四十八話 乱戦カフェ④
「ふざけるな!」
晴夏は高上を直接念力で狙う。
刹那、超高速で接近した〝邪悪な怪異〟から全身に打撃を受ける。
「がっ…………。早い……。ただの人間の速度じゃない……。……高上ぃ!」
床に倒れた晴夏はすぐに立ち上がる。
「おお、かなり強く打撃を入れたのじゃが、やるのぉ。さて、ワシ本体を狙われても厄介じゃ、このまま押し切らせてもらうぞい」
高上は戦闘態勢を取る。
「野村先輩、守れなくてすみません。そして、傷つけることになることを許してください……」
祈るように言葉を紡ぐ。
次の瞬間から、晴夏は野村を〝敵〟だと認識し戦う覚悟を決める。
晴夏は念力をフルに使い戦う。
《念身体強化》で身体能力を強化しつつ、《念打撃、念握撃、念斬撃、念動力》を使い攻撃を繰り返す。
対して、高上は〝人魂のような形の黒い痣〟が現れてから跳ね上がった身体能力で、晴夏の攻撃を躱したり、打撃で相殺する。
念力は目には見えないが、マナ知覚ができる者であれば、晴夏のモーションを見ていれば何となく分かるのだろう……。
だんだんと、晴夏はマナを消費し、追い込まれていく……。
「ホッホッホ。この身体は非常に動きやすい。多少無理な動きをしても問題ない。ワシ本体よりも良いくらいかもしれぬな……」
高上は愉快そうに言葉を発する。
「はぁはぁ……。いい加減にしろ……! これ以上、他人の身体を弄ぶな!」
晴夏は高上を睨み付ける。
「ホホ、ヌシが諦めて大人しくついてくるなら良いぞ。まあ、その目をしているうちは諦めることはないじゃろうがのう……」
高上は余裕そうな口振りだ。ただし、構えに一切の隙はない。
ダメだ……。コレ以上は僕のマナが持たない……。
高上の動きを捉えるために《念身体強化》にマナを使い過ぎている。
どうすれば野村先輩を助けられる……?
「辛そうじゃの? そろそろ終わりにするか……」
高上が更に一段速度を上げる。
近くにあったイスを晴夏に向かい投げ放ち、イスを超える速度で背後に回り込む。
「終わりじゃ……」
高上の声が聞こえる。
晴夏は目の前のイスを念打撃で弾くことで精一杯だった……。
――次の瞬間、高上は〝複数のツタ〟に押し出され、そのまま縛り上げられる。
「大丈夫、晴夏ちゃん? 遅くなってごめんね」
そこには、息を切らしている舞里がいた。
「舞里ちゃん……。ありがとう、助かったよ!」
晴夏はすぐに感謝を述べる。
「このカフェ周辺に召喚獣が複数いて、倒した後に来たから遅くなったんだ……」
「召喚獣……。ということは、前にヨウ君が言ってた、赤い和服の人もいたの?」
「赤い和服の人はいなかった。もしかしたら、近くにいるのかも。とにかく、今の状況はあまり良くないよ。早いところ片を付けよう。裁奈さんは和泉君の方を助けにいった」
舞里はカフェ全体の戦況も確認する。
「ホッホッホ。新手か。それを考慮して召喚獣を配置したのじゃが、思いのほか早かったのぉ」
高上はそう言いながら、ツタを一気に引きちぎり、地面に降り立つ。
「あの女性が野村先輩なんだけど、高上に憑依されててとても強い……。野村先輩には悪いんだけど、多少怪我させてでも止めたい。舞里ちゃん協力してくれる?」
「そっか……。分かった。もちろん協力するよ、晴夏ちゃん」
舞里は〝女装していない晴夏〟の目を真っ直ぐ見て答える――。




