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マナの天啓者  作者: 一 弓爾
守護
11/102

十一話 優しい女装

 洋平と晴夏は大学の状況確認も兼ねて通学を継続する予定だった。


 しかし、大学での原因不明の乱闘騒ぎを受けて、大学の判断で授業自体が一週間休みとなった――。


 ◇◇◇


 翌日になり、裁奈探偵事務所に朝九時に着くように家を出る。


 いつものように晴夏が待ち構えていた。ただ、見た目がいつもと大きく異なっている。


「晴夏……だよな……?」


 洋平は思わず尋ねる。


 目の前にはデニムジャケットにひざ丈の花柄のスカート。

 ナチュラルメイクをしている女の子と見紛う程、〝可憐な男の子〟がいた。


「ヨウく〜ん! おはよう!」と言い抱きついてくる。


 あ、晴夏だわ、と気づく。


「晴夏……ちょい待て待て待て。その……なんか恥ずかしいからちょっと離れて……」


「あれ? 照れてるの? ヨウ君?」


 晴夏はニヤニヤと嬉しげに笑っている。


「照れるというか、お前ェは自分の容姿をもうちょっと自覚した方がいいぞ? てか何で、女装してんだ? 調査のためか?」


「う~ん、稽古のためかな? まあ、あんまり詮索しないでね」


 晴夏は優しく微笑む。


「そうか……。分かった。今日から稽古だな。頑張ろうぜ!」


 ◇◇◇


「おはようございます~!」


 洋平と晴夏が挨拶をしながら入っていく。


「おう、おはよう。ん……? 和泉、誰だその横の可愛い子は?」


 裁奈が尋ねる。


「可愛いだなんて……。もう……裁奈さん口上手ですね……」


 晴夏が頬を桃色に染め、くねくねとしている。


「晴夏っすよ。昨日俺と一緒にいた」

 

 洋平が伝える。


「……あ? アンタ晴夏なのか? 髪ウェーブかかってるし、そんなに髪長かったか?」


「髪はウィッグを着けてます。『女装するのも楽しい』ので……」


 晴夏は太陽のような優しい笑顔を向ける。


「……そうか。……アンタ良い奴だな……。奥に舞里がいる。あと、瓜生も来てるぜ。早速だが仕事だ……! 気合入れていくぞ!」


 裁奈は声量を上げる。


「うす!」


 洋平達は事務所の奥へと進んでいく。


 ◇◇◇


 ――「裁奈さ~ん。何か思ってた仕事と違うんすけど。俺達、二時間くらい書類整理と片付けしてません?」


 洋平は思わず尋ねる。


「ん? 何言ってんだ和泉。大事な仕事だぞ。元々、探偵事務所はアタシ一人でしてたところに半年前に舞里がバイトで入ってる状態だったからな。整理できてないもんが山程あんだよ」


 裁奈が答える。


「そうなんすね。……稽古と並行して調査と仕事があると思ってたので……。初日から二時間ぶっ通しで書類整理するとは思ってなくて~」


 遠回しに稽古のことを聞いてみる。


「和泉……。アンタまさか何もせず稽古つけてもらえると思ってたのか?」


 裁奈がデスクトップパソコン越しに、洋平を鋭い目つきで捉える。


「いやいや、そんなことないっすよ? その~、早く強くなりたい気持ちが先行しちゃったというか、いつまでするのかなァとか考えたりしてて……」


「あぁ、そうか。今日はアポもないし、午前中は片付けだな。午後からは稽古つけてやる。事務所はその間は閉めとくわ。出血大サービスだぜ……?」


 パソコンを触りながら裁奈が答える。


「分かりました。すみません、色々聞いちゃって」


 洋平は素直に謝っておく。


 その後、十三時まで片付け作業は続いた。




「みんなお疲れ。昼食うか。有り合わせのもんで作るけどいいか?」


 裁奈が冷蔵庫を見ながら問いかける。


「裁奈さん、僕割と料理得意なんで休んでてください」


 瓜生が声を出す。


「お? マジか。助かるわ。アタシが作ると似たような味付けばっかりになるからな」


「……裁奈さんのご飯……全体的に味付け濃くて辛い……」


 舞里がぽつりと呟く。


「ミドイケ先輩、イケメンで料理までできるんすね……」


 ……正直ちょっと腹立つな……。


「ちゃぱつん、僕でよければ料理教えるよ? どうだい、今から親子丼作ろうと思ってるけど、一緒に作らないかい?」


 瓜生は綺麗な瞳で洋平の目を見る。


「ミドイケ先輩…………。すみません。俺……不甲斐ないっす。イケメンで料理作れるとか、俺勝てるとこないやん。何だコイツ腹立つなァって思っちゃいました。俺……悔しいっす……」


 洋平は頭を下げながら、身体を震わせる。


「ちゃぱつん……。君には君の良さがたくさんあるよ。心の中で僕のことをそんな風に思ってたことはショックだけど、僕程のオムファタールともなると、嫉妬してしまう気持ちも分かるよ。一緒にもっともっと良い男目指そうよ……」


 瓜生は洋平の肩に手を置く。


「ミドイケ先輩……。俺頑張ります……!」


 なんて良い人なんだ……。


「瓜生先輩、すみません。ヨウ君すぐイケメンに嫉妬するんで……。僕も一緒に手伝うので、三人で親子丼作りましょ」


 晴夏が声をかける。


「そうしようか。あと晴夏君、今の格好もすごく素敵だよ。髪と服が昨日とガラッと変わったから、すごく華やかに感じるよ」


 瓜生は何の偽りもない声を出す。


「嬉しいです! ありがとうございます! ヨウ君も見習いなよ……?」


「見習うようにするわ……。イケメンへの無意識の敵意はダメだな……」――。


 ◇◇◇


 とろっとした半熟卵に柔らかそうな鶏肉、上に乗っている三つ葉が映えている親子丼ができた。出汁の匂いが食欲をそそる……。


「瓜生、アンタやるな~。めちゃくちゃ美味ぇぞ! いつも飯作ってんのか?」


 裁奈が美味しそうに親子丼を頬張りながら尋ねる。


「料理好きなので作ること多いですよ。それに一人暮らしですので」


 瓜生は素直に嬉しそうな顔で答える。


「ミドイケ先輩……。完敗っす……。俺、もっともっと良い男になれるように自分磨くっす」


「いやいや、ヨウ君何で瓜生先輩と張り合ってるの?」


 晴夏は笑いながら言葉を出す。


「舞里、アンタも食べなよ? 美味いぜ?」


 裁奈は渡辺に声をかける。


「いえ……。自分で弁当作ってきてるので……」


 渡辺は離れたデスクで一人弁当をゆっくりと食べている。


「渡辺さん、男嫌いなのには何か理由があるんだと思う。もし、料理食べたくなったら言っておくれ」


 瓜生は優しい声だ。


「……分かりました……」


 舞里は小声で一言のみ返答する――。


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