四十七話 乱戦カフェ③
――時は八分程遡り、晴夏が憑依された野村と戦い始めた頃。
「野村先輩すみません。動けないように拘束します」
晴夏は静かに話す。
「ホッホッホ。この身体を傷つけて良いのか? ヌシらの知り合いなのではないか?」
野村に憑依した高上は相変わらずの調子で話している。
「……野村先輩の心は読み取りづらい。霊とか呪いみたいなのが騒いでるからね。でも、王誠先輩の心は短い時間だったけど、読むことができた。『この下民共を連れて来て、何のつもりだ……?』って言ってたけど、あれ嘘だよね」
晴夏は一度息を吸い直す。
「本心は『予定通りだな』だったよ。高上さんの心は読めてないから確定ではないけど、元々僕らが来ること知ってたんじゃない?」
「……ヌシの魔法は何じゃ? 『心を読む魔法』か……? たしか前にも一度、ヌシとは憑依した瓜生の中で会ったことがあったのぉ」
高上は単純に疑問を尋ねている様子だ。
「さぁね……。あと、今の話否定しないんだね……。だったら、どこから情報が漏れたか。可能性は三つ。一つは野村先輩本人。でも、今こうして高上さんに乗っ取られてる。まあ、それすら演技の可能性もあるけどね。二つ目は僕らの仲間のうちの誰か。でもそれは、僕が確認してるから有り得ない。三つ目、高上さんが使う《憑依魔法》で野村先輩に前回会った、十四日前から憑依、もしくは別の手段で『心に潜んでいた』。僕はこのどれかだと思ってる。どれか合ってるのあります?」
晴夏は淡々と尋ねる。
「ヌシはなかなか頭が回るようじゃの。じゃが、答えん。ワシの質問にも答えておらぬしな。まあ、答えたところで教えぬがな……」
「そうですか……。今のあなたは変わらず心が読みづらい。何が本音か分からない。高上さんが憑依しているのも関係ありそうですけどね……」
「ホッホッホ。面白い童じゃのぉ。是非とも仲間にほしいくらいじゃ」
「あなた達はマナ知覚の覚醒者を集めて何がしたいんですか?」
「仲間になれば教えよう。そうでないなら、教えられぬ。どうじゃ、争わずに仲間になるというのは……?」
「……あなた達のやり方は危険すぎる。そんなやり方をする人達の仲間になんてなりませんよ」
晴夏は冷淡に答える。
「そうか……。では、実力行使じゃ。倒してみたまえ」
高上は突っ込んでくる。
「……《念鎖縛……》」
晴夏は両手を高上に向けて、〝鎖〟で縛り上げるイメージで念力を使用する。
高上は急に〝見えない鎖〟に絡め取られた感覚なのだろう。その場で転倒する。
「ほぉ……心を読む魔法だけではないのじゃな。『見えない鎖』か? 何やらよく分からん魔法じゃな。魔法適性が多いのかのぅ」
高上は焦ることなく予測を述べている。
「これで終わりですよ。野村先輩の力じゃ抜け出せない……」
晴夏はできるだけ、野村が傷つかないように、手加減をする。
「ホッホッホ! 随分と傲慢じゃな、童! この程度で捕らえたつもりとは……!」
高上は身体中に力を入れたのだろう……。〝野村〟の身体はビキビキと歪な音を立てる。
「なっ! 止めろ! 野村先輩の身体が持たない! 仕方ない、気絶させるしか……」
そこで思い出す。以前瓜生が高上に憑依されていた際に、洋平が気絶させるつもりで瓜生の顎を打ち抜いたが、憑依はそのまま続いたことを。身体への大きな負荷と共に……。
「くっ、だったら高上さん、直接あなたを狙います……」
晴夏は振り返り、眠っている高上目掛けて、念力を使おうとする。
瞬間、念鎖縛が一気に弾け飛ぶのを感じる。
「ヌシの魔法なかなか強力じゃったよ……。この力も使わねばならぬとは……」
野村の身体中に〝人魂のような形の黒い痣〟が現れる。
「それは一体……。高上……! 野村先輩に何をした!」
晴夏は怒りの咆哮を上げる。
「ホホ、念鎖縛とやらを振り払ったまでよ……」
もはや、野村の身体に元の美しさはなかった。あるのは、邪悪な怪異のような妖しさだけだ……。




