二十四話 暗殺少女 VS ドS女王様
翌日日曜日。
裁奈探偵事務所に洋平、晴夏、空乃の三名は来ていた。
一昨日にあった王誠と絡瀬との戦闘。その際に空乃に助けてもらったこと。
また、上道院コーポレーションが怪しいと思っている話を裁奈と舞里に伝えた。
「なるほどな。アンタらの推理は筋が通ってるように感じるよ。上道院コーポレーションか……。日本トップクラスの大企業だ、うまく情報を掴めればいいんだがな」裁奈は斜め上を見て考え込んでいる。
「そうっすよね。クソデカイ会社なんでどうしたもんかな、って思ってます。それに昨日、王誠を助けに来た『影』も気になります。多分魔法だとは思いますけど」洋平は疑問点をあげる。
「影ね……。王誠がその影に感謝してたんなら、少なくとも仲間か協力関係にあるんだろうな。調査ならアタシの得意分野だ。ただ、調査に集中するとなると、和泉の稽古つけれねぇんだよなぁ……。空乃ちゃんは《身体強化》に特化した魔導士なんだよな?」
「はい。そうです。格闘得意です!」空乃は何の嘘も感じさせない言い方をする。
本当は魔導士ではなく〝暗殺一族〟だが……。あえて真実を伝えることは空乃にメリットがないので、事前の打ち合わせで《身体強化》特化の魔導士という設定にすることにしていた。
「……アンタ、アタシと一度手合わせしてくれねぇか? 仲間になってくれるんなら、実力も見ておきたいしな」裁奈は鋭い視線で空乃を見る。
「え……。私と戦うんですか? いいですけど……」空乃が洋平の方を見る。
「裁奈さん、空乃は一昨日に俺を助けてくれたくらいで、めっちゃ強いっすよ。怪我とかしたら良くないかな~、なんて思うんすけど」
洋平は自分で言葉にしながら思った。裁奈の性格だとこんなこと言っても火に油を注いでいるだけだと……。
「ほぉ……。駄犬。アタシの心配してくれんだね。嬉しいよ。アタシは実力を知っておきたいって言ったよな? でも、何でアタシがボッコボコにされて怪我する前提なんだ? 空乃ちゃんがそんだけ強けりゃ、アタシらにとっちゃ良いことじゃねぇか。それともアタシじゃ力不足だって言いたいのか……?」
裁奈は静かに、ただ確実に怒りを込めながら語りかける。
「いやいやいや、そんなこと言いたい訳じゃないっすよ? 裁奈さんのこと心配して……。あ、いや…………。あァ~! もうめんどくせェ! 率直に言います。空乃は強いです。裁奈さんは油断せず戦ってください。ただし、ヤリ過ぎはダメです。空乃は魔導士との戦いに慣れてる訳じゃないんで!」
洋平は途中からやけになり少し乱暴に伝える。
「ハッ! アンタに心配される筋合いはないよ。でも、分かった。頭に入れとくよ。あと、アタシの魔法も説明しとくわ。アタシの魔法は《荊罰魔法》。見ての通り荊を使う魔法だ」
裁奈は右手から荊を創出して少し見せた後、魔法を解除する。
「荊罰魔法には特殊効果がある。『罪人に対して威力が上がる』んだ。まあ、罪つっても裁判で認められてる罪とかじゃなくて、『魂に刻まれた罪の意識』に反応する。ちなみに、舞里の使う《罪花魔法》にも同じ特殊効果がある」
「なるほど……。そんな魔法もあるんだ。私に持って来いな魔法だね。ヤリましょう……!」空乃は口角を上げ、覚悟を滲ませた言い方をする。
「そうか……。どっちの意味でか分からんが、アタシの魔法は痛ぇぞ? 近くに人がほぼ来ない山があるんだ。そこで手合わせしよう」そう言い、五人は山へと移動する。
「じゃあ、始めるぜ?」裁奈は《荊罰魔法――荊鞭》を発動する。見ただけで痛さを感じるような棘の無数に付いた荊の鞭にて、高速で空乃に攻撃を仕掛ける。
「速いですね……。それに裁奈さんの鞭の腕前も相当なものだ」空乃は攻撃を全て見切って躱す。
「ハハハ。余裕そうだな。スピード上げるぞ……?」
裁奈は倍速で鞭を振るう。目視では複数の鞭を扱っているかのように見える程の速さだ。
「躱すだけじゃダメですもんね」
空乃は鞭を躱しながら、左肩から右腰に背負っていた、黒の竹刀袋から〝忍刀〟を取り出す。長さは全長八十センチメートル程だ。
空乃は忍刀で荊鞭を弾き返しながら高速で裁奈との距離を詰める。
「やるねぇ、空乃ちゃん。こんなのはどうだ? 《荊罰魔法――荊檻》」裁奈が詠唱を終えると同時に、地面から荊が複数現れ空乃を取り囲んでいく。
「魔法ってやっぱすごっ! 色んなことできんじゃん!」空乃は楽しげに声を上げた後、瞬時に荊檻を忍刀で三角形に斬り捌き、空いた三角の隙間から脱出する。
「相当マナ込めたんだがな……。コイツはどうだい? 《荊罰魔法――荊の弾丸》」
裁奈の左手から高速で弾丸が射出される。
空乃は咄嗟に近くにあった石を投げつけて荊の弾丸を相殺する。結果的に、荊の弾丸も石も粉々に砕け散る。
「ハハッ! マジかアンタ。すげぇな。どうやったんだ今の? ただの石ころではアタシの魔法を破壊できないだろ。石に強化の魔法をかけたのか?」
「いえ、私は自分を強化することしかできないので。モノには強い箇所と弱い箇所があるんですよ。裁奈さんの荊の弾丸の弱い箇所……綻びが多い箇所に、石の強い箇所をぶつけました。そうすれば、さっきみたいに強度が劣るモノでも破壊できます」空乃は淡々と説明する。
「それを一瞬で見抜いて、ぶつけたのか……。言い方は悪いが、バケモンだね」裁奈は話し終えると同時に荊鞭での攻撃が再開される。
空乃は荊鞭を躱しつつ、一気に裁奈のもとへ行くために荊鞭を〝輪切り〟にしながら突き進んでいく。
「裁奈さん、そろそろ射程圏内です……」空乃は冷徹な瞳で呟く。
「そうだねぇ。んじゃ《荊罰魔法、変形――荊の剣》」詠唱に伴い、荊鞭は剣へと変形し、空乃へ斬撃を放つ。
「ありゃ、そんなこともできるんだ」空乃はそう言いながら、斬撃を数回弾く。
「……アンタ今のスピード、パワーは本気じゃないだろ? あと、何段上げれる?」裁奈は剣を振るいつつ尋ねる。
「……あと、三段は上げれます」空乃は何の抑揚もなく答える。
「オーケー。止めだ。アンタの実力はよく分かった。多分、このメンバーの中じゃ単純な戦闘力だと一番かもな」裁奈は魔法を解除しながら話す。
「ありがとうございます」空乃は笑顔で答える。
「ただ、一応忠告だ。魔導士との戦いに慣れてないなら、油断は絶対するな。魔法にも色んな種類がある。アンタに不利な魔法ももちろんあるだろう。状況に応じて柔軟に戦うんだぜ」裁奈は満足げに口角を上げる。
「あと、今後なんだが。空乃ちゃん、アンタが和泉の稽古つけてくれねぇか?」裁奈は真面目な顔だ。
「え? 私がですか……?」空乃は目を丸くする。
「ああ。アタシはしばらく上道院コーポレーションを調べたい。その間の稽古を任せたいんだ。ダメか?」
「私はいいですけど、魔法ほぼ使えないですよ?」空乃は洋平の方を見る。
「裁奈さんには、上道院コーポレーションの調査に集中してほしい。だから、空乃さえ良ければ俺に稽古つけてくれると助かる。魔法に関しては、新しい能力が手に入ったから、その練習も兼ねてできればいいと思ってる」
洋平はそう言った後、「《体質同調魔法、メモリーオブマナ――雷魔法》」と詠唱する。全身が雷魔法そのものになり、周囲に稲光を散らす。
「お、そんな魔法使えるようになったのか和泉。ユウカ様関連か?」裁奈がすぐに尋ねる。
「そうっす。天啓者である俺に天の加護で『メモリーオブマナ』っていう、記憶している魔法と同調する能力を授けてくれたんです。おかげで、俺単独でも魔法を使えるようになりました」
「そんなこともできんだな。やっぱ、執行者はすげぇな……。空乃ちゃん、和泉は自分のしたい稽古がイメージできてると思う。それに付き合ってやってほしい」裁奈が空乃に目を向ける。
「分かりました!」空乃は元気に返事をする。
「あ、相談が一つあって、いいですか?」晴夏が右手を挙げながら聞く。
「いいぜ。何だい?」裁奈が晴夏の方へ身体を向ける。
「明日からの大学はどうしたらいいですかね? 危険人物がいる可能性があるので、行かない方がいいかと迷ってて……」晴夏は不安げに口にする。
「あぁ~、そうだな。……空乃ちゃんがいれば何とかなりそうな気もするけどな。無理して深追いする必要はねぇが、現状一番怪しいのが上道院王誠だ。大学内で動きがあった時にとっ捕まえて晴夏のテレパシーで確認してもいいしな」裁奈はギラつく瞳をする。
「まあ、言われてみればそうかもですね……。僕ら三人で固まって動いてたら何とかできそうですし。大学内でまた何か危険なことをした時に、止める人がいないとめちゃくちゃになりますもんね」晴夏は真剣な声で返答する。
「俺も晴夏の意見に賛成だ。空乃頼りなところが申し訳ねェが、一番怪しい王誠がいる可能性が高いのも大学だ。三人で見張る意味も含めて行っていいと思う」
「そうだね。私も賛成。三人で一緒にいれば、大丈夫と思うし!」空乃も同意する。
「じゃあ、決まりだな。アタシは一人でしばらく上道院コーポレーションを調査する。舞里は探偵事務所でいつも通りの仕事と、晴夏の稽古つけてやってくれ。用事ができれば連絡する。あと、探偵業の新規受付は一旦ストップで頼む」
「分かった、裁奈さん。気を付けてね……」舞里は心配そうに裁奈を見つめる。
「大丈夫だ、舞里! アタシはこう見えて調査は得意だからよ。まあ、困れば連絡するし、グループメッセージに進捗は適宜伝える。和泉達も進捗教えてくれよ」裁奈は明るく笑いながら全員に話す。




