ギルバート対エヴリンの祖父
「お祖父様、彼は」
「エヴリン、その男から離れなさい。お前はきっと騙されているんだ」
エヴリンは祖父を説得しようとしたが、やはり聞く耳を持ってくれないようだ。
「いいえ、お祖父様」
予想はしていたが、やはりエヴリンにとってギルバートから離れる選択肢は考えられなかった。
すると、ギルバートが前に出る。
「エヴリン嬢のお祖父様、初めまして。俺は」
「黙れ!」
ギルバートは自己紹介をしようとしたようだが、エヴリンの祖父が遮る。
更にエヴリンの祖父はギルバートに魔力で攻撃をした。
「お祖父様、やめてください!」
エヴリンは必死に祖父を止めようとするが、祖父の攻撃は容赦なくギルバートに向かう。
このままではギルバートがやられてしまう。
しかし、祖父の攻撃が当たる寸前に、ギルバートの右手首のブレスレットのサファイアの部分が強く光った。
エヴリンが魔力を込めたブレスレットである。
ギルバートを守るかのように、彼の前に結界が張られていた。
「ブレスレットの力……」
ギルバートはサファイアのブレスレットとエヴリンを交互に見る。
「良かった。ギルバート様のことも守ってくれたのね」
エヴリンは少しだけ表情を綻ばせた。
夏季休暇の時、西マギーアで起こった内乱の際、エヴリンも爆発に巻き込まれかけた。その時、エヴリンはギルバートの魔力が込められたルビーのブレスレットに守られたのだ。
「東の癖に卑怯な小道具を使いおって!」
エヴリンの祖父は容赦無くギルバートに攻撃を続ける。
そのせいでエヴリン達は悪目立ちしていた。
治安維持を担う警吏がこちらの様子をじっと見てどう動くか考えている様子も見えた。
「やめてください、お祖父様! それに、他の方々が見ておりますわ! 警吏の方々も!」
エヴリンは必死で祖父を止めた。
「……そうか」
エヴリンが警吏という言葉を出したお陰か、祖父は少しだけ冷静になれたようだ。
「ならば場所を変えるとしようか。私は東の王族、貴族を許してはいない。容赦はしないぞ」
エヴリンの祖父はギロリとギルバートを睨んでいた。
「ギルバート様……」
エヴリンは申し訳なさそうにギルバートに目を向ける。
「エヴリン嬢、君の話から、お祖父様のことはある程度は予想出来ていた。俺は逃げるつもりはない」
ギルバートの真紅の目は、強く真っ直ぐだった。まるで未来を諦めていないかのようである。
「ギルバート様……そうですわね」
エヴリンはギルバートの視線に勇気付けられ、少しだけ明るい表情になった。
エヴリンの青い目には先ほどよりも力強い輝きがある。
こうして、エヴリン達はサフィーラ公爵家の屋敷に移動するのであった。
᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥
サフィーラ公爵家の屋敷には、広い庭園がある。
庭園の一画には、戦闘フィールドが設置されていた。
これはエヴリンの兄達が幼い頃、魔力を使った大喧嘩などを頻繁にしていたのでサフィーラ公爵家の屋敷に被害が及ぶと判断し、急遽作られた場所である。
それ以降、エヴリンの二人の兄はこの戦闘フィールドでよく魔力を使った大喧嘩をしたものである。
しかし段々と兄達が成長するにつれ、魔力を使った大喧嘩をする頻度が減り、この戦闘フィールドが使用されることはなくなった。
その戦闘フィールドで今、ギルバートとエヴリンの祖父の戦いが起ころうとしていた。
(ギルバート様……お祖父様……)
エヴリンは真剣な面持ちだった。
サフィーラ公爵家の他の家族は何事だと心配そうである。
「エヴリン嬢」
ギルバートはエヴリンが魔力を込めたサファイアのブレスレットを外した。
「このブレスレットを預かってくれるだろうか? 君のお祖父様とは、正々堂々と真正面から向き合いたい」
真紅の目は真っ直ぐであった。
「分かったわ、ギルバート様」
エヴリンはギルバートの覚悟を感じ、ブレスレットを受け取った。
(私は、ギルバート様を信じるわ)
エヴリンの青い目は真っ直ぐギルバートを見ていた。
「東の人間よ、どうやらお前は私の孫エヴリンと深い関係のようだな。だが私は東のお前を決して認めない」
憎悪を隠そうとしないエヴリンの祖父。その声は重々しかった。
「……それでも俺は、エヴリン嬢の隣に立つ未来を諦めません」
ギルバートは真っ直ぐエヴリンの祖父を見据えていた。芯の通った声である。
「そうか……」
エヴリンの祖父が重々しく呟いたかと思いきや、いきなり水魔法で攻撃は放った。
それが戦闘開始の合図となった。
ギルバートは炎魔法でエヴリンの祖父からの攻撃に対応する。
灼熱の紅と、深海のような冷たい青が激しく衝突した。
その衝撃で、戦闘フィールドが深く抉れる。
エヴリンはその様子にハッと息を飲む。
両者一歩も引く様子はない。
エヴリンはギュッと拳を握りながら、ギルバートと祖父の戦闘を見守るしか出来なかった。
ギルバートの拳から炎の刃が次々に飛び出し、真っ直ぐエヴリンの祖父に向かう。大地を焼き尽くすかのような炎である。まるで自分のエヴリンに対する想いを認めてもらおうとするかのようであった。
エヴリンの祖父はギルバートから攻撃を仕掛けられても微動だにしなかった。
エヴリンの祖父はギルバートを冷たく睨み、サッと手をかざす。すると空気中の水分がエヴリンの祖父の前に集まり、巨大な盾となる。それはまるでギルバートを、東マギーアを認めないと拒絶するかのようだった。
再び炎と水が衝突する。魔力の強さはギルバートとエヴリンの祖父、ほぼ互角に思われる。
エヴリンの祖父の年季のある魔力量は相当なものである。しかし、魔力に重きを置く東マギーアで生まれたギルバートは己の魔力を日々強化している。
ギルバートの想いが勝つか、エヴリンの祖父の長年の恨みが勝つか、誰にも分からない。
ギルバートとエヴリンの祖父の攻防戦はしばらく続いた。
二人共、少しづつ息が乱れてきている。
お互い体力や魔力を消耗していることは確かである。
(ギルバート様……お願い、頑張って)
エヴリンはそう願い、ギルバートのブレスレットをギュッと握った。
ギルバートは右手に膨大な魔力を込める。炎がギルバートの腕を包み、槍のようになる。
ギルバートの拳が閃光のように光ったと同時に、炎の槍が一直線にエヴリンの祖父へと突き進んだ。
エヴリンの祖父は再び水の盾を作ろうとした。
しかし、ギルバートの炎の槍の方がスピードが速い。
ドーン! と激しい音をたて、炎の槍はエヴリンの祖父に衝突した。
土埃が舞い、視界が遮られる。
(どうなったの!?)
エヴリンはハラハラしていた。
土埃が収まった時、その場に立っていたのはギルバートだった。
エヴリンの祖父は力なく倒れる。
「ギルバート様……!」
エヴリンは青い目を輝かせながらギルバートの元に駆け寄った。
ギルバートが勝利したのだ。
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