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マナの天啓者  作者: 一 弓爾
メモリーオブマナ
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三十五話 裁奈の上道院調査

 一方、同日二十時頃。

 上道院コーポレーション傘下、上道院エネルギー株式会社の裏口前。

 裁奈は一人立っていた。


「和泉達と別れてから十一日経ったな……。上道院コーポレーションを色々と調べて回ったけど、大企業なだけにセキュリティもなかなか厳しいな……。それに、闇の噂もなさそうだ。何もないのも逆に怪しいくらいだがな」

 裁奈は調べた情報をスマホで確認する。


 上道院コーポレーション自体は怪しい点はなさそうだ。ただ、約十年前に上道院家の三人の御曹司のうちの長男、至王しおうが原因不明の失踪をしている。当時、至王は上道院エネルギー株式会社の社長をしていた。それが、現在は次男の毅王きおうに社長が引き継がれている。


 社長の座をめぐり毅王が何かした可能性もある。ただ、毅王が上道院エネルギー株式会社の社長になったのは三年前だ。十年も前から社長の座を狙うために何かしたのかは不明だ。情報屋も使ったが、その他に使えそうな情報はなかった。


 ……だからこそ、〝直接鎌をかける〟ことにした訳だがな……。


「出てきたか……」

 裁奈は歩いて出てくる、高級ブランドの黒いスーツを着ている男を見据える。


 髪はホワイトベージュでショートヘア、前髪を上に上げているため、爽やかで信頼感があるような印象だ。顔立ちは良く、鋭い眼光が目立つ。身長は一九〇センチメートル程。また、左手に金時計をつけている。


 周りにボディーガードらしき者が四人いる。


「アンタ、上道院毅王さんかい? ちょいと聞きたいことがあるんだ」裁奈が声をかける。


「毅王様、ココは我々が……」ボディーガードの一人がささやく。


「構わん。……何か御用か?」毅王は裁奈の目を見つめ言葉を返す。


「突飛な話かもしれないが魔法って知ってるか?」

 裁奈は《荊罰魔法》で右手から荊を五十センチメートル程創出する。


「毅王様、あの女奇妙な雰囲気です。安全のためにお逃げください」

 ボディーガードが今度は大きめの声を出す。


「たしかに、何か妙だな。手品の類かもしれぬが、それにしてはあまりにも現実離れ……いや、逆か。『隠そうという気』が全く感じられん。案外本当に魔法とやらなのかもな……。ココは任せる」

 毅王は淡々と答え、黒の高級車へ乗り込もうとする。


「待ちな! 話は終わってねぇよ!」

 裁奈が叫ぶのを遮るように、ボディーガード四名が車の前に立ち塞がる。


「チッ。邪魔するなら、強行突破するぜ……」裁奈は低めの声を出す。


「あの女は危険な匂いがする。『志之崎刀護』、妙なモン使う女だが、任せられるか?」

 毅王は車の中から、ギターケースを背負った〝侍〟のような出で立ちの男に声をかける。


「あなたを守護するのが俺の仕事です。誰であろうと、護ります」

 志之崎は短く返答する。


「頼んだぞ。可能なら捕らえろ。その魔法とやらが本当なら興味がある」


 毅王が話し終えると同時に、車が発進しようとする。


「待てっつってんだろ! 《荊罰魔法――荊檻》……!」

 裁奈は荊檻を発動しようとする。


 しかし、それより一瞬早く志之崎が刀を裁奈目掛けて振り抜く。

 咄嗟に《荊罰魔法――荊の剣》で防ぐ。


「アンタ、クソ速ぇな……。魔法か……?」


「……先程から何を言っている? 魔法など存在しないだろう……?」

 志之崎は静かに答える。


「……あぁ、そうかよ。とぼけてんのか分かんねぇが、とりま倒すぜ……?」

 裁奈は舌舐めずりする。


「やってみろ……! お前らは手を出さなくていい。この女、実際妙な技を使っている。周りを固めて逃げられないようにしてくれ」

 志之崎は他のボディーガードに指示を出す。


「分かりました、志之崎さん」ボディーガードの一人が答える。

 ボディーガード達はスタンガンや警棒などの武器を手に持っている。


「いくぜ。《荊罰魔法――荊絡蠢けいらくしゅん》」

 裁奈の左手が緑に輝き魔法を発動する。血を求めうごめく荊が無数に志之崎に襲い掛かる。


「気味の悪い技だな……。志之崎流剣術《青嵐》」

 志之崎は流れるように剣戟を振るう。


 しかし、一瞬で放たれた青嵐の六連撃は全て荊を切り裂くには至らなかった……。


「くっ……。相当な強度だな。このままでは捉えられる……。志之崎流動術(どうじゅつ)上風うわかぜ》」

 志之崎は息を一瞬で大きく吸い込み、右足に〝筋力を集中〟させ一気に地面を踏みつける。


 ボーリング玉が落ちたような鈍い音が響く。

 志之崎は三メートル程跳躍し、裁奈を飛び越えて奥の地面に着地する。そしてすぐさま、刀を構え直す。


「マジか……。今ので終わりだと思ってたんだがな……。とんでもない身体能力してんな、アンタ……」


「……お前の攻撃にも驚いた。本当に魔法という奴なのか……。三日前に魔獣が街に現れたのもお前の仕業か……?」

 志之崎は静かに尋ねる。


「何度も言うぜ。コレが魔法だ。アンタは魔法を使えないみたいだね……。あと、三日前に魔獣が出たことにアタシは関係ねぇ。話は仲間から聞いてるけどね」


「……そうか。どちらにせよ、毅王さんに危害を加えるというなら、排除するまでだ……」


「まあ、話し合いでどうこうなる相手じゃないとは思ってるよ。アンタ口堅そうだもんな。他のお仲間も含めて聞くとしようか……」

 裁奈は軽く口角を上げる。


 荊絡蠢を一気に志之崎に向けて放つ。


 志之崎はすぐに背負っていたギターケースをボディーガードの一人に投げ渡す。

「持っていてくれ。俺が刀を破損した際には中にある刀を投げ渡してほしい」そう言った直後、荊絡蠢に向かい突っ込んでくる。


 ギターケースがなくなった志之崎は速度が一段上がる。

 そして、荊を斬ることではなく、裁奈との距離を詰めることに目標を切り替えたようだ。

 刀で荊絡蠢を受け流しつつ、疾風の如き速さで駆け抜けてくる。


「やるねぇ。恐れも感じないしね……。でも、魔法は単発で使うだけじゃねぇ。《荊罰魔法――荊檻》」

 裁奈の詠唱と共に、地面から荊が複数現れ志之崎を取り囲む。


「発動が早い……。だが、コレで終わったと思うな……。志之崎流剣術《居合、木枯こがらし》」

 志之崎は納刀した後、やや低い姿勢で構える。

 そして、志之崎の気合と共に放たれた、一閃は荊檻の上部を切り裂く。


「もう一度だ……」《居合、木枯らし》を再度放ち、檻の下部を切り裂く。結果、檻の一面に穴が開き志之崎は脱出する。


「アンタ、すげぇな。でも、荊絡蠢からは逃げられねぇよ」

 荊絡蠢が志之崎に絡みつこうとする。


「まだだ……。志之崎流動術《天狗風てんぐかぜ》」

 志之崎は荊絡蠢の上を天狗が跳ね回るように斬撃を放ちながら移動する。

 荊絡蠢は動きを捉えきれず遂に裁奈のもとまで志之崎はやってくる。


「これで決める……!」志之崎は強烈な一撃を振り下ろす。


「ハハハ! 来な! 《荊罰魔法――荊盾いばらだて》」

 凄まじい衝撃音が鳴り響く……。


 数秒後、周辺住民が騒ぎ出す声が聞こえてくる。

「なんだなんだ!」「人が刀で妖怪と戦ってる……」「早く警察を呼ばないと……!」など様々なものだ。


「誰が妖怪だ……! ったく……騒ぎになるのは面倒だ。志之崎刀護っつったな。また、会おうぜ! 《荊罰魔法――昇荊のぼりいばら》……」

 裁奈の足元から、荊が一気に八メートル創出され、志之崎を弾き飛ばしながら、裁奈を押し上げる。


「なっ……! 待て!」

 志之崎の声を聞きながら、裁奈は二階建ての建物の屋根に飛び移り、そのまま逃走する。


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