三十一話 カイザーキング
「アッハハハハ! 和泉先輩、マナ知覚力相当上がってますね。素人じゃ見抜けないはずなんですけどね。……そうですよ、私は『純血の狼女』。和泉先輩からは良い匂いがする……。きっと食べれば美味しいんでしょうね……」
深山は獲物を見つけた獣のような歓喜の表情になる。
「狼女なのか……。お前ェは何が狙いだ? 上道院と組んでるのか? それとも、単独で動いてんのか?」
「女の秘密を詮索するのはダメですよ? それにしつこい男は嫌われますよ、和泉先輩?」
「答える気はないってこったな。んじゃあ、ぶっ倒してから聞くわ」
とは言ったものの、身体中から警告音が聞こえてるみてェだ……。この〝生き物〟は危険だと……。
そこから深山の戦闘速度は一気に引き上がる。
周囲にある木や岩を飛び跳ねるように高速移動し、凄まじい速度の裂撃を受ける。傷がどんどん増えていく……。
「こんなもんですか? さっきまでの威勢はどうしたんですか? このままだと、食べられちゃうかもしれませんよ、和泉先輩……?」
深山は茶化すような口調で殺意を伝える。
「……痛ってェな、ちくしょう……。安心しろよ、俺ァこんなもんじゃ終わらねェよ。軽い準備運動だ」
……このまま戦っていても、ヤラれるのは時間の問題だ……。今まで成功したことはねぇが、やるしかねェ……。体質同調魔法の〝合成〟を……!
「口だけは達者ですね。とりあえず、その鬱陶しい口から利けなくしてあげますね?」
洋平はふーっと肺に息を溜める。そして、限界まで集中力を高める。
「《体質同調魔法、合成》《火炎魔法×狼男――炎狼》……」
洋平の身体は深山と同じように〝狼男〟へと変化していく。結果、火炎魔法と狼男を合成した体質〝炎狼〟となる……。
「え……? そんなこともできるんですか? 和泉先輩……あなた面白い人だとは思ってましたけど、想像以上です。久しぶりに全力を出すことができるかも……」
狼女の長い舌が、口周りを軽く舐める。
「あァ……。やっぱ集中力、精神力共にクソ使うな……。マナもかなりの消費だ……。でも、ココで負ける訳にはいかねェ。死んでも勝つ……!」
洋平の変身後の〝金の瞳〟に鋭い光が奔る。
ほぼ同時に洋平と深山は攻撃を仕掛ける。
深山の一段上がった攻撃はキレ、威力、速度全てが跳ね上がる。
だが、洋平は足りない速度は火炎魔法で補助しながら、反撃し続ける。
「アッハハハハ! いいですよ! 和泉先輩! こんなに楽しい狩りは久々です! もっともっともっともっと、ヤリ合いましょう!」
深山は愉しさを抑えられないといった様子だ。
「そいつァ、良かったよ。イカレ狼……! 《炎狼掻》……!」
火炎魔法を纏った鋭利な爪で、深山とのすれ違いざまに攻撃を入れる。
「ゴハッッ……」
洋平は口から血を吐きながら、膝をつく。
なんだ……? 俺の攻撃は確実に当たった手応えがあった。深山を見ると、脇腹に軽く傷がついているのが分かる。俺の攻撃は軽く傷を入れれる程度ってことか……? 目の前が暗くなってくる……。血を流し過ぎたか? いや違う。俺の心が折れかけてるんだ……。
「あれ? ちょっとパワー上げただけですよ? コレで終わりですか、和泉先輩?」
深山は俺を見下ろしながら、単純な疑問を投げかける。
「ハハ……。あんだけ、半殺しになりながら稽古してコレかよ……。やっぱ、そんなすぐに強くなれねェわな……」洋平は力なく呟く。
「……本当にコレで終わりですか? まだもう一段上げれますよ?」
深山は洋平の心をへし折る言葉を何の悪意もなく告げる。悪意のなさがより、洋平の心を軋ませる……。
ここまでか……。俺ァはアニメのヒーローなんかじゃねェ……。そりゃそうだ。いくら、死にかけながら修行しても、結果は残酷に……正しく表れる。俺の力が深山に及ばなかった。ただ、それだけのコトだ……。
「ちゃぱつん! 逃げて! 僕のことは気にしないでくれ! 何とかする!」
瓜生が血まみれの身体を全力で使い、声を上げる。
「瓜生先輩、水差さないでください。殺しますよ……?」
深山は殺意の宿った金の瞳を瓜生に向ける。
「それでも構わない! ちゃぱつん!」
瓜生は最後の力を振り絞り叫ぶ。
「……ハハハハハ! ミドイケ先輩……。そんなこと言わないでくださいよ……。俺ァカイザーキングってアニメキャラの『生き様』が憧れなんすよ。あのダークヒーローは平穏を……仲間を守るためなら、どんな状況でも諦めない。そして必ず有言実行する。……俺も誓います。俺ァミドイケ先輩、あなたを守る……」
洋平は頭に浮かんでいたが、実行することを無意識に遠ざけていた戦い方をすることを決断する……。




