四十三話 日本人形のような雅な女
三日後の月曜日。つまり、王誠が志之崎に弟子入りした日より二週間後。
典両大学内にて。
「いや~、にしても大学では特に変わったことがねェな。まあ、平穏なのが一番ではあるんだけどよ……。王誠、絡瀬、深山も学校来ねェしな」
洋平は二人に話しかける。
「そうだね~。この平穏が続くことが一番だけど、何の進展がないのも逆に怖いよね……」
晴夏が洋平の意見に賛同しつつ、不安も述べる。
「……ちょっと考えてたんだけど、典両大学三大美女、美男にマナ知覚者が多いよね? 何か関係あるのかな?」
空乃が疑問を投げかける。
「そういや、そうだな。……美男美女じゃねェと、マナの知覚はできねェってのか。神も外見至上主義なんか? ムカつく話だぜ。人は見た目だけじゃねェってのによォ」
洋平は天に向かい文句を言う。
「いや……美男美女だけしか魔法使えなかったら、ヨウが使えるのおかしくない……? いつも寝ぼけた顔してるし」
空乃は真面目な顔で呟く。
「おいおいおい。空乃、寝ぼけてんのはお前ェじゃねェのか? そういう人を傷つけること言うの良くねェぞ……。俺だって一応身だしなみ気にしてんだから……」
洋平は悲しげに応える。
「そうだよ、空乃ちゃん。ヨウ君の魅力は顔だけじゃないよ! 人の変化に気づけるところとか、お腹空いた時にそっとクッキーをくれるところとか、優しい心が魅力なんだ! 挙げだしたら、半日かかるけど、とにかく顔だけが人の魅力じゃないよ!」
晴夏は熱く語り始める。
「晴夏ァ、ありがとな……。地味に顔は良くないって言われてる気もするけどな……」
「えぇ? 顔も良いよ! 僕は好きだし。でも、ヨウ君には魅力がたくさんあるから、語るには顔はノイズになるんだよ!」
「ちょいちょいちょい。それ、間接的に顔は良くないって言ってない? 俺二人にいじめられてない? 軽く涙出そうなんだけど……」
洋平は先程文句を言っていた天を仰ぐ……。
「そんなことないよ! ヨウ君に魅力が多すぎるんだよ! 全く、瓜生先輩に認められたオムファタールには困ったもんだよ……」
晴夏は両方の手の平を上に向け、やれやれと言っている。
「……何だよ……。そこまで言われると悪ィ気はしねェな」
洋平は後頭部へ手を回す。
「……ヨウって色んな意味で単純だよね……」
空乃はやや目を細める。
「どういう意味だい? 空乃さん?」
「そのままの意味ですよ、和泉君? まあ、おふざけはココまでにしよう。それと気になってることがあってさ。今日知ったんだけど、三大美女の一人の小鳥遊美鈴ちゃんも二週間前から、学校来てないんだって……。マジックサークルの人に聞いてみたら、『修行』に集中するためにしばらく学校を休むって言ってたみたい……」
空乃は嫌な想像をしている表情だ。
「修行って……。美鈴もマナ知覚の覚醒者の可能性があるってことか?」
「ヨウ、何勝手なこと言ってんの? 美鈴ちゃんは私のエンジェルなんですけど?」
「おいおいおい、勝手なこと言われちゃ困るぜ、空乃さんよォ。マイエンジェルだよ!」
「ちょっと二人共! 話進まないから、おふざけ禁止! 美鈴ちゃんはみんなのエンジェルです!」
晴夏が話を軌道修正する。
「おう……。んで、美鈴ちゃんもマナ知覚の覚醒者の可能性があるとしたら、残る三大美女の一人、野村狐調先輩も覚醒者かもしれねェってことか……」
洋平は推測を口にする。
「そう、可能性はあると思う。……この後さ、野村先輩探してみない? 野村先輩は三年生で応用科学科なんだよね。テニスサークルの先輩に応用科学科の人いるから、どこにいそうか聞いてみようかな」
空乃がスマホを取り出し操作し始める。
洋平と晴夏が同意し、空乃がサークルの先輩にいそうな場所を聞く。
結果、今日ならゼミ室にいると思うとの返信があった――。
◇◇◇
野村の所属するゼミ室にて。
「すみませ~ん。野村狐調さんいますか? お尋ねしたいことがあって~!」
空乃がドアをノックし、入口から声を出す。
「野村はわたくしです。どうかなさいましたか?」
大人びた雰囲気の一歳年上とは思えない美しい女性が返事をする。顔の輪郭は逆三角形、細く高い鼻が特徴的だ。そして、細長いつり目がクールな印象を抱かせる。黒髪セミロングであり、前髪を眉上で横にぱっつんと切っている。面妖な雰囲気を纏う雅やかな日本人形のようだ。身長は一六〇センチメートル程。服装は黒のロングスカートにベージュのセーターを合わせている。
「あ! 野村さん! お会いできて光栄です! 月下空乃です!」
空乃が非常に嬉しそうに駆け寄っていく。
「あら、お会いしたことありましたか?」
野村は首をかしげる。
「いえいえいえ! 私が一方的に知っていただけです。実際にお話したのが初めてで嬉しくてつい……」
空乃は恥ずかしそうに頭をかく。
「そうだったのですね。今、ちょうど資料整理が終わったので、お話することできますよ。隣に空き部屋があるので、そちらで話しますか?」
野村は丁寧に対応する。
「おす。お願いします!」
空乃は緊張してるのか、謎の返事をしている。




