六十八話 臨死体験
「……ここは……。宮宇治邸か。む? ワルキューレ⁉」
「ちょっと、何言ってるんですか? 王誠先輩。私は月下空乃ですよ?」
「……そうか……。俺の勘違いだ……。あと、すまなかった。貴様……いや、月下空乃達を傷つけたのは間違いだった。全て俺の至らなさが招いたことだ。こんなことを言っても仕方ないのは分かっている。だが、謝らせてくれ」
王誠は頭を深々と下げる。
「……許せないですよ……? 君のしたことはそれだけのことだ。でも、君が心を入れ替えるなら、これから関わる人にその贖罪として優しく接してください」
「……そうだよな。分かった。肝に銘じる。……あと疑問なのだが、何故俺は死んでいない? あの時、振り下ろされた忍刀には明らかに殺意が感じられた。どういうことだ……?」
「あぁ~。まあ、『臨死体験』させるには本気で殺す気で臨まないとなんでね」
「ということは、月下空乃。貴様は俺に生まれ変わるきっかけをくれたのか?」
「あ~まあ、そうですね。……あの瞬間、君は一度死んだ。新たに生きなおしたいなら、チャンスですよ? 今までの見栄もプライドも何もかも気にしなくていい。君の思う理想の生き方をすればいいんですよ」
「……月下空乃。感謝する。俺は生まれ変わる……」
「ええ、そうしてください。あと、一点気になってることがあって……」
空乃は王誠に近づき、着ているスーツに手を掛ける。
次の瞬間スーツは横に引きちぎられる。
「なっ! 貴様何をしている!」
王誠は顔を赤くし怒りを露にする。
「呪いの状態が気になってて……。とりあえず、中の服も全部ちぎりますね?」
空乃は返答を待たず、ワイシャツも引きちぎる。
「何をする⁉ 貴様まさか……」
王誠は恥じらいと恐怖を混ぜた表情を覗かせる。
「いやぁ、私イケメンのそういう表情も好きですよ。まあ、今はそんなこと言ってる場合じゃないんで……。呪いの進行ってどんな感じですか?」
空乃は一瞬酔いしれたような顔をした後、真面目な表情に戻る。
「……呪いのことを聞きたかったのだな? 先に言え、月下空乃。全く……。呪いに関しては、今は進行が収まっている。マナがほとんどなくなったからだと思うがな」
「狐調先輩に《呪詛魔法》をかけられたんですか?」
「そうだ。『心臓』に《人魂呪詛》をかけてもらった。効果としては、俺のマナを贄にし、呪いによる全能力の上昇ができる。その代わり、肉体、心、魂は呪いに浸食されるがな……。我ながら何故このような力に頼ってしまったのか……」
「なるほど……。心臓付近に人魂の痣が残ってるのもそのせいですね。あと……自分で間違いに気づけてるならいいんじゃないですか……?」
「そうか……そうだな……」
「人魂呪詛はどうやって解除するんですか? やっぱり、狐調先輩じゃないと無理?」
「ああ、そう聞いている。俺は呪いを受け入れた上で人魂呪詛をかけてもらった。強引に外部から呪いをかけた場合は少し異なるのかもしれぬがな……」
「仲間の舞里ちゃんのことですね……。意外です、王誠先輩がそこまで考えてくれるなんて」
「俺は変わると言ったはずだ。選択だけでは意味がない。行動も伴わせてこそ、未来は変えていけるだろう? まあ、まずは気づくことが重要ではあるがな……」
「あはは、いいですね。全力で殺しにいって臨死体験してもらって良かったです。私は狐調先輩を止めるのと、他の仲間も心配なんで行きます。王誠先輩も動けるようになったら、逃げてくださいね」――。




