六十二話 目には目を、殺意には殺意を……
一方その頃。
空乃、志之崎、美鈴の三人は〝屋根〟に飛び乗り走っていた。
「あれだけ派手に裁奈さん達が暴れてくれたら、屋根で一気に奥に攻め込めそうだね。敵に見つかっても面倒だから、適当な所で侵入するけどね~」
空乃が先導しながら話す。
「ちょ、ちょっと、二人共速すぎ。美鈴、体力なくなってきたよぉ……」
何とかついてきている美鈴が息を切らしつつも声を出す。
「空乃……。そろそろ、侵入してはどうだ? 奥に狐調がいるとも限らんだろう?」
志之崎が声をかける。
「それもそだね。ごめんね、美鈴ちゃん。ここの屋根を破壊して侵入しよう」
空乃は忍刀を取り出し、一瞬で四角形に切れ目を入れる。〝無音〟で屋根は一部破損する。破損部位は空乃が掴み取り、森の方へ投げ捨てる。
「見事な剣捌きだ。どこかで剣術を習ったのか……?」
志之崎は興味深げに尋ねる。
「あぁ~、家が武術家系なんです。剣術は父様から習いました」
「そうか、その口振りだと、剣術以外も使いこなしてそうだな。空乃の才覚には驚くよ」
志之崎は純粋に驚嘆と尊敬の眼差しを向ける。
「あはは、そりゃどうも。父様も喜びます。じゃ、行きましょっか」
空乃はあまり気にしていないような、あまり触れてほしくないような口調だ。
侵入し、骨組み上から中を確認する。どうも、茶室のようだ。そのまま下に降りる。
「ここには誰もいないですね。周辺にも気配は感じない。とりあえず、このまま探しましょうか」
空乃が茶室から外にゆっくりと出る。
しばらく、空乃と志之崎の〝直感〟を頼りに狐調と王誠を探す。しかし、人の気配自体がしない。
「この辺りには人はいないんですかね?」
空乃は志之崎を見る。
「そうだな……。人の気配そのものがない……。裁奈達が暴れたことでそちらに向かったのか。あるいは、そもそも陰陽師の人数自体が少ないのかもな。奴らは仲間集めに注力していた。陰陽師の人数が多いなら、身内で魔法を使える者を増やす方が効率的だろうしな」
志之崎は静かに推測を述べる。
「それはあるかもですね。う~ん、どうしようかな。現段階で当主は多分、第一線には出てないと思うんだよね。隠密行動して当主を狙ってもいいか……」
空乃は淡々と話す。
「空乃ちゃん、すごいね! 本物の忍者みたい!」
美鈴は素朴な感想を楽しげに述べる。
「お、美鈴ちゃん。嬉しいこと言ってくれるね! 実は忍者の末裔なんです! なんちゃって」
空乃は非常に嬉しそうに応える。
「わ~! 本当にそう見えるよ! すごい!」
美鈴は明るい笑顔を向ける。
「おぉ……眩しい……。美鈴ちゃん、もうちょっと照度落とせる? 眩し過ぎて目が昇天しちゃいそうだよ……」
空乃は目を手で軽く隠す。
「空乃、美鈴……気を抜くのはそこまでだ。俺達三人なら当主を倒せるかもしれん。だが、無駄な戦闘は避けたい。屋敷の奥から確認していき、狐調、王誠を探すことに集中しよう」
「そうしましょう。最悪の場合、戦闘をすると考えておきます」
空乃が答える――。
◇◇◇
奥から確認して回るも、人の気配はしなかった。
〝中央〟方向に空乃、志之崎、美鈴は歩を進めていく。
そこで、遂に二人の敵と邂逅する。
「入口の方が騒がしいとは思ってたが、狐調様の指示で念のため残っといて良かったぜ。オマエら強かったもんなぁ、志之崎、小鳥遊ぃ」
騎召は笑みを浮かべる。
「騎召、月下空乃は俺がもらうぞ……! 奴だけは必ず俺の手で殺す……」
王誠がどす黒く鋭い光を宿した瞳で空乃を捉える。
「お前の相手は俺だ、馬鹿弟子が……。一から鍛え直してやる……」
志之崎は王誠を睨む。
「黙れ! 貴様も後で殺してやる……。だが月下空乃が先だ……。俺はもう二度と負けない」
「私をご指名いただくのは嬉しいですけど、王誠先輩じゃ勝てないですよ? 私にも志之崎さんにも」
空乃は事実をそのまま述べるように話す。
「月下空乃ォォォオオオ! どこまで俺をこけにする気だ……。俺は『狐に魂を売った』。前までの俺ではない! すぐに殺してやる、殺してやる、殺してやる…………」
王誠の身体中に〝人魂のような形の黒い痣〟が広がっていく……。
「オウオウ、もう発動かよ。オレを巻き込むなよ? まあ、巻き込まれたらオマエもぶっ飛ばすだけだけどよぉ」
騎召は両手にトンファーを構える。
「アレは……。志之崎さん、美鈴ちゃん気を付けて。人魂みたいな痣は狐調の《呪詛魔法》だ。多分、呪いと引き換えに力を得てるんじゃないかな」
空乃は推測を二人に伝える。
直後、空乃は奥にある大広間まで吹き飛ばされる……。正確には、王誠の高速移動からのソハヤノツルキによる剣撃でだ。
空乃は大広間の襖をぶち抜き、体勢を整えながら着地する。
「王誠先輩……。その身体……。そこまでして勝ちたいですか?」
「……俺は負けては……ならない。……常勝こそが……上道院の流儀……。一臣は貴様に…………。許さない……。貴様を……殺す……!」
王誠は憎しみに支配された殺人鬼となる。
「……そうですか……。分かりました。……目には目を、殺意には殺意を……」
空乃の雰囲気が静かなる暗殺者へと変わる。
「殺す……許さない……殺す、殺す、殺す……」
王誠の目には仇である、空乃以外映っていない。
「……殺してやる!」
王誠が高速で突っ込んでくる。
《呪詛魔法》で強引に強化された王誠は力、速度、反射神経、全ての能力が三倍にはなっている。ソハヤノツルキの剣撃もキレが上がっている。
「やりますね……」
空乃は冷淡に呟く。
そして、空乃は王誠の攻撃を全ていなす。
「許さない、許さない、許さない……。まだ足りぬなら……《合成魔法》《呪詛魔法×雷魔法×火炎魔法――呪雷炎纏》……」
王誠は、人魂が浮かぶ黒炎と、激しい稲光を迸らせる。
動く度に王誠の身体中から歪な音が鳴る……。
「動きが更に上がった……! コレはちょいとマズイかな……」
空乃は汗を一筋垂らす。
「《志之崎流剣術×ソハヤノツルキ――赤嵐》……!」
空乃は忍刀で王誠の異常な速度の斬撃を十回防ぐ。
刹那、十一回目の斬撃が忍刀を半分にへし折る。
金属音と共に折れた忍刀は弧を描き床に突き刺さる。
「死ね……」
王誠はソハヤノツルキを振り下ろす――。




