三十八話 因果の先読み
王誠が志之崎に弟子入りした、月曜日より一週間後。
洋平は裁奈と夜の街を歩いていた。
「裁奈さん、この前言ってた手伝ってほしい仕事に行くんすよね? どこに行くんですか?」
洋平は隣を歩く裁奈の目を見る。
「そうだ。……まあ、ついてくれば分かる……」
裁奈はどこか歯切れの悪い返答をする。
「分かりました……」
洋平も何となく話しづらくなり、そのまま黙ってついていく。
しばらくすると、人通りの少ない路地に出る。
「……裁奈さん、どこまで……」
洋平が話している途中で、裁奈が手で言葉を制する。
「あのオッサンが今回アタシが怪しいと思ってる奴だ……」
裁奈はささやく。その瞳には怒りを思わせる鋭い光があった。
オッサンと呼ばれる初老の男は、中学生程の男の子といた。
何やら、楽しげに話している。
「あの人が何かしたんですか……?」
洋平も小さめの声で話す。
「……あのオッサンは三十三年前に、当時中学生だった男子生徒とインターネットで繋がり、人間関係を築いた上で呼び出し、性的な加害の末に殺している。裁判では死刑を求刑していたが、判決は無期懲役だった。ソイツが二ヶ月前に出所したんだ……」
「なっ……。まさか、また同じことをしようとしているってことっすか?」
「探偵業してると色んなとこから情報が入るんだ。同業者、情報屋、新聞記者、そして『被害者遺族』なんかからな。再犯の危険性が高い奴はこうして確認する時がある。私の身一つじゃ、全部は対応できねぇがな……」
裁奈は怒りと悲しみを同時に感じている表情だ……。
「今さっきの口振りだと、今回の件は被害者遺族からの依頼ですか?」
「ああ。出所後、あのオッサンと被害者遺族は会ってる。そこで、被害者遺族に謝罪をしたそうだが、到底気持ちのこもっているとは感じられなかったそうだ。三十三年前と同じ目をしているとも言ってたな……。再犯しないかの確認、場合によっちゃ粛清してほしいって依頼だ」
「え……それって……」
「一応言っとく、本来なら受けるべきではない依頼だ。粛清とかモロに法に触れるしな。……それでもアタシは天啓者、いや犯罪を憎む『報復者』だ……。するべきではないことを分かった上でしてるコトだ……」
裁奈は淡々と話す……。
「……天啓者が関係あるんですか……? 俺は報復なんて……」
報復なんて止めた方がいい、そう言うべきだと思いながらも、被害者遺族のことを思うと言葉に詰まってしまった……。
「……執行者のヒガ様の力に『因果の先読み』ってのがある。『目の前にいる人間が今後起こす行動を先読み』する力だ。アタシは一度あのオッサン、『板中崎大輔』に接触してる。道を聞く振りをして一分くらい話した。そこで、ヒガ様に今日この時間に犯行に及ぶ『可能性が高い』と読んでもらった。もちろん、裏取りなんかはしてるけどね」
「裏取り……?」
「板中崎は既に、別で男子中学生二人と接触していた。その中でも、今あそこで話している男子生徒の回数が三回目で最多だ。なおかつ、この人通りの少ない路地……。おそらく、ヒガ様の因果の先読みは当たると思う……」
「執行者の力にそんなのもあるんすね……。でもそれって、執行者のヒガさんが、天啓者である裁奈さんに粛清するように促したってことなんじゃ……」
洋平が話している間も裁奈は板中崎達から一度も目を離すことはなかった。
そして、不意に板中崎がハンカチを少年の口に押し当てる。少年は抵抗しようとするも、数秒で意識を失う。
裁奈はその瞬間をカメラに収め、そのまま一気に走り込んで、板中崎に問いかける。




