五十九話 真の友
「晴夏……。ずっと渡辺さんの横で様子看るのは大変だろ……? 俺が代わるよ。少しは休まねェと明日攻め込む時にその調子じゃ厳しいだろう?」
「……ヨウ君。僕のせいで舞里ちゃんは呪われてしまった。だから、せめて僕が近くで看ていたいんだ……」
光のない瞳で晴夏は呟く。
「晴夏……。…………俺ァ今からすっげェキツイこと言うぞ。お前ェは渡辺さんの近くにいる自分に酔ってるんだ。前に言ったよな、『しんどい気持ちは分かる。晴夏の気持ちに寄り添わないなんてことは言わねェ。むしろ吐き出してくれ』って。それでも、お前ェはしんどい気持ちを自分の中に留めたままだった。俺が何度も声をかけたが、話してくれなかった」
洋平は少し間をあけ、晴夏の目を見る。
「……気持ちの整理がつかないのは理解できる。それでも、『渡辺さんのことを本当に想うなら、今するべきことは違う』だろ? お前ェが体調が優れない状態で戦いに臨んで、負けたら渡辺さんはどうなる? 『僕は渡辺さんが心配で、見守っていたので勝てませんでした』って言い訳すんのか?」
「…………ヨウ君……。いくらヨウ君でも今の発言は許せないよ……。撤回して……。しないなら容赦しない……」
晴夏のどす黒く淀んだ瞳は洋平を捉える。
「ちょ、ヨウ。いくら何でも言い過ぎだよ!」
空乃が怒り混じりに声を上げる。
「今は引っ込んでろ空乃……。コレは『俺と晴夏』の話だ」
洋平は空乃を鋭く見据える。
「……ヨウのそんな目久々に見たね……。分かったよ。でも、ヤバくなったら止めるよ?」
「おう……。で、晴夏どうする? お得意のテレパシーと念力使って俺をボコボコにするか? 別に俺ァ構わねェぜ。それでお前の気が済むなら全部ぶつけろよ……!」
「……ヨウ君、後悔しても知らないよ……?」
晴夏は念力で洋平を吹き飛ばす。
洋平は奥にあったロッカーにぶつかり、上から書類入れが落下し、額から血が溢れる。
「……そんなもんか? お前ェの気持ちは? この程度の気持ちで『渡辺さんの近くにいないといけない』なんて思ってんなら、拍子抜けもいいとこだぜ。渡辺さんが今の状況見て喜ぶとでも思ってんのか? 自己陶酔チビ助が……」
「うるさいよ! ヨウ君に何が分かるの? 目の前で僕を庇ってずっと苦しそうにしてる舞里ちゃんを見てることがどれだけ辛いか……!」
晴夏は《念打撃》で五連撃の攻撃を放つ。
洋平は空中で何度も身体中を殴打され、血飛沫が床に落ちる。
「ガハッ……。ハハハ。足りねェよ……。渡辺さん助けてェんだろ? 全部吐き出せよ、チビ助……。俺はこんなもんじゃ倒せねェぞ……?」
「黙れ! 黙れ! 僕の何が分かるんだ!」
晴夏は、洋平の攻撃を予測するために、高精度のテレパシーを使用したと思われる。
「は……? ヨウ君、何考えてるの? 僕にボコボコにされることを望んでるの……? いや、違う……。僕が心に溜め込んでる後悔、不安、自己嫌悪、全てを『受け入れよう』としてるの? 他人であるヨウ君が……?」
晴夏は唖然とする……。
「……馬鹿野郎……。ちっせェ頃にも言ったろ? 俺ァずっとお前ェの味方だ。苦しいことがあったら、俺にも言ってくれよ……。言ってくれねェと一緒に背負えねェだろうが……」
「…………ヨウ君……。ごめん、僕……僕……」
その場で晴夏は泣き崩れる。
ふらふらと洋平は晴夏に近づき、抱きしめる。
「馬鹿晴夏……。俺らは仲間で友達だろ? 辛い時ほど頼れよ……」
「ごめん……ヨウ君。ありがとう。ありがとう……」晴夏は声を上げて泣く。
そこに空乃も泣きながら抱きついてくる。
「辛いことはみんなで背負おうよ……」
その日は交代しながら、舞里の様子を看た――。




