五十一話 乱戦カフェ(終結)
場面は、晴夏が舞里と合流したところへ遡る。
晴夏は残り少ないマナを使い、舞里のサポートに徹していた。
舞里は《罪花魔法――食獣魔花》《飛痺花弁》を使ってあくまで、野村を確保するために攻撃している。
飛痺花弁は舞里の両手から創出する、麻痺性の花弁を高速で飛ばす魔法だ。空中に漂わせている花弁もある。
「ホッホッホ。新手の童もなかなかの使い手よのぉ。だんだんと、追い込まれてきたわい。得物なしじゃちと厳しいのぉ」
高上は床に落ちていた一本のナイフを素早く手に取る。
そして、高速の剣戟で飛痺花弁を叩き落しながら、舞里に近づいていく。
「舞里ちゃん! 多少のダメージは仕方ない……。食獣魔花で攻撃して! その後、拘束しよう!」
晴夏が舞里に声をかける。
「……そうだね。晴夏ちゃん……。食獣魔花……倒して……」
舞里の命令で食獣魔花は凶暴なツタでの攻撃を行う。
――野村に攻撃が当たる寸前の出来事だ。憑き物が落ちるように、野村はゆっくりと床に倒れ込む。
「食獣魔花! やめて!」
舞里がすぐに命令を出す。
野村へのツタでの攻撃は周囲に分散され、周辺にあった置物などを破壊する。
「野村先輩が解放されたってことは……!」
晴夏はすぐに高上がいたテーブルを見る。
そこには高上は既におらず、舞里に向かい疾風の如く突っ込んできていた。
右手には剣を持っている。
「させない……!」
晴夏は念力で正面から剣を止める。
しかし、高上の身体までは止めきれず、廻し蹴りを喰らってしまう。
「痛っ、まだ……!」
晴夏はすぐに立ち上がる、そこで予想外の状況を目の当たりにする……。
野村が晴夏の顔目掛けて、左手に纏った〝黒い塊〟を当てようとしているのだ。
まだ、憑依は完全に解けてなかったのか……。
ダメだ、間に合わない……。思わず目を閉じる。
しかし、何も感じない。
晴夏が目を開けると、舞里が庇うように攻撃を受けていた……。
攻撃が当たった舞里の胸部から、〝人魂のような形の黒い痣〟が広がっていく……。
「ま、舞里ちゃん……。嘘でしょ……。なんで……」
晴夏は野村を念力で払い退ける。
「良かった……。晴夏ちゃん無事で……。前に言ったでしょ……。私は晴夏ちゃんの力になるって……」
顔まで黒い痣が広がった舞里は、そのまま苦しげに呻き声を上げながら、気を失う。
「舞里ちゃん! 舞里ちゃん! ……高上……! お前は許さない……!」
晴夏は高上と野村を睨む。
そこで、違和感に気づく。
――晴夏は〝怒りの感情〟〝舞里を守りたい感情〟からマナ知覚力が大幅に引き上がっていた。だからこそ、気づけたのだろう。野村のついていた嘘に……。
「野村先輩……いや、『宮宇治狐調』……。騙していたのか、僕らを……」
晴夏は怒りで身体中が熱くなる。
初めてだ。人をここまで憎く感じたのは……。
「何を言っておるのじゃ……。この童はワシが憑依で操っておるのじゃぞ……?」
高上はすぐに否定する。
「……高上……あなたの心も読める。その言葉は嘘だ。宮宇治狐調……あなたは心がとても読みづらかった……。最初は魔法関連の被害で霊が憑いていたり、呪いがかけられているからだと思ってた。でもそれは違う。『今の僕』ならあなたの心で騒いでいる呪いの声の奥にある本心も読める」
晴夏は怒りをぶつけていく。
「あなたは『陰陽師一族、宮宇治家当主の一人娘』だ。そして固有魔法は《呪詛魔法》。『初めから自分に呪いをかけていた』んですよね? それで、僕の心を読む能力を防いでいた」
「……あなたの能力……やはり厄介ですね。推測ではありますが、『心を読む』『念力』の二種類でしょうか? もしくはまだ、隠し持っていたりするのかしら?」
野村……否、狐調は静かに答える。
「否定しないんですね……。狐調さん、疑ってなかった訳じゃなかった。でも、身体を歪に変えられてまで戦うあなたを見ていると被害者なのだと錯覚してしまった。黒幕はあなたですか? 当主? それとも上道院家? 拠点は?」
晴夏は情報収集に努めた。これ以上被害を増やしたくないからだ……。
「黒幕だなんて、そんな言い方しないでくださいな。でも、あなたと話していると、心に浮かんだことを読まれそうですね。こちらの不利になりそう……」
「狐調様、どうしますか? この童の能力、有用ですが厄介でもあります。殺しますか?」
高上が狐調の方を見る。
「高上……そのようなことをすぐに言わないでください。ただ、状況はこちらが非常に不利のようです。わたくし達以外は全滅してるようですから……」
狐調は仲間の状況を即座に確認したようだ。
「待て……逃がさない。舞里ちゃんを元に戻せ……!」
「それはできません。その方は今の私の切り札です。今から、仲間達を回収して離脱します。その邪魔をしないでください。そうすれば『呪いの浸食を遅らせます』。従わなければ、呪いの浸食を加速させます。『脳、心、魂』にまで浸食したら……お分かりになりますよね……?」
「ふざけたことを言うな……!」
しかし、晴夏は狐調の言葉が全て〝真実〟だと読めていた。
だからこそ、目の前から狐調と高上が移動するのを見届けるしかなかった……。
マナも底をつく……僕が弱いから守れなかったんだ……。
◇◇◇
その頃、洋平と裁奈は〝予想外の狐調からの襲撃〟に反応が遅れ、成尾を回収されてしまう。
一方、王誠に戦闘不能の傷を負わせようとしていた空乃の前に、高上が立ち塞がる。
空乃が高上と剣を交えている間に、王誠は絡瀬を連れて脱出する。
直後、挟み込むように、狐調が戦いに加わる。
空乃は思ってもいなかった、狐調の参戦に対応が遅れる。
結果斬撃を喰らい、一瞬の隙に逃走を許してしまった――。




