表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マナの天啓者  作者: 一 弓爾
守護
16/102

十六話 ドS女王様

 翌日も裁奈探偵事務所で午前中は仕事の手伝いをし、午後から稽古をつけてもらった。


 今日はミドイケ先輩に負けないというつもりで臨んだのが、いつの間にか「俺はちゃぱつんだ!」と連続で十回言っていた。


 洋平はどうやら、精神力とマナ知覚力をもっとつける必要があるようだ……。




 そして、今日は洋平の実戦稽古も裁奈がつけてくれることになった。

 瓜生は用事があるとのことで、先に帰った。


「んじゃあ、実戦稽古といこうか。アンタ実戦経験は何回くらいあるんだ?」


 裁奈が尋ねる。


「ええっと。合計三回っすね。最初に訳も分からず火の玉女に襲われたのと、大学の深山って女に襲われたのと、裁奈さんに助けてもらった大学での騒動の時です。あの時はマジで助かりました。ありがとうございます」


 洋平は軽く頭を下げる。


「気にすんな。ヒガ様からの依頼でもあったし、天啓者同士なんだ協力しようぜ。つか、それなりに戦ってはいるんだな……」


「いや、でも全部逃走してたり、裁奈さん達に助けてもらったりで、ボロッボロですよ? ランニングしたり、筋トレしたりは一応してますけど、正直自分のこと弱いと思ってます」


 思わず肩をすぼめる。


「まあ、そう思えてるなら上等だよ。今から稽古もするしな」


 そう言い、三メートル程の鞭をカバンから取り出す。


「ん? 鞭っすか? コレで稽古?」


 思わず目を丸くする。


「ホレ、両手出せ」


 裁奈が近づいてくる。


「あ、ありがとうございます」


 鞭を渡されると思った、洋平の両手はガチャリと手錠で固定される。


「ハ? えっ? 俺手錠はめられてんすけど。何するんですか……?」


「何って? 何回も言わすなよ、稽古きょういくだよ」


 裁奈は嗜虐的な瞳で鞭を舐める。


「おいおいおい。裁奈さんソッチ系っすか? 俺痛いの嫌なんですけど……」


「痛みがないと何も学べねぇだろ? アンタみたいな不出来な弟子はよぉ……。だから、アタシがよく教えてやるよ……」


「ちょ、ちょ、マジで言ってます? この状況で何するんですか……?」


「キャンキャンうるせぇよ……駄犬。アンタは黙って、鞭打たれときゃいいんだよ……。嫌だったら、必死に躱すんだね」


「何か犬に格下げされてるし……」と言ってる間に、裁奈は鞭を振り上げ、洋平目掛けて打ち付ける。


「危なッ……!」


 間一髪躱すも、鞭が当たった木には鞭の跡が残っている……。


「マジで怪我するレベルなんすけど……。えっ、コレ躱し続けるんですか?」


「はぁ……。何回も言わねぇと分かんねぇのか……。すこぶる頭が悪いみてぇだな。身体で覚えろ駄犬。アタシの鞭は痛ぇぞ……?」


 裁奈は暴虐な瞳で冷徹に言葉を発する。


「あ、ダメだ……。この人……目イッちゃってるわ」


「しゃべれるくらい余裕があるんだな駄犬。速度上げてくぞ……?」


 裁奈は洋平のギリギリ躱せるか、躱せないかの速度で鞭を振るい続ける――。



 ◇◇◇



「はァはァ……。クソが……。十分以上経ってんじゃねぇか……?」


 洋平は身体中、鞭による傷や痣だらけだ……。


「もうギブアップか? 駄犬。アタシとしてはもっと情けねぇ鳴き声聞かせてほしいけどな」


「ドS女王様よォ……。手錠かけたくらいでいい気になるなよ……。俺ァ『平穏』を愛してるんだ。痛いのも辛いのも嫌いなんだよ……」


「ふ~ん、で? 駄犬に何がデキんだ? アタシに何かデキるとでも思ってんのか?」


「お前ェの鞭の動きは何度も見た。躱して、一撃入れてやるよ……!」


「……駄犬。口の利き方から教えねぇといけねぇみたいだな。痛くするぜ……」


 裁奈の目に残虐な光が奔る。


 裁奈の鞭は先程よりもキレが上がっていた。


 だが、洋平もただ鞭を受け続けた訳じゃない。

 

 裁奈の挙動、鞭の軌道、手錠をかけられていてもできる動き、これらを総合して行動に移せばいい……!


「ハッ! さっきよりは多少マシな動きになったな、駄犬。ほら、あと五歩だ。近づいてこいよ。できるならな……」


「言われなくてもぶっ飛ばして差し上げますよ。女王様……!」


 一気に加速し、蹴りを入れようと足を振り抜く……。

 刹那、軸足にしていたもう片方の足を鞭で払われる。


「なッ……」


 洋平はその場でバランスを崩し、倒れ込む。


「無様だなぁ、駄犬。アンタじゃアタシに一撃すら入れられねぇ。もういいや……。『裁奈さん、回復してください』って頼めば回復してやるよ」


 裁奈は洋平を見下ろしながら言葉にする。


「おいおいおい……。俺もナメられたもんだな……。んなこと……」


 話している途中で激しい鞭の一撃を腹部に入れられる。

 鞭は痛覚を異常に刺激する。身体が痛い、危険だと警鐘を鳴らす。


「……早く言えよ駄犬。これ以上痛いのは嫌だろ……?」


 恍惚とした表情で裁奈は呟く。


「…………裁奈さん、回復してください……」


「ハハハ。よく言えたぞ、駄犬。回復してやろう」


 そう言い、裁奈は《回復魔法》を発動する。



 ――傷はほぼ回復したな……。俺の平穏を脅かす存在は許さねェ――。


 洋平は両手両足を使い、思いっきり跳びあがる。


 直後、むにゅっと柔らかい感触を感じる……。

 ん……? 洋平はどうも裁奈の胸に頭から突っ込んだようだ……。


「発情してんじゃねぇよ、駄犬!」


 鞭のグリップで鳩尾を強烈に突かれる。そのまま、後ろに倒れたところへ、鋭くしなる鞭が左肩に当たる。


「ガハッガハッ…………。痛ッてェ……」


「おい、駄犬。わざと胸狙った訳じゃねぇだろうな? ……だが、今の闘志は良かったぞ……。その闘志を忘れんな。ヤラれることに慣れた犬しばいても面白くねぇからよぉ……。その傷は回復してやらん。今日一日身体に刻み込んどけ」


 裁奈はやや熱を帯びた声で話した後、そのまま晴夏達の稽古をしている所へ向かって歩いていく。


「……クソッ……。次は絶対に負けねェ……! …………女王様の胸柔らかかったな。てか、俺手錠かけられっぱじゃね……?」


 何か複数の感情が一気に溢れてきてる感じだ……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ