五十四話 囲い込み
王誠の促しで、志之崎と美鈴は座布団に座る。
「お主らが王誠の言っていた、志之崎刀護、小鳥遊美鈴だな? 私は宮宇治狐全。陰陽師一族、宮宇治家の当主だ……」
〝黒い影の塊〟……狐全は低音の感情を感じさせない声で話す。
「……お前らの目的は何だ? 何故俺達を連れてきた?」
志之崎は狐全を睨みつつ尋ねる。
「単刀直入に言おう。お主ら、我が宮宇治家の陰陽師の一員に加われ……。お主らにはその素質がある……」
「素質……? 陰陽師に関する知識も技術も持ち合わせていないが……?」
志之崎は疑問をそのまま投げかける。
「……お主らも気づいているのではないか? この広間には『マナをあえて充満』させておる。この空間に触発されて、お主らの中にあるマナ知覚力が跳ね上がってきているはずだ……」
「マナ……? 何を言っている……」
そう答えつつも志之崎はマナの存在を知覚できつつあった。
広間に充満するマナ、そして自分の身体を廻るマナのことを……。
「……気づかぬ振りをするというなら、それはそれで良い。この後、無理やりにでも覚醒してもらうからな……」
狐全は淡々と言葉を発する。
「随分と物騒なことを言うのだな……。一つ聞かせてくれ。何故お前達は仲間を集めている? 陰陽師が仲間を集める必要性があるのか?」
「我等には悲願がある。陰陽師の数は年々減っている。科学が進歩した現代では当然という者もいるが私はそうは思わない……。陰陽道は素晴らしいものだ。そして、ここ十年の間で少しずつ、『マナの存在』に気づく者が現れ始めた。陰陽師の中でも完全にマナを知覚できているものは少なかったのにだ……」
狐全は一息溜めて言葉を紡ぐ。
「それが何の因果か、現代にてマナの知覚力が上がってきたのだ! 我等、陰陽師の中にもマナを知覚し、『マナを魔法へと変換』して扱える者が増えた。実に喜ばしいことだ。だが、まだ足りぬ……! 我等の悲願は『陰陽師の栄華を取り戻す』ことだ。その礎となる人材を欲している……!」
狐全は今までとは打って変わり、焦がれるように熱く語る。
「……それはつまり、陰陽師の栄華を取り戻す手伝いをしろ、ということか?」
志之崎は逆に冷静に返答する。
「そうだ。そのために、宮宇治家の知識、技術も教授する。他の者共では見えない世界を見せてやる……」
「なるほど……。他の者共か……。狐全、お前が考える世界ではマナの知覚ができない者、魔法を使えない者はどうなる……?」
志之崎は静かに問う。
「素質がない者はそれまでよ……。特に殺してしまおうなどとは思っていない。だが、差は開いていくだろうな。マナの知覚ができる者と、できない者では大きく世界が変わる……」
「そうか……。マナの知覚ができる者を集めているんだったな? そうなると、マナの知覚者が宮宇治家に集まる。ゆくゆくは『魔法の独占』に繋がっていくのではないか……?」
「……お主、えらく先々のことまで考えるのじゃな。たしかに『陰陽師の栄華を取り戻す』までの過程でそうなるかもしれぬな。だが、むしろそうするべきだと私は思っている。素質がある者を教え導く存在も必要だろう。宮宇治家がその拠り所となるのだ……!」
「狐全……お前の考えは良く分かった。最後に一つ聞かせてくれ。街に魔獣が出現していたことがある。これもお前達がやったのか?」
志之崎は淡々と問いかける。
ただし、この返答次第で行動を大きく変えるという覚悟を心の奥に秘める。
「……そうだ。マナ知覚に覚醒するには、『肉体、心、魂』への衝撃、きっかけが必要だ。中には自然とマナ知覚に覚醒する者もおるがな……。早期にマナ知覚の覚醒者を見つけるには、この方法が良いと考えた。実際、お主から魔獣……召喚獣の話が出たということは、召喚獣と戦ったか、何かしらの影響を受けたのだろう? 結果、今我が屋敷にいる状況に繋がる……」
狐全は特に悪びれる様子もなく、合理的な判断をしたという口調だ。
「……仮に負傷者や死者が出たとしてもか……?」
「無論だ。肉体、心、魂への衝撃の末に負傷者、死者が出ることは当然であろう?」
「……返答感謝する。少し俺と美鈴の二人で考えさせてもらえないか?」
志之崎は鋭く狐全を見据える。
「……分かった。この広間から出て、二つ先の部屋が客間だ。そこで考えるがよい。ただし、十五分後には結論を聞かせてもらう。狐調、案内しなさい」
狐全は静かに話す。
「承知致しました。父上……」
全身漆黒の和服に身を包んだ、狐調が口を開く。




