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マナの天啓者  作者: 一 弓爾
黒幕

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五十三話 同類

 同日、宮宇治家本邸にて王誠は狐調と話していた。


「狐調……貴様の作戦で、一臣と成尾の二人が大怪我を負った。どう責任を取るつもりだ……?」

 身体中に包帯を巻いた王誠は、怒りの感情をそのままぶつける。


「王誠さんの言う通り、作戦は失敗してしまいました。当主の娘であり、作戦の立案者である私の責任です。ただ、分かったこともあります。……こんなことを言うと、あなたは気を悪くされるでしょうが、和泉さん陣営は優秀な人が揃っています。彼らを仲間にできれば、我らの目的を果たせると思うのです」


 狐調は冷静に話す。


「……責任を認めた上で、次の行動を考えているということか……? その気構えは評価に値する。……認めたくはないが、奴らは強い。どう崩す……?」

 王誠の口調はだんだんと平静に戻る。


「そうですね……。そこは正直、私も思案しているところです」

 狐調は率直に返答したようだ。


「そうか……。……マナ知覚の覚醒者になり得る者を二人知っている。まだ、魔法を使える訳ではないが、俺のマナ知覚が奴らも同類だと告げている。そいつらを連れて来てもよいか?」


「それは僥倖ぎょうこうです。是非お願いしたいです」――。


 ◇◇◇


 翌日、上道院コーポレーション所有の道場にて。


「王誠、その怪我はどうした?」

 志之崎は心配した様子を滲ませながら、静かに尋ねる。


「大勢の喧嘩に巻き込まれてしまいまして……。ご心配ありがとうございます。そこまで酷くはないので、大丈夫です」

 王誠は作ったような笑顔を向けてくる。


「でも、痛そうだよ~。王誠君、今日は稽古お休みする?」

 美鈴が王誠の目を見て尋ねる。


「この程度、問題ない。それとお二人に相談があります。稽古が終わった夕方頃から、是非会ってほしい方々がいるのです。いかがですか?」

 王誠は丁寧に尋ねる。


「会ってほしい方々? 上道院関係か?」

 志之崎は短く言葉を返す。


「ええ、そうです。俺の剣術指南をしていただいている、志之崎師匠と、小鳥遊を紹介しておきたいのです。上道院家と懇意にしている剣術家系の者がいまして」

 王誠は真剣な表情を浮かべる。それは、研ぎ澄まされた刃のようにも見える。


「……分かった。行こう。美鈴はどうする?」

 志之崎は美鈴の目を見る。


「シノさんが行くなら、美鈴も行く! どんな人に会えるか楽しみだし!」

 美鈴は子どものように素直な笑顔を浮かべる。


「ありがとうございます……。では、稽古終わりに上道院の車で一緒に向かいましょう」――。


 ◇◇◇


 ――稽古が終わる。

 志之崎達三人を乗せた車は〝第三典両霊山〟へ向かう。

 そして、霊山の裏口に着く。


「……王誠、ここは第三典両霊山だよな。知り合いの剣術家が本当にいるのか?」

 志之崎は淡々と尋ねる。


「ええ、そうです……。とてもお世話になってる方がいます……」

 王誠は抑揚なく答える。


「……そうか。何か嫌な気配がする。王誠、念のための確認だ。お前を信じていいんだな?」


「はい。信じてください志之崎師匠」

 王誠は静かに、真っ直ぐ志之崎を見据える。


「……分かった、では先導してくれ王誠」


「分かりました。……貴様らはここで待っていろ」

 王誠は待機している黒服に声をかける。


 ◇◇◇


 前を歩く王誠から、五メートル程離れ、小声で志之崎は美鈴に話す。


「美鈴……俺の直感だが、この霊山からは嫌な気配を感じる。ずっと俺の傍にいろ。いいな?」

 厳しい口調ではあるが、できるだけ優しく伝えたつもりだ。


「うん! 美鈴も何となく変な感じするんだ」

 美鈴は志之崎の左側から、腕を組むようにひっつく。


「……美鈴? 俺の傍にいろとは言ったが、腕は組まなくていいぞ……」

 志之崎は少しばかり焦った口調で話す。


「えぇ……! あ、ごめんなさい。勘違いしちゃったかも……」

 美鈴は恥ずかしそうに顔を赤らめて一歩下がる。


「…………美鈴が好きなようにすればいい……」

 志之崎は立ち止まり一言呟く。


「えっ、あっ、じゃあ……」

 美鈴は小走りで志之崎の隣に来て、もう一度腕を組むようにひっつく――。


 ◇◇◇


 霊山の裏口から徒歩にて、三十分程が経過する。


「着きました。この屋敷の中に私の知り合いがいます」

 王誠は屋敷に片手を向ける。


「ここか……。……行くか……」

 志之崎は直感で感じていた。霊山から嫌な気配がしているのではない、〝この屋敷〟から嫌な気配がしているのだと……。


 だが、弟子が何かに巻き込まれていた場合、自分が助けてやらねばならないという想いがあり屋敷の門をくぐる。


 屋敷は外から見ても古めかしかったが、内装も同様だった。

 基本的には木造のようだ。所々、金属で補強してある。


 掛け軸が随所にある。妖怪のような絵や、複雑な漢字や象形文字が描かれている。他にも、まじない用と思われる、壺や魔除け札、水晶、宝石、人形、馬の土器、薬草などが置いてある。


「一番奥の大広間の部屋で皆さんお待ちです」

 王誠は歩いていき、美しい桜の描いてあるふすまを開ける。


 するとそこには、五人がいた。

 狐調、高上、深山、騎召、そして〝黒い影の塊〟だ。

 人の形をしてはいるが、異形のものだと視覚情報から判断できる。


 襖が閉められる音が後ろで聞こえる。


「おい王誠、この人……いやこの異形達は何者だ? 剣術家ではないように見受けられるが……」

 志之崎は冷静な声色だが、怒りの色も混ぜる。


「……俺の知り合いですよ……。志之崎師匠。まずは話を聞いてください」

 王誠の目は語っている。今からの行動次第では、命の保証はできないと……。


「美鈴、頭がくらくらする……。シノさん……」

 美鈴は志之崎の左腕により強くひっつく。


「……美鈴、安心しろ。何があっても美鈴は護る……」

 志之崎は静かに、だが言葉だけではない、覚悟が伝わるように声を出す。


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