三話 銀髪美女
それから一週間、洋平と晴夏は修行をしていた。
洋平は筋トレとランニングをしていた。
何度もやめようかと思ったが、死にかけた記憶を思い出し、必死に取り組んだ。
晴夏は今まで、洋平にしか使っていなかったテレパシーを少しずつ、他の人にも使うように練習した。
結果、断片的に思考を読むことができるようになった。
ただし、人の感情が流れ込むことはコントロールが難しいようで、三秒持たせるのが限界だ。
念力は空き缶を空中浮遊させることはできた。ただ、重いものは難しかった。
◇◇◇
「ヨウ君、なかなか難しいね。戦闘が必要となると今のままじゃヤラれちゃう……」
晴夏は心配そうな声だ。
「そうだな……。俺達は基本二人で行動してる。戦闘になった時は協力しよう。あと、ヤバそうだったら、ためらわず警察を呼ぼう……!」
「ヨウ君って格好つけるとかないよね……。まあ、そんなところが良いとこなんだけど」
晴夏はどことなく嬉しそうにニヤニヤした顔をする。
「格好つけて死ぬくらいなら、無様にでも生き抜くぞ俺ァ……」
軽く拳を握って見せる。
「ふふふ。家が隣で小さい時から知ってるけど、ヨウ君って本当に面白いよね」
――晴夏は洋平の裏表のなさや、テレパシーを使っても〝悪意も善意も感じない凪のような心〟が好きだった。
きっと、体質同調魔法という珍しい魔法を使えるようになったのも、〝特殊な心〟が影響しているのだと思う――。
「あ、そうだ。空乃が教室に忘れてたシャーペン届けに行かねェとな。テニスサークルのコートってあっちだよな」
洋平はコートのある方向を指さす。
「うん。行こっか」
二人はコートの方へと歩いていく。
すると、テニスボールが一つ目の前に転がってきた。洋平は思わず拾い上げる。
「あっ! 拾ってくれてありがとう!」
ミディアムの銀髪を鮮やかになびかせながら駆け寄ってくる、テニスウェアの女性が目に入る。
銀髪というだけでも目を惹くが、どことなく外国人風な顔と、金色の瞳が色白の肌に映えている。雪の中で輝く純金のようだ。
「いえいえ、どうぞ」
洋平は若干緊張しながらボールを手渡す。
「綺麗な子だね。ヨウ君、緊張して手ぷるぷるしてたよ?」
晴夏がニヤニヤと顔を見てくる。
「そりゃ、あんな美人いたら緊張もするよ……」
素直に返答する。
「ふ~ん……。ヨウ君のタイプってもうちょっとギャル風じゃなかったっけ?」
「いや、あんだけ美人ならタイプとか関係なくねェか?」
「そう……。まあ、そうだね……」
晴夏はどこか不機嫌そうに呟く。
そこに空乃が近づいてくる。
「どうしたの二人共? ちょうど休憩時間になったから見に来たんだけど」
「お疲れェ~、空乃。シャーペン教室に忘れてたぞ」
洋平はシャーペンを手渡す。
「あ~、わざわざありがとね。週明けとかでも良かったのに~」
と言いつつ、空乃は嬉しそうにシャーペンを受け取る。
「ねぇねぇ、空乃ちゃん。あの銀髪の子誰? すごい綺麗だけど」
晴夏が尋ねる。
「ああ、今年に入学した深山リカちゃんって子だよ。綺麗だよね~。マジ眼福~」
空乃はうっとりとした表情をする。
「そうなんだ……。いいね、そんな可愛い子とテニスできて」
晴夏は少し抑揚のない返答をする。
「そうそう! 私、顔面偏差値高そうなサークル選んだからさ! いや~、今年入学であんな可愛い子も入ってくれたし、大満足!」
空乃は素直に嬉しそうな顔をする。
「空乃……お前ェ、男女関係なく面食いだもんな」
洋平は呟く。
「そりゃね。造形が良いものを見るのは健康にもいいしさ。見てるだけで細胞が浄化されてる感じがするんだよね~」
空乃は真面目な顔でおっさんみたいな感想を述べる。
「そうか……。まあ、分からんでもない」
洋平も賛同する。
「というか、知ってる? 典両大学三大美女の一人なんだよ深山ちゃん」
空乃が声を出す。
「典両大学三大美女? そんなのあるのか?」
大学に通いだして一年半だが、初めて聞いた。
「あるよ~。ちなみに、三大美男もあります! 誰が言い出したか分かんないけどね。自然と共有されてるんだよね~。また、見かける機会があったら教えたげる。そろそろ休憩終わるし、じゃあね~」
空乃は手を振りながら戻っていく。
「晴夏……典両大学三大美女とか知ってたか?」
「何となく噂は聞いたことあるよ。でもあの子がそうだとは思わなかった。また、調べとくよ」
「調べないでも大丈夫……いや、どんな顔か拝んどくだけでも損はねェか……」
「ヨウ君らしい返答だね……。まあ、空乃ちゃんに聞いてもいいし。とりあえず、今日も修行しよっか。いつもの河川敷でいいよね?」
「そうだな。修行するか~」
いつものように河川敷で修行をして帰宅する。
◇◇◇
夜になり、思いも寄らぬメッセージが空乃からあった。
「今日話してた深山リカちゃんに声かけられたんだ。なんでもヨウのことが気になるんだって! 都合が良い時に食事でもどうですか? って言ってるよ。どうする? 連絡先知りたいらしいけど。あと、今日会ってあんな可愛い子落とすとかどんな手使ったんだこの野郎!」
単純に思った。ついに来たか……モテ期が……。
「女の子からの誘いを断らない主義だからな。もちろん行かせてもらうよ。俺の隠しきれない魅力のせいかな……?」と返信する。
――五秒考える。どう考えても何かがおかしい……。洋平の中の平穏センサーが告げる〝何か平穏を脅かす出来事〟が起こる気がすると――。
だが、それ以上に食事一回くらいなら行ってもいいか、と思う――。