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マナの天啓者  作者: 一 弓爾
調査
43/102

四十三話 日本人形のような雅な女

 三日後の月曜日。つまり、王誠が志之崎に弟子入りした日より二週間後。


 典両大学内にて。


「いや~、にしても大学では特に変わったことがねェな。まあ、平穏なのが一番ではあるんだけどよ……。王誠、絡瀬、深山も学校来ねェしな」

 洋平は二人に話しかける。


「そうだね~。この平穏が続くことが一番だけど、何の進展がないのも逆に怖いよね……」

 晴夏が洋平の意見に賛同しつつ、不安も述べる。


「……ちょっと考えてたんだけど、典両大学三大美女、美男にマナ知覚者が多いよね? 何か関係あるのかな?」

 空乃が疑問を投げかける。


「そういや、そうだな。……美男美女じゃねェと、マナの知覚はできねェってのか。神も外見至上主義ルッキズムなんか? ムカつく話だぜ。人は見た目だけじゃねェってのによォ」

 洋平は天に向かい文句を言う。


「いや……美男美女だけしか魔法使えなかったら、ヨウが使えるのおかしくない……? いつも寝ぼけた顔してるし」

 空乃は真面目な顔で呟く。


「おいおいおい。空乃、寝ぼけてんのはお前ェじゃねェのか? そういう人を傷つけること言うの良くねェぞ……。俺だって一応身だしなみ気にしてんだから……」

 洋平は悲しげに応える。


「そうだよ、空乃ちゃん。ヨウ君の魅力は顔だけじゃないよ! 人の変化に気づけるところとか、お腹空いた時にそっとクッキーをくれるところとか、優しい心が魅力なんだ! 挙げだしたら、半日かかるけど、とにかく顔だけが人の魅力じゃないよ!」

 晴夏は熱く語り始める。


「晴夏ァ、ありがとな……。地味に顔は良くないって言われてる気もするけどな……」


「えぇ? 顔も良いよ! 僕は好きだし。でも、ヨウ君には魅力がたくさんあるから、語るには顔はノイズになるんだよ!」


「ちょいちょいちょい。それ、間接的に顔は良くないって言ってない? 俺二人にいじめられてない? 軽く涙出そうなんだけど……」

 洋平は先程文句を言っていた天を仰ぐ……。


「そんなことないよ! ヨウ君に魅力が多すぎるんだよ! 全く、瓜生先輩に認められたオムファタールには困ったもんだよ……」

 晴夏は両方の手の平を上に向け、やれやれと言っている。


「……何だよ……。そこまで言われると悪ィ気はしねェな」

 洋平は後頭部へ手を回す。


「……ヨウって色んな意味で単純だよね……」

 空乃はやや目を細める。


「どういう意味だい? 空乃さん?」


「そのままの意味ですよ、和泉君? まあ、おふざけはココまでにしよう。それと気になってることがあってさ。今日知ったんだけど、三大美女の一人の小鳥遊美鈴ちゃんも二週間前から、学校来てないんだって……。マジックサークルの人に聞いてみたら、『修行』に集中するためにしばらく学校を休むって言ってたみたい……」

 空乃は嫌な想像をしている表情だ。


「修行って……。美鈴マイエンジェルもマナ知覚の覚醒者の可能性があるってことか?」


「ヨウ、何勝手なこと言ってんの? 美鈴ちゃんは私のエンジェルなんですけど?」


「おいおいおい、勝手なこと言われちゃ困るぜ、空乃さんよォ。マイエンジェルだよ!」


「ちょっと二人共! 話進まないから、おふざけ禁止! 美鈴ちゃんはみんなのエンジェルです!」

 晴夏が話を軌道修正する。


「おう……。んで、美鈴ちゃんもマナ知覚の覚醒者の可能性があるとしたら、残る三大美女の一人、野村狐調のむらこちょう先輩も覚醒者かもしれねェってことか……」

 洋平は推測を口にする。


「そう、可能性はあると思う。……この後さ、野村先輩探してみない? 野村先輩は三年生で応用科学科なんだよね。テニスサークルの先輩に応用科学科の人いるから、どこにいそうか聞いてみようかな」

 空乃がスマホを取り出し操作し始める。


 洋平と晴夏が同意し、空乃がサークルの先輩にいそうな場所を聞く。

 結果、今日ならゼミ室にいると思うとの返信があった――。


 ◇◇◇


 野村の所属するゼミ室にて。


「すみませ~ん。野村狐調さんいますか? お尋ねしたいことがあって~!」

 空乃がドアをノックし、入口から声を出す。


「野村はわたくしです。どうかなさいましたか?」


 大人びた雰囲気の一歳年上とは思えない美しい女性が返事をする。顔の輪郭は逆三角形、細く高い鼻が特徴的だ。そして、細長いつり目がクールな印象を抱かせる。黒髪セミロングであり、前髪を眉上で横にぱっつんと切っている。面妖な雰囲気を纏う雅やかな日本人形のようだ。身長は一六〇センチメートル程。服装は黒のロングスカートにベージュのセーターを合わせている。


「あ! 野村さん! お会いできて光栄です! 月下空乃です!」

 空乃が非常に嬉しそうに駆け寄っていく。


「あら、お会いしたことありましたか?」

 野村は首をかしげる。


「いえいえいえ! 私が一方的に知っていただけです。実際にお話したのが初めてで嬉しくてつい……」

 空乃は恥ずかしそうに頭をかく。


「そうだったのですね。今、ちょうど資料整理が終わったので、お話することできますよ。隣に空き部屋があるので、そちらで話しますか?」

 野村は丁寧に対応する。


「おす。お願いします!」

 空乃は緊張してるのか、謎の返事をしている。


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