六十話 討ち入り
翌日、十五時。
裁奈の車で、宮宇治家本邸のある〝第六典両霊山〟に六人は来ていた。
車は登山用の駐車場に駐車しておいた。
「晴夏、裏道があるんだよな? 普通の入口から入るのか?」
洋平は晴夏の目を見る。
晴夏は昨日とは異なり、芯のある目をしている。
「うん。狐調から読み取った情報だと、普通の登山口から入って、道中にある大きい滝を『歩いて抜ける』んだ。水量がすごい所だから、魔法を使える人とかじゃないと絶対入れないと思う。滝の先には道が続いている。道は途中で分岐してるんだけど、正解の道も読み取れてるから大丈夫!」
「なるほどな……。晴夏お前ェ、記憶力良いな。俺ならもう忘れてそうだわ」
洋平は軽く笑う。
「ふふふ。記憶力の良さがこんなところで役立つとはね……」
晴夏は微笑む。
――晴夏は同時に心の中で思う。
記憶力が良いのは〝今までヨウ君が僕にかけてくれた言葉を全て覚えておきたい〟からなんだ……。ヨウ君の言葉のおかげで、僕は何度もテレパシーで雪崩れ込んでくる声で狂いそうになるのを止められたから――。
晴夏の言う通りに進んでいくと、歴史を感じさせる大きな屋敷を見つけた。
門があり、その奥には広い庭が見えている。奥行もあり、優に二十部屋はあるだろうと予想される。
「コレが宮宇治家本邸だ……。行こうか……」
晴夏は静かな覚悟が滲んだ声を出す。
「あぁ、作戦通りにいくぞ……。二班に分かれて攻める。結界などがある可能性もある。場合によっちゃ、合流して進むぞ」
裁奈が声をかける。
「分かった……。俺は美鈴と空乃と『侵入できそうな所』を破壊し中に忍び込む」
志之崎が作戦の確認も兼ねて手短に話す。
「はい。んで、俺と晴夏と裁奈さんは正面から、堂々と攻め込みます。罠などがある可能性もありますけど、逆に敵の注意を引けるので」
洋平は淡々と答える。
「おけ! 私達三人は狐調先輩と王誠先輩を探すのを第一目的に動くね! 戦闘も可能な限り減らそう!」
空乃が明るく話しながら、身体を伸ばす。
「美鈴も頑張るよ! みんなで無事戻ろうね!」
美鈴は優しく微笑む――。
◇◇◇
作戦通り、洋平達三人は正面から攻め込む。
「行くぜ……! 《荊罰魔法――荊絡蠢》!」
裁奈の左手から放たれる蠢く荊が門へ突っ込む。
荊絡蠢が門を通過しようとした瞬間に、バチバチっと青い光が奔り、結界が現れる。
「ハッ! やっぱりお決まりだな。まあ、そのままぶっ壊すけどよ」
裁奈は舌舐めずりする。
荊絡蠢は勢いを緩めず、結界諸共に門を破壊する。
「アタシはイラついてんだ……。邪魔する奴は全て破壊し尽くす……!」
裁奈と共に洋平と晴夏は突入する。
やや後方を空乃、志之崎、美鈴が追随する。
「とりま、アタシ達が暴れて陰陽師の目を集中させる。つっても、面倒なことはしねぇ。正面からぶっ壊すだけだ……」
裁奈の瞳に凶暴な光が宿る。
「ハハ、やっぱ攻撃的っすね、裁奈さん。でも分かりやすいっすわ!」
「舞里ちゃん……。早く助けるからね……」
晴夏は集中力を上げているようだ。
荊絡蠢が玄関をも破壊し、そのまま屋敷に入っていく。
更に結界があるも、すぐに破壊する。
その奥には〝陰陽師の使用する法術符〟が仕掛けられていた。
法術符は、侵入者に反応し爆発するも、荊絡蠢は物ともせず突き進む。
「裁奈さんの魔法めっちゃ強靭っすね。……仲間で良かったです……」
洋平はやや声を震わす。
「……和泉、そりゃどういう意味だ?」
裁奈は訝しげに尋ねる。
「裁奈さんが味方で良かったってことですよ!」
洋平は軽く笑う。
「この先の部屋に一人いる……! 気を付けて……!」
晴夏が冷静に声を出す。
「分かった。じゃあ、部屋ごとぶっ潰す……!」
荊絡蠢は襖を貫き、部屋の中へ入っていく。
部屋は広く、そして真っ暗だった。




