三十二話 死ぬ気の知覚
「カイザーキング? 和泉先輩、随分幼稚なんですね。アニメキャラのヒーローみたいになりたくて、修行してたんですか? まあ、その結果が今の状況な訳ですけど……?」
「深山ァ……。お前ェの言う通りだ。コレが『今』の俺の限界だ。でも、『世界は……自分は……工夫次第、捉え方次第でいくらでも変えられる』。カイザーキングの名言だ覚えとけ……」
洋平は今〝炎狼〟という体質だ。この体質を維持したまま〝シンプルな火炎魔法〟を部分的に使用する。
体質同調によるマナの取り込みは〝完全に同じ体質〟じゃないとできない。つまり、炎狼の状態でシンプルな火炎魔法を使えば、自分にダメージを入れられる。そこを利用する……!
下手すりゃ、肉体、心、魂が持たなくて死ぬ可能性もあるが、そのくらいしないと今の状況は切り抜けられねェ……。俺は必ずミドイケ先輩を守る……!
〝丹田の使い方〟を無理やりにでも知覚するにはコレが手っ取り早いはずだ……!
「ウオォォオオオ!」洋平は雄叫びと共に、実行に移す。
丹田付近に《メモリーオブマナ》で火炎魔法を発動する。〝異物〟である火炎魔法は洋平の内臓を焼いていく。
クソ痛ェ……。だが、この痛みと共に〝知覚〟できる気がする。〝丹田でのマナ、氣の使い方〟を……!
「え? 何やってるんですか、和泉先輩。自分で内臓を焼いてる? 頭イカれたんですか?」
深山は目を丸くする。
「ガアァァアア…………」
刹那、俺の〝肉体、心、魂の生存本能〟が目醒める。このまま無理を続ければ死ぬだけだと。本能が最も遠ざけたい〝死〟を明確に知覚し、洋平の知覚力は強引に数段上がる……。
「……ゴァ……ゴァ……。『今』の俺なら……お前ェを倒せる……」
洋平は丹田でマナ、氣を練り上げて、強化し柔軟に扱う方法を感覚で掴む。
「なっ……。嘘でしょ……? 能力値が跳ね上がった? もはや別人に感じるわ……」
深山は初めて余裕のない声色に変わる。
「手短に済ませる。俺の内臓はそんなに丈夫じゃねェからよ……。《炎狼噴迅》」
炎狼に噴射移動を組み合わせ、人間の状態ではできなかった高速移動で深山に接近する。
「いくら、速くなっても……」深山は裂撃を一瞬で複数放つ。
洋平は攻撃範囲を見切り、躱しつつ裏拳を顔面に打ち込む。
深山のバランスが崩れたところで、丹田にて練り上げたマナを蹴りに込める。
「《炎狼斬蹴》……!」
炎を纏った斬撃の如き鋭い廻し蹴りを脇腹に放つ。スピードが一気に上がった連撃に深山は対応しきれず、脇腹に攻撃は命中する。骨の軋む音と共に深山は二メートル程吹き飛ぶ。
「……アハハ。いいですね、和泉先輩。もっともっともっと続けましょう……?」
深山は痛みに顔を歪めつつも、愉悦を感じた表情をしている。
「うっせェ。俺の内臓はそんなに持たねェつったろ? コレで決める」
丹田で練り上げたマナを極限まで右手に集中する。
炎狼噴迅で高速移動をし、深山の攻撃を躱して隙をうかがう。
更に最初とは比較にならない程のマナを込めた《火炎球》を二十個創出する。
「終わらせる……」
一気に洋平は突っ込み、同時に火炎球が深山を取り囲むように飛んでいく。轟音が鳴り響き、炎が洋平と深山を包み込む。
ただし、火炎球は〝炎狼〟状態で創り出したもののため、《体質同調》が働き、洋平へのダメージにはならない。深山は火炎球と洋平からの《炎狼斬蹴》を同時に捌くことはできず、傷が増えていく。
そして、生まれた一瞬の隙を衝き、洋平はマナを込めた右手で《炎狼拳》を深山の顔面目掛けて放つ。
深山は高出力の一撃を受けて、五メートル程吹き飛び岩に激突し、姿が元の人間に戻っていく……。
「……ここまでだろ? 深山ァ」洋平は淡々と言葉を投げる。
「アッハハハハ……。いやぁ、やりますね和泉先輩。まさか、変身まで解けちゃうとは」
深山はどこか嬉しげな様子だ。
「何ニヤニヤしてんだ? お前ェには今から、地獄の時間が待ってんだぜ?」鞭を取り出し、地面に打ち付けてみせる。
「あれ? 和泉先輩そういうのするんですか? ドMっぽいのに……」
「黙れイカレ銀髪。お前ェには聞きてェことが山程あんだよ……!」
「…………あと、五分早かったら良かったですね、和泉先輩……」




