これはデート?
(これは一体どういう状況なのかしら?)
エヴリンはギルバートと並んで歩いていた。
先程までなら街の様子をワクワクしながら眺めることが出来たが、今は心臓が煩くてそれどころではない。
「エヴリン嬢? もしかして、歩くペースが速いか?」
ギリバートは立ち止まり、エヴリンを気遣ってくれる。
「いえ、大丈夫よ。ありがとう、ギルバート様」
エヴリンは咄嗟にそう答えた。
「なら良かった」
ギルバートはホッとしたように再び歩き出す。
そのペースはエヴリンに合わせてくれていた。
(歩くペース……合わせてくれているのね)
その気遣いに嬉しくなり、エヴリンは頬を赤く染めながら表情を綻ばせた。
その時、エヴリンの目にある店が飛び込んで来る。
「あ……」
エヴリンは思わず立ち止まった。
ショーウィンドウにはキラキラと色とりどりの宝石が散りばめられたアクセサリーが飾ってある。思わず手を伸ばしてみたくなるくらいだ。
「素敵……」
エヴリンはうっとりと目を輝かせていた。
その輝きはサファイアのようで、店の宝石やアクセサリーにも負けていない。
「エヴリン嬢、入ってみるか?」
ギルバートはエヴリンの様子に気付き、立ち止まってくれていた。
「ええ」
エヴリンはウキウキしながら頷いた。
カラフルな宝石達、数々の美しいアクセサリー。
「わあ……」
アクセサリーショップに入ったエヴリンは心躍らせていた。
色とりどりの宝石やアクセサリーは見ているだけで心が華やぐ。
「煌びやかだな」
ギルバートはうっとりしているエヴリンを見て表情を綻ばせていた。
「お、男性向けのものも取り扱っているのか」
エヴリンがアクセサリーに夢中になっている隣で、ギルバートは男性用のタイピンやカフスボタンを手に取ってみたりしていた。
(あ……)
エヴリンはとあるアクセサリーの前で立ち止まる。
真紅のルビーが埋め込まれた、薔薇のネックレス。
それから、同じく真紅のルビーが埋め込まれた、ラナンキュラスの髪飾り。
(綺麗……)
エヴリンはその二つのアクセサリーに手を伸ばす。
値段を見ると、現在の予算では片方しか買えない。
(どちらにしようかしら……?)
エヴリンは悩んだ末、薔薇のネックレスを買うことにした。
(この髪飾りも素敵だけれど……また今度ね)
名残惜しい気持ちはあるが、ラナンキュラスの髪飾りを元の場所に戻すエヴリンだった。
「気に入ったアクセサリーは買えたのか?」
「ええ。このネックレスを買ったわ。素敵でしょう?」
エヴリンは早速購入したネックレスを着けていた。
真紅のルビーが埋め込まれた、薔薇のネックレスである。
このネックレスのお陰か、先程よりも明るい気分になるエヴリン。
「ああ。……エヴリン嬢に良く似合う」
ギルバートがフッと優しく笑う。
「……ありがとう」
エヴリンはその言葉に胸をときめかせた。
(似合う……ですって)
思わずふふっと口角が上がってしまう。
好きな相手にそう言われて、嬉しくないわけがない。
その時、ぐうっとエヴリンのお腹が鳴ってしまう。
「あ……」
エヴリンは顔をリンゴのように赤く染める。
(そんな……! どうして今鳴るのよ!? ギルバート様の前なのに……)
「今はお昼時だ。確かにお腹が空くよな。俺もそろそろ何か食べたい」
ギルバートはそう言いつつもクスクス笑っていた。
「もう、笑わないでよ。恥ずかしかったのだから」
エヴリンはムッとして軽くギルバートの肩を叩いた。
「済まない。俺も空腹なのは確かだから、何か食べよう」
こうして、エヴリンはギルバートと共に昼食を取ることにした。
᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥
エヴリンとギルバートが入ったのは帝都ソルシエでもかなりの人気のカフェである。
ソルセルリウム帝国の貴族令嬢や令息、裕福な平民達で賑わっていた。
よく見たら、魔法学園の生徒達の姿もちらほらといる。
「このスープ、美味しいわ」
エヴリンは運ばれて来たスープに舌鼓を打つ。
野菜の旨みが溶け込んだコンソメスープは空腹に染み渡った。
「ああ。このパンも、柔らかくてもちもちしているな」
ギルバートはパンを一口食べていた。
エヴリンも同じようにパンを食べてみる。
もちもちとした食感、噛めば噛む程甘味を感じる。
「パンも最高だわ」
エヴリンの頬は緩んでいた。
シャキシャキとした新鮮な野菜がふんだんに使われたサラダ、そしてじっくりと煮込まれた肉料理もエヴリン達のテーブルに運ばれて来た。
エヴリンはナイフで肉料理を一口サイズに切り、口の中に運ぶ。
公爵令嬢であるだけあって、その所作には品があった。
(これは……!)
口の中で肉がほろほろと柔らかくとろけて、濃厚なソースと肉の旨みが絡み合う。
エヴリンは幸せそうに表情を綻ばせた。
「メインの肉料理、そんなに美味しいのか」
ギルバートはエヴリンの様子を見て楽しそうに口角を上げる。
「ええ。口の中でとろけて本当に素晴らしいわ。ギルバート様も早く食べてみてちょうだい」
エヴリンは満面の笑みであった。
ギルバートはエヴリンに言われるがまま、肉料理を口に運ぶ。
その所作の品の良さはエヴリンに負けていない。流石は公爵令息である。
「確かに、これは美味しい」
ギルバートも肉料理に舌鼓を打ち、表情を綻ばせていた。
「エヴリン嬢は……ソルシエ魔法祭のことを知っているだろうか?」
食後の紅茶とデザートのアップルパイが運ばれて来た頃、ギルバートがそう切り出した。
「ええ。ソルセルリウム帝国の友人達が話していたわ。帝都ソルシエで五日間開催される、大きなお祭りよね?」
エヴリンは以前友人達が話していたことを思い出した。
「ああ」
ギルバートは頷く。
「最終日には、ソルセルリウム帝国の帝室の方々が咲かせた、光の花と闇の花。これらを大聖堂にある光の女神ポース様と闇の神スコタディ様の像の前に捧げるみたいだな。今後の活躍だったり、幸せになれるように願い事をしながら」
「ええ……。友人達もその話をしていたわ。願い事の話は今初めて聞いたけれど」
エヴリンは友人達から聞いた言い伝えのことを思い出し、ドキッとした。
(最終日、光の花と闇の花を共に大聖堂に捧げに行った男女は……結ばれる)
「エヴリン嬢は最終日、大聖堂に花を捧げに行くとしたら何を願う?」
「そう……ね……」
エヴリンは少しドキドキしながら考え込む。
(ギルバート様と結ばれますように? でもその前に、西マギーアと東マギーアの関係を改善を願った方が良いかしら?)
「エヴリン嬢、難しい顔になっている。願い事は気休め程度だぞ」
ギルバートはフッと楽しそうに笑う。
「もう。だったらギルバート様は何を願うのよ?」
ムッとするエヴリン。
「そうだな。……世界平和かな」
少し考えたギルバートはそう答えた。
あまりにもギルバートが真面目な表情だったので、エヴリンは思わず笑ってしまう。
「何よそれ。気休めだとか言っていた癖に壮大すぎるわよ。だったら私も世界平和にするわ」
「ああ、世界平和は良いぞ」
おどけたように笑うギルバートである。
「それで、エヴリン嬢、もし良ければ最終日、一緒に捧げに行かないか? 光の花と闇の花を大聖堂に」
「え……?」
ギルバートの言葉に、エヴリンは固まる。
目の前のギルバートは穏やかに微笑んでいた。
(それは……どういう意味かしら? ギルバート様は、言い伝えのことを知っているの?)
聞きたいけれど、うまく聞き出せないエヴリン。
(ギルバート様は言い伝えを知らない可能性もあるわ。そうでなければ、きっと私を誘わない。多分ギルバート様にとって私は、ただ母国語で会話が出来る相手だというだけ。勘違いしてはいけないわよね)
エヴリンは必死にそう言い聞かせていた。
「エヴリン嬢、もしかして駄目だろうか?」
少し不安そうな表情になるギルバート。
するとエヴリンは必死に首を横に振る。
「駄目ではないわ。一緒に行きましょう、ギルバート様」
エヴリンはそう答えていた。
(勘違いしてはいけないわ。だけど……少しだけ、思い出を作るくらいなら……)
エヴリンはほんのり頬を赤く染め、表情を綻ばせていた。
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