四十二話 舞里の過去
「…………嬉しい。ありがとう晴夏ちゃん……。もし良かったら、私の話も聞いてくれる?」
舞里は涙を零しながら尋ねる。
「いいよ! 何でも言って!」
「……だいぶ前に言ったと思うんだけど、私は大学に入ってしばらくして、ストーカーに家に押し入られて襲われたことがある……。とても怖かった……。力で無理やり押さえつけられて、恐怖でフリーズして抵抗すらできなかった。相手はそれを同意だと取ったみたいで、犯されそうだった……。そこに裁奈さんが偶然来てくれて、助かったんだけどね……」
舞里は震えながらも声にする。
「……舞里ちゃん、本当に辛い目に遭ったんだね……。聞いてるだけでも、恐怖と怒りを感じるよ……」
晴夏は怒りが抑えきれていないことを自覚する。
「そんな顔してくれるんだ。……ありがと。その事件以来、〝私の心、魂は死んだ〟……。生きてるのは〝ただの肉体〟だけだと感じてた……。……私にとって男の人は『同じ種族の人間ではあるけど、別の生き物』だ……。男女には大きな違いがある。脳の作り、考え方、体格や力、見た目、性欲、闘争心……。それらは私にとっては、恐怖の対象でしかない。だから怖いんだ……」
「舞里ちゃん……。そうだよね……男女では何もかもが違う。その差異に恐怖を感じることも理解できる……」
そう言う自分は〝男〟だ。あくまでも想像して理解できるだけ。
本当に舞里ちゃんが感じていることは一生分からないのだろう……。
「あ、ごめんね。晴夏ちゃんが嫌だとか言いたい訳じゃないからさ。……でも、そんな状況から裁奈さんが救ってくれた。裁奈さんと会ったのは事件の時が初めてだったんだ。襲われてるのに気づいた裁奈さんは、ストーカーの頭を掴んで部屋の外に投げ飛ばした。そしてすぐに私にコートを掛けてくれた。……外ではストーカーの悲鳴が一瞬だけ聞こえてた……。裁奈さんは手に付いた血を隠しながら、『もう片付けたから安心しろ。警察も呼んでる』って言ってくれた」
当時の裁奈のことを思い出したのか、舞里は少しばかり笑う。
「裁奈さんに最初に会った時に助けてもらったんだね。本当に良かった……。それ以来、裁奈さんとは一緒にいるの?」ふと気になった点を質問する。
「少し間を空けて会う出来事があったんだ。事件の数日後から、病院に行ってカウンセリングを受けて治療してたんだけど、事件の一週間後にマナ知覚に覚醒した。もしかしたら、襲われた時には覚醒してたのかもだけどね……。その時に、裁奈さんが『困ったら電話してくれ』ってくれてた名刺を見て電話した。運良く裁奈さんは天啓者であり、魔法が使えた。それ以来、カウンセリングも受けつつ、裁奈さんに魔法の扱いを教えてもらうことになったんだ」
「なるほど。マナ知覚に覚醒して、裁奈さんと一緒にいるようになったんだね……」
「そう……。当時は何回もフラッシュバックして、すごく大変だったんだ……。そんな中、裁奈さんは『アタシがいる。安心しろ。守ってやる』って何度も何度も抱きしめてくれた……。裁奈さんは探偵のお仕事もあるのに、合間を縫ってずっと私を支えてくれた。男の人と話すのは本当に嫌だけど、今では何とか話せるようになった。全部裁奈さんのおかげだ……。私も晴夏ちゃんと同じように、救われた人なんだ……」
舞里は真っ直ぐ晴夏の目を見つめる。
「そうだったんだ……。舞里ちゃん、本当に大変だったね……。あと、舞里ちゃんには何となく僕と似たところがあるな~って思ってたんだ。今の話を聞いて何が似てるのか分かったよ。二人共助けてくれた恩人がいて、その人の助けになりたいって思ってるところだったんだね」
晴夏はゆっくりと微笑む。
「そうだね……。私もなんで晴夏ちゃんを選んだのか、『本当の理由』が分かった気がする……。ありがとね、晴夏ちゃん。あなたに出会えて本当に良かった。私の代わりがいないって言ってくれたのもすごく嬉しかったよ」
舞里は心の底からの笑顔を見せてくれる。
「ううん、こちらこそだよ! 舞里ちゃんに会えて僕も良かった!」
晴夏も笑顔を返す。
「晴夏ちゃん……。これからもずっと…………」
舞里は続きの言葉に迷っているようだ。
「これからもずっと……?」
晴夏はキョトンとしながら問い返す。
「これからもずっと……友達でいてね……」
「うん! ずっと友達だよ! 舞里ちゃんには助けてもらってばかりだから、今度は僕が力になるね!」
「…………うん。私は晴夏ちゃんが大切……。私も晴夏ちゃんの力になるよ……」
二人で微笑み合う――。




