六話 大学事変
それから三日間見張っていたが深山は学校に来ることもなかった。
四日目。
いつものように授業終わりにテニスサークルを見に行こうとしていると、異常を感じる。
周辺で何やら騒いでいる声や、叫び声が聞こえるのだ……。
「晴夏……! 何かおかしい。見に行こう!」
洋平は急な事態に慌てて声を上げる。
「うん! 早く行こう!」
晴夏も同意見だ。
声の聞こえる方に行くと、想像もしていなかった光景が目に映った。
女学生四人が狂気に駆られた瞳で、近くにいる人に襲い掛かっているのだ。
中には立て看板などの〝凶器〟を使っている者もいる。
「おいおいおい! お前らやめろ!」
洋平は止めに入るが女性とは思えない程の力で振り払われる。
そして、洋平に立て看板が振り下ろされる……。
次の瞬間、その女性は倒れ込む。
「ヨウ君、正義感があるのはいいけど、危なかったよ」
晴夏が念力で女性の顎にピンポイントで攻撃を仕掛け、気絶させてくれていた。
「悪ィ、助かった。とりあえず、あと三人を止めないとだな……」
洋平はリュックからスタンガンを取り出す。
「痛いかもしんねェけど、我慢してくれよ……」
晴夏と共に暴れていた女学生を気絶させる。
「しかし、なんちゅう力してるんだこの子達。全員ウエイトリフティングの選手でも目指してんのか……?」
洋平は振り払われた際にぶつけた肩をさする。
「でもみんな細身に見えるよね……。それに騒ぎはここだけじゃなさそうだ」
他の場所からも叫び声が聞こえている。
「これも魔法のせいか……? 全員目に特徴があった。瞳孔周辺にハート型の模様が浮き出てた。何か暗示のようなもので操られていたのか……?」
「たしかに、それは僕も気になった。魔法を使って複数人を操っている人がいるのかも」
「……晴夏、コレ頼むのは酷なことだって分かってる。でも、騒ぎをこのまま放っておく訳にもいかねェ。『テレパシーで魔法の発信元』の特定ってできそうか?」
「うん……。やってみるよ。もし、僕が操られそうになったら、僕の目を見つめて……。そうしたら戻れるかもしれないから。あと、それでも戻らなかったら、遠慮なくスタンガン喰らわせて」
晴夏は真面目な口調で淡々と話す。
「……分かった。頼む」
晴夏は気絶している女学生の一人に意識を集中する。
十秒程経つと、晴夏は倒れ込む……。
「晴夏……! 晴夏……! 晴夏……!」
洋平は何度も声をかける。
「う~ん。ヨウ……君?」
晴夏は頭を痛そうに抑える。
「大丈夫か? 集中しだして十秒くらいしたら倒れたんだ。意識は問題ないか?」
「うん……。今は大丈夫……。ちょっとヨウ君の心をテレパシーで読んで落ち着いてもいい?」
晴夏はふらふらと頭を揺らしている。
「全然いいぞ! 昔みたいに感情が揺さぶられた時は俺の心読んで落ち着いてくれ!」
洋平は声量を上げる。
「ありがとう……」
そう言い、晴夏は洋平の心に集中したようだ。
「あぁ……落ち着く。ヨウ君の心はいつでも凪のように起伏がない。たとえ、今のように切羽詰まった状況でもそうだ。おそらく〝特殊な心の構造〟をしてるんだろう……」
「俺の心が特殊……?」
洋平は思わず声を出す。
「あ、ごめん。口に出てた? ヨウ君って心が常に一定で落ち着いてるんだよ。言葉では焦ったこと言っててもね。不思議だよね……」
晴夏は呟く。
「そうなのか。そういや、前にも似たようなこと言ってたな」
そんなことを話ながら、一分程経過する。
「……ありがとう。落ち着いたよ。やっぱりヨウ君は落ち着く……」
やすらいだ表情で晴夏が言葉を紡ぐ。
「役に立てて何よりだ……。敵の居場所は特定できそうか?」
「うん、薬草園の方から魔法を送られてる感じがした。多分そこにいると思う。あと、女性達の心では声が聞こえてた。『近くにいる人を襲え』『女であれば目を見ろ、仲間が増えるぞ』って。崇拝心を刺激するような声だった」
「なんだその声……。やっぱ魔法関連か……。オーケー。とりあえず、止めるためにも薬草園向かうか! 他の人も何とかしてェけど、大元を断たないとダメだろうしな……」
「だね……。早く行こう!」洋平と晴夏は走って薬草園へ向かう。