六十四話 呪いと命
――戦いは空乃と王誠へと移る。
「死ね……」という一言と共に振り下ろされたソハヤノツルキを、空乃は真剣白刃取りで防ぐ。
「熱っつ、あと雷で痺れる~。どっちも耐性はあるけど、流石に出力がすごいね……」
「貴様……! だが、武器は……へし折った。……このまま切り刻む……」
王誠は更に力を加える。
「いいね、その殺意……。私は否定しない。でも、負けないよ」
空乃は右足で前蹴りを放ち、王誠を十メートル吹き飛ばす。
「ゴハッ……。貴様、貴様、貴様ァァアアア! まだだ……もっと力を寄越せ……。肉体も心も魂もくれてやる……。俺に力を……!」
王誠の瞳まで黒い人魂は浸食する。
「ガァッッ!」
もはや人の言葉を話せない程に呪いに浸食された王誠が、空乃に剣を振るう。
「……そこまで、全てを捧げられるのはすごいです。見直しましたよ王誠先輩。……正しい方向でその覚悟を使えれば良かったのに……」
空乃は床に落ちてしまっていた、折れた忍刀を取る。
王誠の凄まじい連撃を、空乃は身体を動かし、忍刀でいなし、躱し続ける。
「ここまできたら、もう殺すしかないか……」
刹那、空乃の脳裏に二つの選択肢が浮かぶ。
……はぁ、〝前までの私〟だったら、このタイミングで迷うことはなかったんだろうな……。全く……責任取ってよね、ヨウ……。
「王誠先輩、聞こえてるのかどうかも分かりませんけど、言いますね。あなたは『生きたい』ですか? 今殺意を抱いて私に斬りかかってるのは、自分のためですか? それとも、他人のため、絡瀬先輩のためですか? 自分を変えたいと思いますか?」
空乃は剣戟を躱しながら問う。
「俺……は……勝つ」
王誠はかろうじて答える。
「そんなこと聞いてません」
空乃はソハヤノツルキの軌道をずらし、生まれた一瞬の隙に上半身三か所に打撃を打ち込む。
いずれも〝氣〟の流れを読み、破壊効果の高い箇所を狙ったものだ。
王誠は声を上げることなく、口から血を吐き出す。
そのまま攻撃を続けようとする王誠に、空乃は指を細く寄せ固めた〝四本貫手〟による五連撃放つ。もちろん氣を読んだ上でだ。
王誠は貫手を喰らい、完全に動けなくなり仰向けに倒れる。
「王誠先輩、さっきの質問の答え教えてください。返答次第では、私の行動が変わるので」
空乃は淡々と問いかける。
王誠はマナを消耗したためか、人魂の痣が減ってきている。
「……俺は……今まで負けることなどなかった。武術も学術も全てだ……。それが貴様に会ってから、負け続きだ……。貴様に関しては、三度目か……。……質問の答えだったな。答えは無論自分のためだ。このまま三度も負けるくらいなら死んだ方がマシだ……」
王誠は息を吸い込み、話を続ける。
「……だが、自分を変えたい……とは思っている。もはや叶わぬ願いだがな……。一思いに殺せ……。俺はそれだけのことをした……」
王誠は死を受け入れたような表情をしている。
「…………そうですか……。じゃあ、死んでください……」
空乃は半分に折れた忍刀に殺意を乗せて勢いよく振り下ろす――。




