五十七話 合流
「……何とか、街まで来れたな……」
志之崎達は広い公園に着地していた。
着地の際、志之崎は風魔法を地面に向け放ち、衝撃を弱めた。
ただし二人共、戦闘や着地の衝撃などで身体中に傷を負っている。
「……怖かったよぉ……。空飛ぶなんて聞いてないよ、シノさん……!」
美鈴は目に涙を浮かべ、ポカポカと志之崎を軽く叩く。
「すまないな、美鈴。宮宇治の連中から離脱するには、あの方法が一番確実だと思ったのでな……」
志之崎は困ったように呟く。
「……ごめんなさい、嘘です。助けてくれてありがとうシノさん! 美鈴だけじゃ絶対逃げれてなかった。やっぱりシノさんはすごい!」
美鈴は志之崎に抱きつく。
「こら、美鈴。女の子が簡単に男に抱きつくな……」
志之崎は静かに叱る。
「…………は~い……」
美鈴は惜しむように志之崎から離れる。
「…………美鈴、気を抜くな……! まだ、いるようだ……」
志之崎は日本刀を構える。
「あァ~、ちょっと待ってください! 俺達はあなた達の味方です。正確には味方になりたくて来ました。俺は和泉洋平です」
茶髪で覇気を感じさせない男……洋平が話しかける。
「……信用できないな」
志之崎は洋平と空乃を睨む。
「あっ! この二人、典両大学の人だよ! 美鈴のマジック見てすっごく喜んでくれてたから憶えてるよ!」
美鈴が嬉しそうに声を上げる。
「美鈴、典両大学の宮宇治狐調が陰陽師だったのを忘れたのか……?」
志之崎は冷静に問う。
「あ、そっか……。二人は陰陽師なの?」
純粋な疑問を口にしている様子だ。
「違うよ、美鈴ちゃん。私達は宮宇治家の危険な行動を止めたくて動いてるんだ! あと、私は月下空乃です」
空乃は信じてもらうためだろうか。真っ直ぐ言葉を届けてくる。
「……コレ言っても信じてもらえないかもっすけど、とりあえず伝えます。俺は地球のマナバランスを取るための実動を担う『執行者』に選ばれた『天啓者』と呼ばれる存在です。執行者は人間の一次元上の存在にあたります。俺は普通の人間ですが魔法を使えます。固有魔法は《体質同調魔法》。相手の魔法属性と同じ体質になれます。結果、ダメージの無効化、傷の回復ができます」
洋平は真面目な口調で話し続ける。
「……自分の魔法を明かすか……。まあ、虚偽かもしれぬがな……」
志之崎はまだ疑いの目を向ける。
「そこは否定できないっす。なので、ここからは人間の一次元上の存在の執行者、更に上位の存在『バロンス代行者』から聞いた情報を伝えます。名前も伝えますね。執行者は『ユウカ』、代行者は『ミツキエイジ』という名前です。そもそも、ここにあなた達が来ることを予知できたのはミツキエイジ様の能力です」
「執行者? 代行者だと……?」
志之崎は急に出てきた単語に疑問符を浮かべる。
「ええ。地球のマナバランスを調整する存在の呼び名です。ミツキエイジ様は、あなた達の正義の心も見ているようです。そして、その点は問題ないとのことでした。さて、前置きはここまで」
洋平は息を吸い、間が一秒程あく。
「この先は人間の一次元上の存在だから知っている『あなた達個人の情報』です。まず志之崎さん、あなたは十一年前の十八歳になったタイミングで志之崎流剣術の免許皆伝をした。そして、武者修行のために全国各地を回り、一年前から上道院毅王の用心棒をしている。合ってますか?」
洋平は雰囲気そのものが神聖さを帯びている。この男の言う通り、人間の一次元上の存在が手を貸しているからだろうか……?
「……合っている。調べたのか? それとも本当に……」
「とりあえず続けますね。小鳥遊美鈴さん、あなたはご実家が洲台市だ。そこにはメイドのアンナさんが一人住んでいる。……言いにくいですが、十二年前にご両親が亡くなってますね? アンナさんはマジックが好きで、あなたもマジックを練習しだした。合ってますか?」
「……すごいね。全部合ってるよ。パパとママが死んじゃった話は洲台市のお友達なら知ってるかもだけど、アンナさんの好きなものまで知ってるのは多分、美鈴くらいだと思う……」
美鈴は素直に驚いた顔をする。
「にわかには信じがたいが、お前は少なくとも人間の一次元上の存在と繋がりがあるというのは正しいということか……」
志之崎は静かに呟く。
「はい。そして、その人間の一次元上の存在である、執行者と代行者に『あなた達を助けてほしい。きっと、協力することで状況を打開できるでしょう』と言われています」
「……なるほど。俺達がここに来ることを予知できていたこと。お前達から一切の敵意を感じないことなどから、おそらく信用してよいのだろう……。美鈴はどう思う?」
「美鈴もシノさんと同じ意見! この二人からは『良い人オーラ』みたいなのを感じる。それに今までの話も突飛だけど、筋は通ってると思う!」
「信用してもらえて良かったです。とりあえず、場所を変えましょう。あなた達は襲われてすぐなのでしょう。俺達の拠点にしてる探偵事務所があるので……」
「分かった。行こう美鈴」
「……ごめん、どうしても言いたいことがあって、いいかな?」
空乃が右手をあげる。
「美鈴ちゃん可愛過ぎない⁉ マジシャン衣装も良いけど、羽織袴もすごく似合ってるね! 可愛過ぎて何回か気を失いそうだったよ……。マジック女子にプラスして女流剣士の属性もあったなんて……。何⁉ もしかして、可愛さで天下取る気なの⁉」
空乃は興奮気味に声量を上げる。
「えぇ⁉ 美鈴天下取ろうとなんて思ってないよ……!」
空乃の急なテンションの上がりように美鈴は目を大きくし、驚く。
「……空乃ォ、真面目な雰囲気ぶち壊しじゃねェか……。全く……。でも、マイエンジェルが可愛過ぎるのは分かる。俺もしゃべりながら、何回か意識なくしてた気するわ……」
洋平もやや声量を上げる。
「和泉君? いつも言ってるでしょ? 美鈴ちゃんはみんなのエンジェルなんだよ? 独り占めしちゃダメなの。分かる? コレだから厄介ファンは……」
空乃はやれやれと手をあげる。
「お、俺だって分かってるよ。でも、目の前にすると抑えきれない感動があんだよ……」
「……お前達、やはり信用ならんな……。美鈴に何かしたら俺が叩き切る……」
志之崎は静かに睨みを利かせる。
「滅相もないです! 美鈴ちゃんを見られるだけで、心が浄化されるので……!」
洋平と空乃は同じ台詞を全く同じタイミングで言う。
「……よく分かんないけど、美鈴がいると心が浄化されるんだね。だったら、いっぱい浄化してもらったらいいよ!」
美鈴は純真な笑顔を向ける。
「おぉ……天使…………!」
洋平と空乃は感涙しながら、裁奈探偵事務所まで案内した――。




