた声だ。
洋平はスタンガン、晴夏は念力で顎を狙い脳震盪を起こし、女学生を気絶させていく。
「はァはァ……。全員怪力だな……。脳のストッパー外されてて、火事場の馬鹿力状態なのか……? 胸糞悪ィな……」
「ふぅ……。でも、全員何とか気絶させたね。この先に魔法の発動者がいるはず」
少し進んだ先に男がいた。椅子に座っている。ただ、その男も異常な雰囲気だ。
目には女学生と同じように、瞳孔周辺にハート型の模様が浮き出ている。ただ、どことなく意識が朦朧としている感じだ。
「この人……典両大学三大美男の一人の瓜生隼人先輩だよ……!」
晴夏が驚き混じりに大声を出す。
「コイツが……。ちっ、ミントグリーンに髪染めやがって。目もデケェし。何かムカつく野郎だな……!」
「ヨウ君……。それただの嫉妬だよね……。そんなことより、止めなきゃ!」
「あァ……そうしたいところなんだけど、様子がおかしいからよ……。おい! そこの緑のイケメン! 聞こえるなら返事しろォ!」
瓜生は返事をすることはない。
耳を澄ましていると呪文のようなものを詠唱し続けているのが分かる。
「緑のイケメン……。歯ァ食いしばれよ」
洋平は顎に向かってフックを振り抜く。
椅子から瓜生は吹き飛び、地面に落ちる。
しかし、詠唱は止まることがなかった。
「ちょ……ヨウ君流石にやり過ぎだよ!」
晴夏が洋平の前に立つ。
「退いてくれ晴夏。俺ァ、ミドイケを止めねェといけないんだ……!」
「いや、なんか良い風に言ってるけど、イケメン殴りたいだけじゃない⁉」
「バカヤロ。俺がそんな理由で暴力振るうと思うか? 今、気絶狙って振り抜いたフック喰らっても詠唱が続いてる。しかも抵抗なしでだ……。相当な精神力の持ち主か、顎がクソ丈夫なのか、『ミドイケ自身が操られてる』かのどれかだと思う」
「え……。瓜生先輩が女学生を操ってる訳じゃないの?」
「分からんが、ミドイケは魔法の拡散元に選ばれてるだけなのかもしれない。晴夏……何回も頼んですまん。テレパシーで心読めるか……?」
「分かった。やってみるね……」
晴夏は瓜生に意識を集中していく。
「がっ……」
晴夏の口から不意に呻き声がする。
「晴夏!」
揺さぶっても反応がない。
「晴夏、晴夏ァ!」
何度も叫ぶも状況は変わらなかった。
「クソッ! 晴夏を返せ……!」
怒りで頭に血が上っているのが自分で分かる。
その時、「うっ……」と瓜生が小さく声を出したのが聞こえる。
「おい、ミドイケ! 俺の大事な友達がヤベェんだ! 意識戻してくれ!」
「うっ……僕の……僕の美しさで……人を傷つけるなんて……ダメだ……」
瓜生は何かと戦うように声を絞り出している。
「ミドイケ……! 頑張れ! ちょいムカつくけど、お前ェは美しィんだ! その美しさで人を傷つけたらダメだ! 戻ってこい!」
「うぅ……。君は……?」
瓜生が少しずつ意識を取り戻す。
「俺は和泉洋平。この騒ぎを止めたい。お前ェを操ってる奴の場所分かるか?」
「騒ぎ……。やはり僕の美しさで人が……。今なら何とか抗えそうだ……。僕を操っている人の位置を特定する。そこを叩いてくれ!」
数十秒が経つ。
「う……ぐ……。第二……グラウンドの大木の辺りだ。……後はたの……む」
瓜生はそのまま意識を失う。
「ミドイケ……! クソッ! お前ェの覚悟、絶対無駄にしない。晴夏も動けそうにねェ……。俺一人で行くしかない。待っててくれ、ミドイケ、晴夏……!」