過去
ギルバートとエヴリンの祖父。
激しい戦いの末に勝利したのはギルバートだった。
エヴリンの祖父はギルバートの攻撃を受けて倒れていた。
「エヴリン嬢……!」
ギルバートは駆け寄ってきたエヴリンにフッと優しい笑みを向ける。
勝ったとはいえど、ギルバートもそこそこ体にダメージを受けていた。
「良かった……。本当に良かった。貴方が勝つと信じていたわ」
エヴリンは青い目を真っ直ぐギルバートに向けていた。
そしてエヴリンはサファイアのブレスレットをギルバートの右手に着ける。
「ありがとう、エヴリン嬢」
ギルバートはスッキリと全力でやり切ったような表情だった。
「結構傷だらけね。魔法薬を準備するわね」
「ああ、頼む」
すると、少し離れた場所でエヴリンの祖父が「うう……」と呻き声をあげた。
「お祖父様……」
エヴリンはハッとして祖父の元へ近付く。
「エヴリンよ……どうしてだ? どうして東マギーアの男と……? 東は私から妹を奪った国なのだぞ」
悲痛そうな表情の祖父である。
祖父にとって東マギーアへの憎悪は相当なものであった。
エヴリンは少し悲しそうに微笑む。
「お祖父様、確かに私は、ソルセルリウム帝国に留学する前は東マギーアのことをただひたすら悪い国だと思っておりました。ですが、彼、ギルバート様と出会って、東には東なりの正義があり、西は西なりの正義を掲げていただけであることだと分かったのです。夏季休暇には、実際に東マギーアを見て来ましたわ。実際に東マギーアを見ることで、東の王族や貴族達は魔力を持たない平民を虐げているわけではないことを知りましたの」
エヴリンの青い目は真っ直ぐであった。
その目を見た祖父は、力なく自嘲した。
᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥
訴えかけるように自身を真っ直ぐ見つめる青い目。それは間違いなく孫であるエヴリンのものであった。
そしてその目はやはり自身の妹であるシャーロットに似ていると、エヴリンの祖父――ジョン・サフィーラは思うのであった。
時はジョンがまだ子供だった頃に遡る。
「お兄様!」
蜂蜜色の長い髪に、サファイアのような青い目の少女が無邪気にジョンの元へ駆け寄って来た。
彼女はジョンの妹、シャーロットである。年はジョンよりも二歳年下。そしてその見た目はエヴリンによく似ていた。
「こら、シャーロット。またベッドから抜け出したのか? 寝ていないと駄目じゃないか」
シャーロットは体が弱く、この日も熱を出して寝込んでいたのだ。
そんなシャーロットは外で駆け回るのが好きなので、熱が出ていてもお構いなしにこうしてベッドから抜け出してしまうのだ。
「だって寝ているだけだなんてつまらないんですもの」
シャーロットは兄のジョンに注意され、ムスッとむくれる。
「全く……」
ジョンはそんなシャーロットに軽くため息をつくが、生まれつき体が弱くベッドの上にいることが多い彼女の気持ちも分からなくはないので強く注意は出来ずにいた。
「仕方ない。ならば代わりに私が本を読んでやる。だからベッドから出て走り回ることだけはするんじゃないぞ」
フッと優しく微笑み、ジョンはシャーロットに代替案を提示した。
少しでもシャーロットが退屈しないようにと考えたのだ。
「……分かりましたわ。それならこの前の物語の続きを読んでください!」
「ああ、分かった」
ジョンは優しくシャーロットの頭を撫でた。
体が弱いがお転婆なところがあり、好奇心旺盛な妹。ジョンにとってシャーロットは何よりも大切な存在だった。
数年後。
成長してもジョンとシャーロットの仲は非常に良かった。
シャーロットも少しだけ体が強くなり、幼い頃よりは寝込む頻度も少なくなっていた。
「シャーロットにも釣書が届くようになったか」
「ええ。私、もう十三歳ですもの。もう大人と言っても過言ではありまわんわ」
したり顔のシャーロットである。
当時婚約者を決めるのは大体十三歳頃からが普通であった。
十三歳になったシャーロットもそろそろ婚約者を決める時期が来ていたのである。
「私にとってはいつまでも幼い妹に見える」
ジョンが少し呆れたように笑うとシャーロットはムッと頬を膨らます。
「もう、お兄様ったら」
その表情は、やはりまだ子供っぽかった。
そんなシャーロットを見て、ジョンは少し安心したように表情を綻ばせるのであった。
「どれどれ……シャーロット、この男は性格に難ありと聞くからやめておけ。この男は性格はシャーロットと合うだろうが、領地が少し傾いているな……」
「お兄様、大丈夫ですわよ。私、自分で婚約者くらい決められますわ。サフィーラ公爵家に利がある相手を選べます」
いつの間にか貴族らしい考えになっていたシャーロット。その成長にジョンは少し驚いていた。
「シャーロット、お前はそんなことを考えず、自分の幸せを考えれば良いさ」
「お兄様が私の幸せを考えてくださるように、私だってお兄様のことを考えておりますわ。お兄様が将来サフィーラ公爵家を継いだ時、力になれるようにしておきたいのです。その為にも、サフィーラ公爵家に利がある相手に嫁ぎたいですわ」
シャーロットの青い目は、真っ直ぐジョンに向けられていた。
「シャーロット……。ありがとう。それなら、一緒に考えていこう。サフィーラ公爵家のことも、お前の婚約者のことも」
ジョンは妹の覚悟をしっかりと受け止めた。
「はい、お兄様!」
シャーロットは満足そうな表情だった。
しかし、兄妹の幸せな時間はそう長くは続かなかった。
当時まだ西マギーア、東マギーアに分断されてはおらず、マギーア王国という一つの国だった。
しかしマギーア王国は内乱の最中にあった。
国王には双子の息子がいたのだが、どちらを次期国王にするかを決める前に亡くなってしまったのだ。
双子の王子はそれぞれ方針の違いにより衝突し、それがマギーア王国全体の内乱に広がっていたのである。
ジョン達サフィーラ公爵家は魔道具で国民の生活を向上させようとした双子の兄の派閥、西陣営と言われる派閥であった。
しかしジョンは無闇に争うことは望んでいなかった。ジョンはただ、シャーロットや家族を守ろうと動いていた。
しかしそんなある日、ジョンとシャーロットもついに闘争に巻き込まれてしまったのだ。
その日、ジョンはシャーロットと用心しながら街に出かけていた。しかし潜んでいた魔力を重んじる双子の弟王子派閥、東陣営と言われ派閥が街を爆破させたのである。
それに伴い、街は戦場と化した。
魔力や魔道具がぶつかり合い、混乱の最中にあった。
「シャーロット、逃げるぞ!」
「はい、お兄様!」
ジョンはシャーロットを引き連れて安全な場所に避難しようとした。
しかしその途中、東陣営の者達に囲まれてしまう。
ジョンは必死にどう切り抜けるか考えていた。
シャーロットはそんな中敵に攻撃を仕掛けて隙を作った。
「シャーロット、お前何をして!」
「お兄様、逃げて!」
シャーロットは隙が出来た際、ジョンを突き飛ばして逃したのだ。
しかしシャーロットはその攻撃で魔力を消耗し、その場に倒れてしまう。
東陣営の者達は容赦無くシャーロットを攻撃する。
「やめろ! シャーロット!」
ジョンはシャーロットを助けようとするが、全く歯が立たなかった。
そしてシャーロットは敵からの攻撃で命を落とすのであった。
その後、ベーテニア王国の介入によりマギーア王国は西マギーアと東マギーアに分断された。
ジョンはシャーロットを殺した東マギーアを恨み続けるのであった。
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