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ようやく役に立てる

 ギルバートは左足を挫いたエヴリンを安全な場所まで横抱きにして運んでくれた。

「ありがとう、ギルバート様。その……(わたくし)、重くなかったかしら?」

 下ろされたエヴリンが恐る恐る聞いてみると、ギルバートは首を横に振る。

「全然。むしろ軽過ぎるくらいだ。ちゃんと食べているのか心配になる」

「そう……」

 エヴリンは少しだけホッとした。

 乙女としては非常に重要なことである。

「それにしても、道中大声で呼びかけても周囲からは何の反応もなかったな。先生や他の生徒はどこにいるんだろうか?」

「そうよね。結構離れてしまった可能性もあるかもしれないわね」

 その時、少し冷たい風が吹く。

「……日も傾いて来ているわ」

 木々の間から射す陽はオレンジ色に染まっていた。

 そろそろ夕方頃だと思われる。

「完全に陽が隠れるまでに助けが来て欲しいところだが。あるいは、この森を自力で抜け出すか」

「森の出口が分からないから、自力では難しいのではないかしら?」

 エヴリンは少し弱気になってしまう。

「どうしたら良いんだ……?」

 ギルバートは腕を組み、うーんと考える。

(このまま助けが来なかったら……)

 エヴリンは視線を下に向ける。

 その時、キラリと赤く光る小さな石を見つけた。

(これは……?)

 エヴリンはしゃがんでそっとその石を手に取る。

「暖かいわ」

 その石はじんわりと熱を持っていた。

 エヴリンはふと、かつて読んだ図鑑のとあるページに載っていた情報を思い出す。

「これ、炎の魔石ではないかしら?」

「何?」

 ギルバートもしゃがみ込み、エヴリンが持つ石に目を向けた。

「……確かに、炎の魔石だな」

「よく見たら、小さな炎の魔石が結構落ちているわ。この森、魔石が採掘されるのかしら?」

「炎の魔石があるということは、その可能性が高いな」


 魔石とは、魔力を含んだ石のことである。

 光、闇、炎、水、風、土、各魔力により違った効果が現れる石だ。


「確か炎の魔石って少しの刺激で爆発しやすかったわよね」

「ああ。だから取り扱いには十分(じゅうぶん)注意しなければならない。もし炎の魔石が採掘される場所で紛争などが起こったら爆発で広範囲に被害が及ぶだろうな。まあこのくらいの大きさなら、小さな花火くららいの規模だろうが」

 その時、エヴリンの中にある考えが思い浮かぶ。

「ギルバート様、この炎の魔石を上に飛ばして爆発させたら、先生や他の生徒達は(わたくし)達がこの場所にいることに気付いてくれるかしら?」

 エヴリンの案にギルバートはハッと目を見開いた。

「可能性はある。何か魔石を上に高く飛ばせる簡易的な装置を作ろう」

 こうして、エヴリンとギルバートは周囲の木や植物などで使えそうなものを集め始めた。


「うわっ」

「ギルバート様、何があったの?」

 ギルバートの声を聞き、エヴリンは少し心配になりながら彼の元へ向かった。

「いや……ナイフで指を切っただけだ」

 苦笑するギルバート。彼の指には切り傷が出来ており、血が流れている。

「放っておくといけないわ。少し待っていてちょうだい。(わたくし)が調合した魔法薬を持って来るから」

 エヴリンは自身の鞄から小瓶を取り出した。

 川に落ちた時に濡れてしまったが、小瓶の中身に被害はないようだ。

「光の女神ポース様、闇の神スコタディ様、どうかギルバート様にご加護を」

 エヴリンは祈りながらギルバートの切り傷に少しだけ垂らす。

 するとみるみるうちにギルバートの指の切り傷は消えた。

「ありがとう、エヴリン嬢」

「治癒作用のある光の魔力の使い手がいない場合は魔法薬の出番よ」

 エヴリンは自信たっぷりに微笑んだ。

「それにしても、光の女神ポース様と闇の神スコタディ様に祈りながら治療されるのは幼い頃母上にしてもらって以来だな」

 ギルバートは懐かしむような表情だ。

「幼い頃、誰もが通る道ね。(わたくし)もお祖母(ばあ)様が生きていた頃、よくやってもらったわ。幼い頃の話だけどね」

 エヴリンも祖母との思い出を懐かしんでいた。


「よし、出来たぞ」

 ギルバートは炎の魔石を上に高く飛ばす装置を完成させた。

 まるでパチンコのような装置である。

 伸縮性のある植物がこの森にあったので、作ることが出来たのだ。

「ありがとう、ギルバート様」

「いや、お礼を言うのは俺の方だ。炎の魔石を上に飛ばすアイディア、それから魔法薬のこと、ありがとう。君のお陰で助かった」

「そんな。(わたくし)は今まで何のお役に立てていなくて、ギルバート様に頼り切りだったわよ」

 ギルバートからお礼を言われ、少し照れてしまうエヴリンだった。

(だけど、ようやくお役に立てたのならば、嬉しいわ)

 エヴリンの中で、今回のことは確かな自信に繋がっていた。


「じゃあ行くぞ」

「ええ」

 ギルバートは力強く装置を用いて炎の魔石を上に高く飛ばした。

 すると、炎の魔石は空高い位置でドーンと爆発する。

 それはまるで花火のようであった。

 真っ赤な花火が空に咲く。

「綺麗……」

 エヴリンは空を見上げ、思わず見惚れていた。

「確かにな」

 ギルバートはフッと笑った。

 花火は消え、再び周囲は静寂に包まれる。

「……先生や他の生徒達に見えなかったのかしら?」

「もう一度やってみよう。小さな炎の魔石はまだあることだし」

 少し不安になるエヴリンに対し、ギルバートを魔石を準備し始めた。

 その時、少し離れた場所から人の声が聞こえた。

 エヴリンとギルバートはハッとする。

「エヴリン嬢、誰か来るみたいだ」

「ええ。先生かしら?」

 少しの期待が胸の中に広がった。

「あ! 先生! エヴリン様とギルバート様がいました!」

「ああ! 二人共無事だったか! 本当に良かった!」

 エヴリンとギルバートを探していた先生と生徒達だった。

「良かったわ! 先生達にさっきの花火、見えたみたい!」

「ああ! そうだな! エヴリン嬢のアイディアのお陰だ!」

 エヴリンとギルバートは顔を見合わせ、手を取り合って喜ぶ。

「あ……いきなり済まない」

「いいえ……気にしていないわ」

 お互い手を握っていたことに気付いて赤面する二人だった。


 どうやらエヴリンとギルバートは先生や他の生徒達がいる場所からかなり離れた所にいたらしい。

 よって二人の救出が一番最後であった。

(大変だったけれど……ギルバート様と一緒で……何だか楽しかったわ)

 左足を挫いていて救護班に運ばれるエヴリンは、チラリとギルバートを見て微笑んでいた。

 同時に、ギルバートに対してある気持ちも生まれ始めていたのである。

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