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マナの天啓者  作者: 一 弓爾
天啓
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四話 銀髪美女との食事

 深山と会う約束をした日曜日になる。


 今日はイタリアンでディナーを食べながら話す予定だ。


 洋平が待ち合わせ場所の駅改札で待っていると、銀髪の美少女が走ってくる。


「ごめんなさい。お待たせしてしまいましたか?」

 

 息を切らす姿すらも美しく感じる。


「いえ、俺も今来たところです」


 本当は一時間前から待機してたけど……。


 ◇◇◇


 予約していた店に着き、各々好きなパスタについて話しながら注文する。


「深山さんは何で俺と話したいって思ったんですか?」


 洋平は率直な疑問を投げかける。


「え……それ聞いちゃいます?」


 深山は恥ずかしそうに顔を赤らめる。


「う~ん、この間が初対面ですよね? 流石に気になります」


 真面目なトーンで返答する。


「初対面じゃないですよ? 何回かテニスサークル見に来てますよね? 私、どこのサークルに入ろうかなって悩んでる時に、和泉先輩のこと見かけたんです。そこで、雰囲気が気になる人だなって思ってて。それで、テニスサークルに入ったんです。てっきり和泉先輩もテニスサークルなのかと思ってたんですけど……」


 深山は視線をわずかに落とす。


「そうだったんですね。まあ、今の話だと俺は深山さんのこと認識してないんで、結局初対面みたいなもんですけどね」


 笑いながら言葉を返す。


「あ、そうでした! すみません。私思い込み激しくて……」


「いえいえ、大丈夫ですよ。そんな風に言われたことも初めてなので、嬉しいです」


「そう言ってもらえると良かったです! 和泉先輩はテニスとか興味ないですか?」


「俺はスポーツとか苦手なんで……。深山さんは昔からテニスしてたんですか? 空乃がテニス上手だって褒めてましたよ?」


「え! 月下先輩がそんなこと言ってくれたんですか? 嬉しい……。月下先輩テニスすごく上手なので、素直に嬉しいです!」


 深山は顔を綻ばせる。


「空乃ってテニス上手いんだな。たしかに運動神経いいもんな」


「そうなんです! 月下先輩とは昔からの知り合いですか?」


「空乃は高校が一緒だったんだ。高校時代から活発だったから、色々振り回されたよ……」


「え~! そうなんですね! 先輩達の高校時代の話聞きたいです」


「興味ある? じゃあ入学式の日に、ギリギリ到着した俺と空乃がぶつかって、運悪く俺の顎に空乃の肘が入って気絶した話から……」――。


 ◇◇◇


「いや~、和泉さんと話すの楽しかったです! ぜひまた行きましょう!」

 

 深山は嬉しげに声を上げる。


「こちらこそ、楽しかったです。また行きましょう」

 

 洋平も笑顔を返す。


「あの……ちょっと寄りたい所があって、まだ時間あります?」


 深山は上目遣いで尋ねる。


「いいですよ。どこですか?」


「近くなんですけど、うろ覚えなんでちょっと歩き回るかもです……」


「大丈夫ですよ」そう返答し、深山についていく。


 だんだんと人けのない路地に出ていく……。


「もうすぐ着きますか?」


 深山に尋ねる。


「そうですね。ここまで来ればちょうどいいと思います」


 深山の金の瞳がキラキラと輝く。


 深山は少しずつ近づいてくる。


「深山さん……?」


 洋平が疑問を投げかけるも深山はそのまま近づく。


 鼻先が顔に当たりそうになる。


「和泉先輩……」


 深山はそう言い腕を伸ばしてくる……。


 直後、金属音が響く。


「その人から離れて……!」


 振り返ると、ブロンドのウェーブのかかったロングヘア。丈の短めのワンピースにロングカーディガンを着た可愛らしい女がいた。


「空き缶? 危ないじゃないですか?」


 深山は金の瞳を女の方に向ける。


「ヨウ君、だから危ないと思うよって言ったのに」

 女……ではなく女装した晴夏が声を出す。


「ありがとな、助かった。直前までどういうつもりなのか分からなくてよ……。今の隙で、深山さんの両手が『獣の手』みたいになってて、俺の脇腹を狙ってるのが分かったから『黒』だわ」


 洋平は淡々と話す。


「……和泉先輩。私のこと疑ってたんですか?」


 深山は潤んだ瞳で問いかける。


「悪いですけど、俺女性からの評価低いんすよ。何で俺みたいな男に、あなたみたいな綺麗な子が食事に行きたいって言ったか……。考えれば答えは一つです」


「ヨウ君、もしかしたらがあるかも、って三回くらい言ってたけどね」


 晴夏がすかさず言葉を刺す。


「晴夏……それは言わないお約束だろ? 何か恥ずいじゃん……」


「はぁ……。『独特な匂い』がしたからマナ知覚の覚醒者とは思ったけど、二人もいたのか……。奥にいるあなた、香水使ってるね。匂いじゃ分からなかった」


 深山の口調が変わる。


「とりあえず、深山さん。お前ェらは何者だ?」


 洋平は距離を取りつつも尋ねる。


「お前ェら? 私は匂いを見極めてるだけよ?」


 次の瞬間、高速で洋平に〝獣の爪〟での攻撃が襲い掛かる。


「くっ……《体質同調魔法――けもの》……!」

 洋平の両手は獣の手に変わる。

 そして、攻撃に対応しようと構える。


「え? あなたも?」深山の驚いた顔が見える。


 しかし、直後洋平は上半身を中心に、爪痕が複数刻み込まれる。


「クソ痛ってェな……。体質同調してなかったら、腕千切れてたぞ……。それに速ェ……」


 いざ戦闘となると、流石に厳しいか。


「……あなた、もしかしてかなり弱い……?」


 深山が落胆したような声を出す。


「いや……弱ェ振りかもしれねェぞ? それに俺にばっか構ってていいのか?」


「そうだね……」


 深山は晴夏の放った空き缶を〝見ることなく〟避ける。


「ある程度速いけど、匂いで分かる。それに私にとっては遅いくらい」


 深山は淡々と話す。


「じゃあ、こんな攻撃はどう?」


 晴夏が両手を深山の方にかざし、念力で深山の首元を抑える。


「こういうこともできるのかぁ。でも弱い……」


 深山が念力を振り払おうと首を動かす。


 洋平はその場で即興の攻撃に転じるように、脳内で晴夏に指示を出す。

 ――戦うことになった際には、できるだけ洋平の思考を読むよう、事前に晴夏に伝えていたのだ――。


「全体なら弱いかもね。なら一点集中!」


 晴夏は喉仏を突くように念力を使う。


「がっ……」

 

 深山が一瞬声を上げる。

 しかし、念力はすぐに消失し大きなダメージにはならない。


「ナイス晴夏!」

 

 そう言い洋平は、深山の顔面に催涙スプレーを噴き掛ける。


 呻き声のような、声になっていない〝音〟が鳴る……。


 どうする? 拘束するか……? その思考を晴夏の声がかき消す。


「ヨウ君! 早くこっちに! 周辺一帯切り刻む気だ……!」


 洋平はその声を聞き、獣のように両手を地面につき一気に加速し逃走する。


 直後、路地の壁や置いてあった金属製のゴミ箱が激しい音を立てて破壊される音が聞こえてくる……。


「晴夏、ありがとう! 流石にヤベェ。このまま逃げるぞ!」


「そうしよう! 隙を衝いて攻撃入れれただけで、僕らじゃ敵わない相手だ……!」


 洋平達はそのまま逃走し、何とか家に帰った。


 ◇◇◇


「晴夏大丈夫か? ごめんな。危険なことに巻き込んじまって……」

 

 洋平は晴夏に声をかける。


「大丈夫だよ、ヨウ君! 危険承知で力になりたいって言ったんだ。そんなことより、ヨウ君こそ大丈夫?」


 晴夏が心配そうに俺の身体を見る。


「俺は、まあ身体中痛ェな……。あんなスピードで攻撃されるんだな……。今のままじゃ、地球守るどころか、この街すら守れねェ……」


 己の無力さを改めて痛感する。


「とりあえず、傷だらけだから、消毒してガーゼと包帯巻こう。しみると思うけど我慢してね」


「うえぇ……。痛いの嫌だ……」

 

 服を脱ぎながら呟く。


「可哀想だけど、化膿すると良くないから我慢してね」


 晴夏が優しい声色で容赦なく消毒液をかけていく。


 洋平は涙目で痛みを頑張ってこらえた。


「ヨウ君、偉いよ」


 晴夏が洋平の頭を撫でてくる。


「子ども扱いするなよ……。……でも、俺頑張ったよな……」


 自分でも労いの言葉を零す。


「頑張った、頑張った。……そうだ。この先どうする? 自分で言うのもなんだけど、僕らは弱過ぎる……。修行するにしても時間を確保しないとだし」


「そうだな……。ユウカさん! しょっちゅう呼んですんません!」


 ユウカに声をかける。


(はい。どうしましたか?)

 

 ユウカがすぐに反応する。


「今日にも戦闘があって一応撃退はしたんすけど、力不足を痛感してます……。撃退方法も最終的には催涙スプレー使いました。今の状態じゃ多分どこかで負けると思うんです。典両区にいる他の『天啓者』って会うことできますか?」


(他の天啓者と協力したいということですね? 可能ですよ)


「良かった……。それと、俺達に稽古をつけてほしいとも思ってます。他の天啓者って強いですか?」


(執行者の〝ヒガ〟からは強いと聞いています。私は直接知らないのですが……。ヒガには私から話をしておくので、会えるタイミングをどこかで作ろうと思います)


「ありがとうございます。とりあえず、最低限の戦闘ができる程度には早くならないとだと思うので」


(分かりました。なるべく早くヒガと話しておきます。話が進めばこちらからお声かけしますね)


「お願いします!」


 洋平と晴夏は同時に声を出す。


「そういや、晴夏。お前その格好……」


 洋平は晴夏を頭から足まで見る。


「ヨウ君、エッチ! そんなに見ないでよ……。深山さんに顔見られてるから、念のために女装しといたんだ。僕だって仕方なくだよ、仕方なく……!」


 どことなく嬉しげな口調だが……。


「そうだったのか……。随分似合ってるから、普段から女装してるのかと思ったぞ……」


 というかドストライクな見た目してるから……何というか変な気分だ……。


「……ありがとう……。ヨウ君……嬉しい。たまに女装してあげよっか?」


 晴夏はやや顔を赤らめつつ笑顔を向ける。


「……いや、何か違う扉開きそうな気がするから大丈夫」


 洋平は食い気味に返答する。


「そっか。分かった……。女装して欲しくなったら言ってね……。あ、というか、明日の学校どうする? 学校に魔法使う人がいるなら、休んだ方がいいのかな?」


 晴夏は真面目な顔に変わる。


「あァ~。どうすっかなァ……。空乃のことも心配だし……。深山が大学内で暴れたりはしないと思うけど、俺達で見張るようにするか。いざとなれば、先生とかに警察呼んでもらおう」


「だね……。僕らでできる限りのことをしよう!」


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