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マナの天啓者  作者: 一 弓爾
罪への罰

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三十九話 罪への向き合い方

「アンタ……随分と乱暴なことしてるね。拉致でもしようってのかい?」

 裁奈は身が凍るような冷徹な声色で尋ねる。


「あ、いや、コレは……。その…………」

 板中崎は意を決したように、走って逃走する。


「待ちな! 《荊罰魔法――荊鞭》」

 裁奈の右手から鞭が創出され、板中崎の両足を絡め取る。


「ぐぁぁああああ! 痛い! 何だコレは! 何なんだ!」

 板中崎はのたうち回る。


「アタシの鞭は痛ぇだろ……? それがアンタの罪への罰だ……板中崎大輔。あの少年をどうするつもりだった?」

 裁奈は冷酷以外の表現方法がないような無慈悲な声色だ。


「おっ俺の名前を何で知ってるんだ⁉ お前なんなんだよぉ! あのガキは知り合いだ。頼まれてやっただけだ! 俺がこんな目に遭うのはおかしいだろ!」

 板中崎は大声を上げる。


「黙れ、クソ豚……。デケェ声出してんじゃねぇよ。耳障りだ。それに、頼まれてやった割にはかなり抵抗してたぜ?」

 裁奈はカメラに映る先程の板中崎の犯行写真を見せる。


「お前、そんなことまで……。それは…………」板中崎は黙り込む。


「その沈黙、肯定したってことでいいよな? ……アンタが人のいない所を選んでくれたおかげで、今から起こることは誰にもバレねぇ」

 裁奈がそう言い終わると同時に荊鞭が板中崎の足元からグルグルと身体全体を拘束する。

 痛みで悲鳴を上げる板中崎の声などお構いなく、荊は最終的に口元をも覆い隠す……。


「和泉……今からすることはアンタにとっちゃ『悪』かもしれない……。でも、だからこそ見ておいて欲しかった。『心に波が立たない、どこまでも中立』でいられそうなアンタにね……」

 裁奈は覚悟を滲ませる瞳で洋平を捉える。


「……裁奈さん、もしかしてこのまま……」

 洋平は続きの言葉が出てこない……。


「ヒガ様の決定次第だ……。しばらくヒガ様と話す。待っててくれ……」裁奈はヒガに〝念じる〟ことで呼びかけたようだ。


 ◇◇◇


「和泉……ヒガ様からの決定が出た。板中崎は殺すべき者だ。アタシはこの男を粛清する。咎はヒガ様が背負ってくださることになる……」裁奈は冷酷に話す。


「裁奈さん! それはどういう基準で……。いや、そもそも殺す必要はないんじゃ。証拠もあるんだし、警察に突き出せばいい!」俺は焦って早口になる。


「ヒガ様に板中崎の過去、現在の行動を読んでもらった。そして、因果の先読みを応用し、『未来の板中崎の行動』を割り出した。結果は、再犯の可能性が非常に高く、更生の可能性が低いと出た。あくまで可能性の話であり、確定した行動ではないが、殺しておくべき者だ……」

 裁奈は怒りを滲ませる。


「そんな……」


「誰もが罪を償って真っ当に生きられる訳じゃねぇ……。この男のように、どうしても罪を重ねる者もいる。アタシはそういう奴に死という罰を与える。罪には罰、因果応報……。コレがアタシなりの犯罪者への向き合い方だ……」


「執行者の出した決定なら可能性は高いのかもしれない。それでも、裁奈さんが殺さなくても……。やっぱり警察に……」

 洋平の言葉を遮る形で裁奈が話し出す。


「アタシはこのやり方じゃねぇと救えない命があると思ってる。被害者も加害者もな……。独善的な考え方、行動だってのはアタシも分かってる。それでも、こうすることで救われる命があると信じてる……」

 裁奈の目には覚悟が宿っていた。たとえ誰に理解されなかったとしても、自分のするべきことだと信じているのが伝わってくる。


「……裁奈さんは俺にこの光景を見せて、どうしたかったんですか? 俺に止めてほしかった? それとも、肯定してほしかったんですか?」

 洋平は厳しい言い方をしているのを承知で、思ったことをそのまま伝える。


「ハハハ! きっついこと言うな、和泉。アタシは同じ天啓者かつ、どこまでも中立でいられそうなアンタの意見が聞きたかったんだ。今後失われる可能性のある命を救うために今、目の前の人間を殺していいのか……。……悪ぃな……急に聞く内容じゃないのは分かってる……」

 裁奈の目に迷いはない。おそらく洋平がどう答えようと、この男を殺すだろう。それでもなお、俺に意見を求めるというなら……。


「……俺は正直、どうするのが正しいのか分からないっす。この先、この男が改心する可能性があるかもしれないし、逆に改心せず新たな犠牲者が出るかもしれない……。……答えになっていないのは分かってます。その上で、俺は『どっちが正しいかを決めることはできない』と思います。執行者のヒガさんが再犯の可能性が高いと言っているなら、確率は高いのでしょう。再び人を傷つける、殺す可能性があるなら、殺しておくべきという考え方も一定は共感できますし。ただ、俺はこの場で裁奈さんを止められないです……。卑怯な言い方ですが、それが裁奈さんの選んだ方法なら……」

 洋平はだんだんと俯きながら答える。


「……和泉。アンタは正直だね。自分にも、他人にも……。責任を負いたくないとも取れるが、真意はそうじゃねぇだろ? 『アタシが決めたことなら、それを止めることはしない』ってのがアンタの真意。否定しないが、肯定もしない……」


「……そうです。裁奈さんの言う通りです。俺には決められない。だから『静観』を選んだ。それが目の前の人の命が消えることに繋がるとしても……」

 洋平は裁奈の目を真っ直ぐ見つめる。洋平には洋平の考え、覚悟があっての答えだということが少しでも伝わるように……。


「そうか……。和泉、アンタに来てもらって良かったよ。自分の中にあった、『迷い、甘え』が消えた気がする……」

 裁奈は光の消えた冷酷な瞳へと変わる。


「板中崎……遺言はあるか……?」

 裁奈は板中崎の口元と目元部分の荊鞭は緩める。


「クソ女が! ブチ殺してやるよ! ほどきやがれ! クソ痛ぇんだよ! ビッチが!」

 板中崎は罵詈雑言を裁奈に浴びせる。


「それが、アンタの遺言か……。じゃあな……。《荊罰魔法――荊鞭、吸血壊きゅうけつかい》」

 裁奈の詠唱と共に、荊鞭は板中崎を強烈に締め上げる。骨の砕ける音がし、最後には血液一滴も残らなかった……。



「……和泉悪ぃな。急に連れ出して、こんなモン見せて……。でも、ありがとな。アンタのおかげで、改めて覚悟決まったわ……」

 裁奈は笑う。

 ……洋平には無理して明るく振舞っているようにしか思えなかった……。


「……裁奈さん」洋平はそう言い、裁奈の右手を両手で握りしめる。


「あ……? 何してんだ和泉?」裁奈は少し苛立った言い方だ。


「震えてます。裁奈さんの手」洋平は裁奈の目を見る。


「……まあ長い時間、魔法出しっぱだったからな……」

 裁奈は洋平から視線を外す。


「裁奈さんは、ヒガさんが咎を背負ってくださるって言ってましたよね? でも、自分が何も感じていない訳じゃない……。むしろ、大きな覚悟を決めた上で殺してると思います。それは、とても辛いことなんじゃないですか……?」


「…………まあ、何も感じない方がおかしいよ……。そうなったら、逆にアタシが殺される側に行く……」

 裁奈の瞳にゆらゆらと光が揺れる。


「裁奈さん、あなたの覚悟はすごいと思います。…………俺も一緒に咎を背負うことはできないです……。だけど、あなたの考え、気持ちは十分に理解しましたよ……」

 洋平はできる限り思ったことを伝える。


「…………和泉……」

 裁奈は一言呟き、左手で洋平を抱き寄せる。


「ちょ……裁奈さん……?」

 洋平は慌てて尋ねる。


「少しだけでいい。このままいさせてくれないか……?」

 いつも気丈な裁奈とは違う、拠り所を求めるような声だ……。


「全然大丈夫っす……」

 その後、裁奈の身体の震えが止まるまで、抱きしめ合っていた……。




「なんか色々悪かったな……和泉。ありがとな。あとは、この少年が起きたら保護する。誰でも信用してついていかないように注意もしねぇとな」

 裁奈は自然な笑顔を洋平に向ける――。


 ◇◇◇


 少年は起きてすぐは、パニック状態だった。


 襲ってきた男は偶然通りかかった洋平達二人が撃退したと伝えた。

 少年に誰でも信用し過ぎないように伝えると、今回の件で非常に恐怖感を感じたので気を付けるとの返答だった。


 裁奈は「もし、困ったことがあれば電話してくれ」と裁奈探偵事務所の名刺を渡していた――。


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