五十話 乱戦カフェ⑥
「なかなかやるなぁ、スーツメガネ!」
裁奈は荊絡蠢を主に使い戦っている。
広範囲魔法のため、テーブル等の物品がいくつも壊されていく。
「くっ、頑丈な魔法ですね。でも、負けられません。《制限水魔法――高圧水斬》……!」
絡瀬の両手から高圧の水の斬撃が複数放たれる。
斬撃は荊絡蠢をズタズタに斬り裂く。
そして、《強化水圧移動》で裁奈に近づき、《制限水魔法――一色の砲丸》を撃ち込んでくる。
裁奈は何とか躱す。
絡瀬はそのまま、突っ込み裁奈に手が届く距離まで来る。
「ハッ! 殴り合いすっか? メガネの坊ちゃん」
裁奈は《荊鞭》で絡瀬を一気に縛る。
しかし、〝絡瀬本体〟には届かない。
《一色の羽衣――水》が超高圧のバリアとなっているからだ。
「申し訳ありませんが、急いでいますので。《合成魔法》《制限水魔法×束縛魔法――束水破縛》」
詠唱と同時に裁奈の全身を〝水の縄〟が束縛する。
……束縛というよりは、ごく短時間で水の縄が幾重にもなり、もはや〝水の塊〟となる。
それぞれの〝縄〟が超高圧で締め付ける。裁奈は息ができなく、かつ身体中が軋む……。
クソッ、見誤った……。このままじゃ、圧死か窒息死だな。一点集中で全力の一撃を放ち、穴をあけるか……? だが、スーツメガネの魔法の特性は水の縄での〝束縛〟が本質。
縄の一部を破壊しても、すぐに残りの水で補充して束縛が再開されるだけかもしれん……。
裁奈が思案していると、ふと視界に洋平が映る。
ふらつきながら何かを言っている。
何を言ってるか分からんが、アンタなら信じるだけの価値がある……。
裁奈は頷く。
◇◇◇
「裁奈さんに声は届いたのか……? まあ、関係ねェ。おそらく、コレで魔法そのものを無効化できるはずだ……。《体質同調魔法》……!」
洋平の身体は目の前の《制限水魔法×束縛魔法》そのものに変化する。
人間の形を保った〝水の塊〟と化した洋平は、身体全体を使い束水破縛に飛びつく。
全く同じマナとなっているため、洋平の身体に〝取り込む現象〟が起きる。
洋平の身体中の傷を埋めるように、洋平の血肉となるように束水破縛は少しずつ小さくなっていく……。
「おい……おい! 和泉、いつまでそうしてる気だ!」
裁奈の声で目を開ける。
すると、そこにはやや顔を赤くした裁奈の顔が十センチメートル先にあった。
「あっ! ごめんなさい、裁奈さん。早く助けようと思って集中してたら、裁奈さんに抱きついてました……」
洋平はしばき回されると思い、声を震わせる。
「…………そうか……。良くやったぞ、駄犬……」
裁奈はそう言い、顔を背ける。
「すみません。決して、抱きつきたかった訳じゃないんで……」
洋平は言い訳を重ねる。
「……そう言われると、それはそれでムカつくな……」
裁奈はどこかいつもと違う雰囲気だ。
「えェ……何て答えるのが正解なんすか……。あ、スーツメガネどこ行きました?」
洋平はカフェ内を探す。
すると、思いも寄らない光景が目に映った。
絡瀬が空乃に忍刀で八つ裂きにされているのだ――。
◇◇◇
「これでトドメってタイミングで出てきましたね……。絡瀬先輩……」
空乃は無慈悲に声をかける。
「一臣! なんで出てきた一臣ィィ!」
王誠は血まみれの身体で絡瀬を抱きかかえる。
「……上道院家……いえ、王誠様の側近として……盾となり矛となるのが私の使命……。『月下空乃との戦いに邪魔が入らぬようにせよ』という……ご命令守れず……申し訳ございません……。王誠様が……血を流す姿を見ていると……身体が勝手に……動いてしまい……ました……」
絡瀬はそのまま動かなくなる……。
「一臣! 一臣ィィイイイ! ……下民、許さぬぞ……! 殺してやる……! 必ず殺してやる……!」
王誠は殺意を身体中から空乃に向ける。
「……死なない程度には加減してます。でも、私達の平和を脅かすなら、死なない程度に壊します。王誠先輩、あなたもね……」
空乃の目には感情がない。
傷を負ったターゲットが映っているだけだ――。




