三十三話 改造和服の女
深山は洋平の奥を見ている。
奥から声が聞こえる。
「リカ……。オマエ何負けてんだよ。オレが来なかったら、どぉする気だったんだ?」
そこには〝女〟がいた。男口調だが、胸にサラシを巻いており、やや着崩した赤い和服を着ている。戦闘用になのか、動きやすいように改造しているようだ。顔立ちはつり目で凛々しく、中でも目立つのが右頬に三つの獣の爪状の傷があることだ。身長は一六五センチメートル程。両手にはトンファーを持っている。
「先輩狩りするのが愉しくてつい……。でも、ナイスタイミングだよ栄順」深山は笑顔を向ける。
「新手か……。お前ェも深山の仲間か?」洋平は女を睨み付ける。
「そうだぜ。オレは騎召栄順。オマエは何て名だ?」騎召は堂々と名乗りを上げる。
「あァ? ……俺ァ和泉洋平だ。つか、知ってんじゃねェのか?」
「オレは強ぇ奴以外興味ねぇからな。オマエはなかなか骨がありそうだ……」
騎召は笑みを浮かべ、ギザギザとした歯を見せる。
「ハッ! 俺とやろうってのか?」
だが正直、これ以上は体力もマナも持ちそうにねぇ……。どうする……。場合によっちゃ深山を人質に交渉するか……?
「オマエとヤんのも面白そうだけど、今は時じゃねぇ。とりあえず、リカから離れろ!」
「嫌だね。コイツの命は俺が握ってんだ。俺の質問に答えろ。お前ェらは何者なんだ?」
「威勢がいいこったな。状況はオマエもそんなに変わんねぇよ。オレの後ろの死にかけ見てみろ」騎召は右手の親指で後ろを指す。
そこには、瓜生の首元に噛みつこうとしているコウモリの魔獣がいた……。
「なっ……! やめろ! 状況は分かった。深山から離れたらいいんだな?」
「そうだ。少しでも妙な動きをした瞬間、あの男の首を喰い切る」
騎召は指示に従わないと殺すということを淡々と伝える。
「……俺が深山から二メートル離れた時点でコウモリを離れさせろ。じゃねェと、俺はここを動かねェ……! 命のやり取りしてんだ。このくらいの条件はのんでもらうぞ!」
「オマエ、オレに条件つけようってのか……? まあいい。それで動いてやるよ」騎召は俺の目を見て真っ直ぐと答える。
「分かった」
洋平は深山から二メートル離れる。その時点で瓜生からコウモリの魔獣は離れていった。ただし、二メートル圏内で飛んでいる。
「コレで信じたか? 和泉。オレの魔法は《召喚魔法》。街に召喚獣撒いたのもオレだ。コレ以上はオマエも戦えないだろ? このままオレ達を見逃せ。お互いにとって良い提案だと思うぜ」
「…………分かった。同時にお互いの仲間のもとへ行く。それでいいか?」
「おう。それでいいぜ。賢明な判断だ、和泉」
洋平と騎召は同時に仲間のもとへ行く。
コウモリの魔獣は洋平と騎召がすれ違って数秒後に、マナがなくなったようにゆらゆらと消えた。
振り返ると、そこに騎召と深山はいなかった。洋平は魔法を解除する……。
「ちゃぱつん……。すまない。僕が弱いばかりに……」瓜生が泣きそうな声で話しかける。
「ミドイケ先輩は何も悪くないですよ。むしろ、かっこよかったっす。あの命懸かった状況で俺を逃がそうとするなんて、オムファタールも伊達じゃないですね!」
「いや、ちゃぱつん……君の覚悟の方が凄かった。僕の知覚力じゃよく分からなかったんだけど、内臓焼いてまで自分を強化したんだよね? 僕にはそんなことはきっとできない……」
「いえいえ、あそこまで追い込まないと多分、俺負けてたんで。あ、んなことより、救急車呼びましょう。……いや、渡辺さんが近ければそっちの方がいいか……? 一度連絡入れてみます」
その後、晴夏と連絡がつき、舞里と一緒に来てくれることになった。
洋平も瓜生も死にかけではあったが、舞里の《罪花魔法――回復魔花》で回復してもらった。
翌日以降、三日間は裁奈探偵事務所で洋平と瓜生は《回復魔花》で回復に専念することとなった。




