五十八話 仲間入り
裁奈探偵事務所にて。
「戻ったか、和泉。無事、志之崎と美鈴ちゃんは仲間にできたみたいだな」
裁奈が話す。
「お前は……!」
志之崎は刀に手を伸ばす。
「あぁ~待て待て。アタシは和泉達の仲間だよ。……和泉、説明しといてくれって言っただろ?」
「あ、ヤベ。すみません、エンジェルに夢中でつい……」
洋平は頭をかく。
「エンジェル……? この子のことか? たしかに可愛らしい子だな……。まあ、アタシの言い付け守らない理由にはならねぇけどな」
裁奈はやや苛立った様子だ。
「ちょいちょいちょい。険悪な雰囲気は良くないっすよ。志之崎さん、今話してる人が裁奈さんです。この探偵事務所の所長です。言葉遣いは荒いけど、良い人です。以前に戦闘したことも聞いてます。あの時は上道院コーポレーションが怪しいと思って調査してました。結局、上道院王誠は陰陽師についているみたいですが……」
洋平は二人の間を取り成そうとする。
「王誠……。そうだったのか。……あいつは俺の弟子だ……。道を踏み外していたことに気づけなかったのは俺の責任でもある……。すまない」
志之崎は頭を下げる。
「いや、志之崎さん。アンタが頭を下げる必要はないよ。というか、王誠の師匠だったのか?」
裁奈がすぐに声を出す。
「ああ、三週間程前からだがな……」
「そうだったんですね! 王誠先輩と二回戦ってるんですけど、二回目の方が格段に強くなってました。その理由が分かりました。志之崎さん、『力抑えてる』でしょ? その状態でこれだけ強さを感じる方は久々に会いました!」
空乃が明るく話しかける。
「……お前も相当なものだぞ? 月下空乃。力の底が見えん……」
志之崎は静かに、だが、相手の力量を推し量ろうとしているのが分かる。
「それはどうも。鍛えてきた甲斐があります」
空乃は笑みを浮かべる。
「はい! じゃあ、残りの仲間の紹介もします。あっちのベッド横にいるのが小岩井晴夏です。んで、ベッドで眠っているのが渡辺舞里さんです。渡辺さんは狐調に《呪詛魔法》で呪いをかけられてます……。俺達は狐調を倒して、かけられた呪いを解いてもらおうと思ってます」
洋平は状況と目的の説明をする。
「……なるほど。俺達を味方にしたいと言っていたのは、渡辺にかけられた呪いを解くために宮宇治家と戦う際の戦力がほしかったからか……」
志之崎は短く言葉を返す。
「……そうです。話が早くて助かります。どうでしょうか? あなた達の傷は《回復魔法》や空乃の持っている特製の傷薬で回復させます。できる限りのことはするので、協力してもらえませんか?」
洋平は丁寧に二人に依頼する。
「……俺は馬鹿弟子を止めないといけない。宮宇治家と戦うというなら、俺にとっても好都合ではある。美鈴はどうする? 無理に戦う必要はないぞ……?」
志之崎は美鈴の目を見る。
「美鈴も王誠君を止めたいと思ってるよ! それに、街に召喚獣を出現させるような人達を放っておけないよ! だから、美鈴も協力する!」
美鈴は芯のある声で返答する。
「ありがとうございます。助かります。晴夏、お前ェも挨拶しといた方がいい。仲間になってくれる人達だ」
晴夏に優しく声をかける。晴夏が舞里の件で深く心を痛めているのは知っている。だが、必要なことはしなくてはいけない。特に命が懸かっているような場面では……。
ベッド横からゆっくりと晴夏が歩いてくる。
「すみません、自己紹介が遅れました。小岩井晴夏といいます。超能力でテレパシー、念力が使えます……。よろしくお願いします……」
いつもとは違い、明らかに元気がない挨拶をする。
「……急な話だと思いますが、渡辺さんの呪いの進行も考慮して明日の十六時に宮宇治家本邸に攻め込みます。場所はテレパシーで晴夏が把握しているので問題ないです。仮に本邸にいなかったとしても、他の拠点も把握できているので大丈夫です」
洋平が状況の詳細を伝える。
「あまり時間がないことも分かった……。とりあえず、回復と休養をとらせてもらえると助かる」
志之崎が立ち上がる。
「ああ、ついてきてくれ。治療用の部屋があるんだ。《回復魔法》はアタシが使える。基本的な魔法のレクチャーや、仲間の使える魔法の説明もさせてほしい」
裁奈が二人を案内する――。




