六十一話 銀狼
「暗いな……。人の気配もしねぇ……。晴夏、本当にいたのか?」
裁奈が晴夏を見る。
「……います……! 気配を消すのが上手い。そして、裁奈さんの魔法への反応が尋常じゃなく早かった。…………ヨウ君、危ない……!」
晴夏が洋平に飛びつき敵の攻撃を躱す。
「あぁ~もう、何で避けちゃうんですか~。和泉先輩……」
暗闇のため、目視はできないが声で相手が誰かは分かる。深山だ……。
「銀髪イカレ狼……。お前ェ、また俺にぶん殴られてェのか?」
洋平は低音で問いかける。
「アッハハハ! イイですね! 殴り合いしましょう? 前はヤラれちゃいましたからねぇ……。もっともっともっと遊びたかったですし。さあ、始めましょう……?」
目が慣れてきたからか、深山の金の瞳がうっすらと見える。既に〝狼女〟に変身していると思われる。
「和泉、晴夏。アンタらは先に行きな。ココにいる『白犬』はアタシが躾けておく」
裁奈は静かに話す。
「いや、でもこの暗闇じゃ裁奈さん不利ですよ!」
洋平はすぐに言葉を出す。
「アタシは《火炎魔法》が使える。明かりには困らねぇよ。それに、和泉が前に戦った話を聞いてる限り、《体質同調》《テレパシー》が必須の敵じゃねぇだろコイツは。少しでも勝率の高い戦いにアンタらを温存したい。サクっとしばき回して、追い付くから先行ってろ」
「ちょっと、そこのお姉さん? 勝手に話進めないでください。私は和泉先輩とヤリたいんです。和泉先輩狩りするのはすごく楽しいので……!」
深山は高速で洋平に突っ込んでくる。
刹那、裁奈は洋平と晴夏を部屋の外に押し出す。
すぐに《荊罰魔法――荊壁》を発動する。
深山は荊壁に激突し、唸り声を上げる。
「……痛ったぃですねぇ……。そんなに和泉先輩を取られるのが嫌なんですか? ……あなたが和泉先輩を見る目は獲物を見る目だ……。もしかして……」
深山は茶化すように話す。
「黙りな白犬! アイツはアタシの駄犬なのさ。ただの支配欲だ。勘違いすんな……」
裁奈は苛立ちを吐き出す。
「あらあら、支配欲だなんて……。独占欲、恋愛感情の間違いじゃないですか……? ちなみに私は和泉先輩好きですよ? 一緒にいると面白いし、楽しいし、何より美味しそうな匂いがする……」
深山はうっとりとした声を出す。
「ハッ! アンタがどう思おうと知ったこっちゃねぇよ……。アタシはアタシのヤリたいようにするだけだ……! 白犬……。アンタの鳴き声を聞けるのが楽しみだよ……」
裁奈は嗜虐的な笑みを浮かべる。
「そうですか……。まあ、私にとってはどっちでもいいですけどね。すぐにあなたを倒して、和泉先輩のところに行くので」
深山は高速で荊絡蠢をかいくぐり裁奈のもとまで来る。
「では、これでお終いです。《銀狼掻》」
狼女の鋭利な爪が裁奈に襲い掛かる。
「なめんな、白犬……! 《合成魔法》《荊罰魔法×火炎魔法――火荊荊絡蠢》!」
荊絡蠢が火を帯び、火の粉を撒き散らしながら、裁奈を取り囲むように回転する。
深山は回転に巻き込まれ吹き飛んでいく。
「痛いなぁ……。あなたの魔法、『私の予測以上に威力、痛みが強い』ですね。何か特殊な効果でも付与されてるんですか?」
深山は防御時に怪我をした左腕を舐めながら問う。
「アタシの魔法は『魂に刻まれた罪の意識』に反応して威力や痛みが上がる。……アンタにも多少は罪の意識があるんだね……」
裁奈は少し物悲しい声を出す。
「へぇ~、そんな魔法もあるんですね。お姉さん、そんな顔しないでいいですよ。人間、狼女問わずみんな何かしら『罪の意識』くらい感じてるもんじゃないですか? まあ、私は狼女なので、人間の考えはよく分からないですけど」
深山はさっぱりとした言い方をする。
「……そうか。人間でも狼女でも……か……。まあ、アンタらのしてることはアタシからしたら、『悪』だ。罪には罰、因果応報……。アタシは罰を与える『報復者』だからな……」
「報復者……ですか? 粛清者とかではなく? あなたは自分の受けた何かに報復したいんですか?」
深山は単純に疑問を口にする。
「……アンタに一々話すつもりはねぇよ。だが確実に言えることは、アタシは罪を憎んでいるってことだ。アンタらは街に召喚獣を撒き、人を襲った……。十分な罪だぜ……?」
「そうですか。じゃあ、私を断罪してみてください。できればですけどね……」
深山は不敵な笑みを浮かべ、更に加速する。
速度を乗せた銀狼掻は《火荊荊絡蠢》を引き裂く。
「チッ。流石狼女、結構マナ込めたんだがな。引き裂くか……」
「アッハハハ。十分強靭ですよ? まあ、私は引き裂けますけどね。まだ、速度上げますよ?《銀狼飛躍》……」
深山の速度が二段上がる。
裁奈の火荊荊絡蠢では防ぎきれなくなっていく――。




