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ソルシエ魔法祭

 ギルバートとソルシエ魔法祭最終日、神殿にある光の女神ポースと闇の神スコタディの像の前に光の花と闇の花を捧げに行く約束をしたエヴリン。

 言い伝えのこともあり、エヴリンはふわふわと夢見心地な気分だった。

(ギルバート様から最終日、大聖堂に花を捧げに行くことに誘われた……。恐らく他意はないのだろうけれど……)

 何とか学園の授業には集中出来たエヴリンだが、それ以外の時間は上の空だった。


 そして迎えた、ソルシエ魔法祭。

 エヴリンは友人達と共に、屋台で売られている魔道具を購入したりするなど、祭りを楽しんでいた。

 その時も、脳裏にはチラチラとギルバートの姿が浮かぶ。

(最終日が……楽しみだわ)

 エヴリンの意識はソルシエ魔法祭最終日に向いていた。


「エヴリン嬢、待っただろうか?」

 ソルシエ魔法祭最終日。エヴリンとギルバートは大聖堂に行く前に一緒に祭りを回る約束をしていた。

「いいえ」

 学園の寮の前で待っていたエヴリンは、少し緊張しながら首を横に振った。

 前に買った、真紅のルビーが埋め込まれた薔薇のネックレスを着けているエヴリン。

 このネックレスが少しだけ勇気をくれるような気がした。

「最終日にだけ出る屋台があるみたいだ。行ってみるか?」

「そうね」

 こうして、エヴリンはギルバートと一緒にソルシエ魔法祭で賑わう街へ向かった。






᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥






 ソルシエ魔法祭最終日ということもあり、帝都ソルシエの街は今まで以上の盛り上がりを見せていた。

 ドラゴン型の魔獣が派手に舞ったり、魔道具による華やかな演出があったりなど、見ていて飽きない。

「わあ……! 凄いわ……!」

 エヴリンはその青い目をまるでサファイアのようにキラキラと輝かせている。

 昨日までとは違う街や屋台に心躍らせていた。

 その時、エヴリンは前を見ていなかったので人とぶつかってしまう。

「きゃっ」

「エヴリン嬢!」


 転びそうになったエヴリンをギルバートが引き寄せた。

 エヴリンはギルバートに抱き締められる形になった。


(え……!? 嘘……!?)

 エヴリンの頭の中は真っ白になった。


 エヴリンの体はギルバートの大きな体に包まれた。ギルバートの温かな体温がダイレクトに伝わって来る。

 エヴリンの顔はりんごのように真っ赤になり、心臓の音はバクバクと非常に煩い。周囲に聞こえてしまうかのように感じた。


「大丈夫か? ……咄嗟のこととはいえ、済まない」

 ギルバートのその言葉と共に、エヴリンは解放される。

「いえ……。(わたくし)の方こそ、周囲を見ていなかったから……」

 エヴリンはまともにギルバートの顔を見ることが出来なかった。

「……エヴリン嬢、今日はソルシエ魔法祭最終日だ。一番盛り上がるし、人も昨日までとは比べ物にならないくらいに多い。だから……」

 ギルバートはそこで少し口籠る。

「その、逸れないように」

 ギルバートはエヴリンに手を差し出した。

 確かに人がかなり多い。

 もしも逸れてしまった場合、合流出来る可能性は限りなく低い。

 手を繋いでおいた方が良いということだろう。

「……そう……ね」

 エヴリンは緊張しながらも、ギルバートの手を取った。


 エヴリンの小さな手は、ギルバートのゴツゴツとした大きな手に包まれる。


(ギルバート様の手……大きくて、温かい)

 ドキドキしつつも、エヴリンは安心感に包まれる。

 頬を赤く染めつつも、ほんのり表情を綻ばせた。


 エヴリンとギルバートは手を繋ぎ、お祭り騒ぎの帝都ソルシエを回る。

(……このシチュエーション……まるで恋人同士みたいだわ)

 エヴリンはチラリとギルバートの顔を見上げ、ほんの少しだけ口角を上げる。

 その時、最終日限定の屋台が目に入る。

「あ……! あの屋台、素敵ね」

 エヴリンは目をサファイアのようにキラキラと輝かせる。

「ん? ああ、あの屋台か。確かに、面白いものを売っているな」

 ギルバートも興味がありそうな表情である。


 エヴリンとギルバートは屋台に向かい、そこで売られている珍しい品々を見る。

「いらっしゃいお二人さん! 加護のネックレスとブレスレットはいかがかな?」

「加護?」

「一体どういう効果があるのですか?」

 エヴリンとギルバートは屋台の店主の言葉に首を傾げる。

「このネックレスやブレスレットの宝石部分に魔力を込めるんだ。そしたら、ピンチが迫った時に助けてくれる。自分で魔力を込めたものを身につけるより、家族や友達、恋人なんかに魔力を込めてもらったものの方が効果は高い。お二人さんみたいなね」

 ニッと笑う店主。

((わたくし)達みたいな……。もしかして、恋人同士だと思われてる……!?)

 エヴリンは頬を赤くし、チラリとギルバートを見る。

 ギルバートはネックレスやブレスレットをまじまじと見ているだけで、いつも通りに見えた。

(そうよね。ギルバート様はいつも通りよね)

 少しだけ肩を落とすエヴリン。

「エヴリン嬢、せっかくだし、買ってみないか? ……この色違いのブレスレットを」


 ギルバートが示したのは、サファイアのブレスレットとルビーのブレスレット。

 デザインが同じで違うのは宝石くらいである。


「……そうね」

 エヴリンはコクリと頷いた。

(ギルバート様と色違い……。思い出の品にピッタリね)

 エヴリンはそっと胸に手を当てる。

 鼓動は速くなっていた。


 二人はブレスレットを購入し、それぞれ魔力を込める。

 エヴリンはサファイアのブレスレットに魔力を注入し、ギルバートはルビーのブレスレットに魔力を注入した。

「エヴリン嬢、手を出してくれ」

 ギルバートに言われるがまま手を出すエヴリン。


 エヴリンの右手には、ギルバートの魔力が込められたルビーのブレスレットが着けられる。


「じゃあ、ギルバート様も手を出してちょうだい」

 同じように、エヴリンも差し出されたギルバートの右手にブレスレットを着けた。


 エヴリンが魔力を込めた、サファイアのブレスレットである。


(ギルバート様がサファイア、(わたくし)がルビー……。お互いの目の色だわ)

 エヴリンはそっと自身の右手にギルバートから着けてもらったルビーのブレスレットに触れた。

(そう言えば、今着けているネックレスもルビー……。ギルバート様の目の色ね)

 エヴリンは首元のネックレスにも触れて微笑んだ。


 その後も、逸れないようにということでエヴリンはギルバートの手を握り、祭りで賑わう街を歩いていた。

「魔道具の屋台もたくさんあるわね」

 エヴリンは楽しそうに呟くが、隣にいるギルバートは少しだけ複雑そうな表情になる。

「魔道具か……」

 そこでエヴリンはハッとする。

(そうだったわ……! ギルバート様は東マギーアの方。魔道具を禁じられている国だから……)


 エヴリンは西マギーアの人間、ギルバートは東マギーアの人間。

 ソルシエ魔法祭を楽しむことでいっぱいになっており、エヴリンはその事実を忘れていたのだ。


「やっぱり……ギルバート様は魔道具が嫌いなの?」

 エヴリンは恐る恐る聞いてみた。

「いや……毛嫌いしている程ではない。祖母の影響で、西マギーアや魔道具に対しての嫌悪はない方ではあるが……やっぱり十六年も東マギーアで育ったから、魔道具に対しては今も少しだけ抵抗がある」

 ギルバートは苦笑した。

「ても、西マギーアで魔道具がどんな風に役立っているかは……見てみたいと思う」

 ギルバートは表情を和らげて、サファイアのブレスレットにそっと触れた。

「そう……」

 エヴリンはギルバートの言葉に、少し嬉しくなった。

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