五話 信用のない男
翌朝、いつものように、自宅前で晴夏に抱きつかれる。
「痛てて。飽きないな~、晴夏」
「そうだね~。飽きないね~。というかごめんね。傷痛いよね……」
晴夏は無邪気な笑顔だが、心配そうに声を出す。
「流石に一日じゃ治らねェな……」
洋平は絆創膏を両頬二ヶ所に貼っている。
長袖長ズボンでできるだけ傷が見えないようにしてはいるが、体中ガーゼと包帯だらけだ。
大学に到着し、すぐに空乃のもとへ行く。
「おはよう、空乃。ちょっと話いいか?」
手を軽く振りながら声をかける。
「これはこれは、隠しきれない魅力の和泉君じゃないですか……。どうだったの昨日のデートは?」
空乃は茶化すように話す。
「いや~、そのことで話があってな……。授業まで二十分くらいあるだろ? ベンチで話聞いてくれないか?」
「いいですよ、和泉君。晴夏も一緒でいいのかな?」
空乃は晴夏の方を気にして見る。
「大丈夫。むしろ、一緒に聞いてほしいくらい」
洋平は晴夏に目くばせをする。
◇◇◇
――ベンチにて。
「空乃、単刀直入に言う、深山リカは危険だ。サークルにも行くな」
洋平は真面目なトーンで伝える。
「え? 何言ってんの……? あ、そのほっぺの傷、深山ちゃんにつけられたんだね? 和泉君、普段ビビりの癖にがっついちゃったんだ……?」
空乃はまだ、からかうような口調だ。
「やれやれ……普段ふざけ過ぎて俺には信用というものがねェみたいだな……。晴夏くん、説明してくれたまえ」
晴夏に説明の助け舟を求める。
「仕方ないね。僕が説明するよ。ヨウ君さ……深山さんに襲われたんだよ。……ナイフで」
本当はナイフじゃないが、魔法の説明は空乃にしても受け入れがたいだろう。
晴夏と相談してナイフで襲われたということにした。
「え? ナイフ? 冗談だよね?」
空乃は洋平も晴夏も真面目な顔で話すため、顔色が変わる。
「……本当なんだ。俺も最初は、俺の有り余る魅力に惹かれた女の子だと思ってた。けど、本性はナイフで人を傷つけるのが趣味のイカれた女だった。だから、しばらくでいい。サークル休んでくれないか?」
洋平は真っ直ぐ空乃を見つめる。
「えぇ……。そんなこと急に言われても……。しばらく休むって言っても深山ちゃんはどうするの? 警察に任せるとか?」
空乃が心配そうに尋ねる。
「そのことなんだが、深山は証拠を一切残してねェ。警察に頼むのも今の段階じゃ難しいんだ。しばらく俺と晴夏で深山を見張る。証拠が掴めたタイミングで通報するよ」
「……そんなことになってたなんて……。ごめんね。私が連絡先教えたから……」
空乃は目を潤ませている。
「おいおいおい……。空乃泣くな。俺はあのメッセージもらって舞い上がってた。あんな美人に誘われたら誰でも食事くらい行くよ。だから、自分を責めるな」
あたふたしつつ、空乃は悪くないということを伝える。
「そうだよ、空乃ちゃん。空乃ちゃんは絶対悪くない。片が付いたら、僕らから伝えるから気にしないで……」
晴夏も優しく声をかける。
「……うん。分かった。サークルは休むよ。何かあったら私にも言ってね。協力するし」
空乃は心配そうに言葉にする。
◇◇◇
テニスサークルを洋平と晴夏で見に行く。
しかし、深山の姿はなかった。
サークルのメンバーにも聞いてみたが、今日はそもそも大学に来ていないとのことだった。
「ヨウ君、深山さんは昨日のダメージで休んでるのかな?」
晴夏が尋ねる。
「そうかもしれねェし、正体がバレて学校に来てないのかもだな。どっちみちしばらくは見張ってないといけねェな……」――。