百話 祝賀会
恭介と会ってから六日が経ち、洋平は晴夏、空乃と裁奈探偵事務所に向かうために待ち合わせをしていた。
「久しぶりだね! ヨウ君! 空乃ちゃん!」
晴夏は先に来ていた洋平と空乃を見るなり、物凄い速度で洋平に抱きつく。
「ぐえゥ……。晴夏……。俺、完全回復はしてねェから……。身体……ぷるぷるする……」
「うん! 僕も完全回復はしてない! でも、ヨウ君エネルギー補充しないと回復速度が上がんないよ……」
晴夏は久々に主人に会った仔犬のような、嬉しさいっぱいの瞳を向ける。
「晴夏ァ。お前ェその顔はずりィぞ……。……あと、十秒だけな……」
「うん! エネルギーで満たされていくよ……」
晴夏は肌艶が良くなっていくように見える。
「空乃は元気か?」
「バリバリ元気だよ! 動き足りないくらい!」
「マジかよ。俺ァもう動きたくねェぞ……。そういや、空乃は一日で結構回復してたよな。修行の賜物か?」
「まあね~。私、回復するの早いんだ。色々家で特殊な訓練受けてるからさ」
「な、何か凄そうだな……。俺も受けたら回復早くなるのか……?」
「なると思うよ。死ぬほどしんどいけど」
空乃は爽やかな笑顔だ。
「あァ……。うん、まあ興味本位でするもんじゃねェよな。はは……」
「別に遠慮しないでもいいんだよ? 和泉君?」
「いえ、遠慮しときます……」
「ありがと、ヨウ君! 回復バッチリ!」
晴夏は眩しい笑顔だ。
「よし、んじゃあ行くか!」
◇◇◇
裁奈探偵事務所に到着する。
「おう、和泉、晴夏、空乃。元気してたか?」
裁奈が笑いつつ出迎えてくれる。
「はい! 親父と南城さんの治療の成果もあって元気っす!」
裁奈の後ろから、舞里がそっと出てくる。
「三人とも改めてありがとうね。私のために宮宇治家と戦ってくれて。私もすっかり元気だから安心してね」
舞里は自然な笑顔を見せる。
「舞里ちゃん! 一週間ぶりだね! 元気そうで良かった……。本当に……」
「は、晴夏ちゃん。私は大丈夫だから、そんな顔しないで……」
舞里はオロオロと細かく動いている。
「そうだよね。ごめんごめん! 僕すぐ感傷に浸っちゃうから……」
「晴夏、めっちゃ心配してたもんね! でも、無事皆で帰ってこれたんだ。明るくいこうよ!」
空乃は晴夏と舞里の肩に手を回す。
「そうだね。明るくいこう!」
晴夏の顔がぱっと明るくなる。
「うん。私もそうしたい……!」
舞里も晴夏に続くように明るい顔をする。
「よっし! じゃあ、面子も揃ったことだし、祝賀会始めるか! 準備ももうできてるぜ!」
裁奈が奥の部屋へ案内する。
「え? もうできたんすか? 手伝おうと思ってたのに……」
「誰よりも早く準備したいって聞かない奴がいてな……。アタシと舞里はソイツと一緒に朝から準備してたんだ」
「え? それって……?」
「ちゃぱつん! やっと会えたね! 僕の認めたオムファタールよ!」
「ミドイケ先輩! 無事でしたか?」
「もちろんさ! ちゃぱつんや皆が僕を避難させてくれたからね。やっとお礼ができる! 腕によりをかけて料理を準備したからさ。皆で食べておくれ! あ、そうだ晴夏君が好きだって言ってたプリンも買ってきたよ! 有名な所のだよ~!」
「え! プリン! プリン食べたいです! ありがとうございます! 瓜生先輩!」
晴夏は目を輝かせながら瓜生についていく。
奥の部屋にはテーブルいっぱいに料理が用意されていた。
和食に洋食、中華、フレンチ、イタリアン、などなど……。
食べきれるのか怪しい程の料理が並んでいる。
「めちゃくちゃ豪華じゃないすか! え、コレミドイケ先輩が作ったんですか?」
「そうだよ! 裁奈さんと渡辺さんも手伝ってくれたけどね! さあさあ、どんどん食べて! 足りなくなったら僕がまた作るからさ!」
「いや、全部は食べきれないと思いますよ。でも、何も気にせず食べれるのはありがたいです!」
奥に進むと、見えていなかった席に美鈴、志之崎がいた。
「和泉君! 晴夏君! 空乃ちゃん! お久しぶり! 三人を待ってたんだ~! 一緒にご飯食べよう!」
美鈴が眩いばかりの微笑みを向ける。
「うおッ……眩しい……。ここは天国か……?」
「美鈴ちゃん……。ヤバい、食卓で待っててくれる美鈴ちゃん破壊力ヤバい……。しかも、私のこと待っててくれたってことだよね⁉ 嬉し過ぎて立ち眩みしてきた……」
「バカヤロ、空乃。待ってたのは俺達皆だ。独り占めはダメだぞ! ったく油断も隙もない野郎だぜ。だが、マイエンジェルの破壊力は認める……」
「マイエンジェルじゃないでしょ? 毎回言ってるよ、私? 美鈴ちゃんは私の……あ、いや皆のエンジェルなの!」
「お前ェも独り占めしようとしてるじゃねェか!」
「おい……! 美鈴に何かしてみろ……。俺が許さないぞ……」
志之崎が殺気を洋平と空乃に向ける。
「ちょ、ちょっとシノさん。ダメだよ! 皆で仲良くご飯食べよう!」
「エンジェル、志之崎さん。大変失礼しました。空乃にはよく言い聞かせますので、何卒ご容赦を……」
「あ、コラっ! 私のせいにして! あ、いえ、失礼致しました。うちの馬鹿和泉の教育が行き届いてないばかりに。申し訳ございません……」
「空乃ォ。お前ェも人のせいにしてんじゃねェか!」
「ヨウもでしょ? ほら、ご飯食べるよ!」
「はいはいはい、分かったよ。皆さんすみません。お待たせしちゃって……」
「マジで待たせ過ぎだぜ? 和泉。まあいい、じゃあ、食べるとするか」
裁奈は少しだけ苛立った様子だったが、すぐに笑みを浮かべる。
いただきます! という声が響き各々好きなものを食べていく。
どのご飯もお店で出されるレベルで美味しい。