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分かたれた二国、惹かれ合う二人  作者: 宝月 蓮


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27/30

少しの団欒と勇気、西マギーア再び

 リンジーと話した後、エヴリンはギルバートと共にバーバラの秘密基地に来ていた。

 雌の白猫ニャターシャと雄の黒猫レオニャルドは二人を見るなり、「みゃー」と鳴いて嬉しそうに擦り寄って来る。

「ニャターシャ、レオニャルド、久し振りね」

 エヴリンは頬を緩ませながらニャターシャとレオニャルドを撫でる。二匹共喉をゴロゴロと鳴らしている。

「エヴリンちゃんとギルバートに会えて二匹共、テンションが上がっているわ」

 バーバラはニャターシャとレオニャルドの様子を見てクスクスと笑っていた。

「何だかんだ、夏振りですからね」

 ギルバートもニャターシャとレオニャルドを撫でた。するとエヴリンの時と同じように、二匹共喉をゴロゴロと鳴らす。

 その後、バーバラは紅茶を準備しに行った。

「リンジー様ともきちんと話せたわ」

 エヴリンは無事にリンジーとも打ち解けることが出来、ホッとしていた。

「母上の反応は少し心配だったが、エヴリン嬢と仲良くなったようで良かった」

 ギルバートはエヴリンからリンジーとのやり取りを聞き、嬉しそうに笑っていた。

 ニャターシャとレオニャルドはエヴリンとギルバートの近くでじゃれ合っている。

 その様子に、二人は思わずクスッと笑う。

 ニャターシャはレオニャルドの顔を毛繕いする為、ぺろぺろとなめ始めた。その時、ニャターシャの鼻とレオニャルドの鼻が触れ合う。まるでキスをしているかのようであった。

 それを見たエヴリンとギルバートの間に沈黙が流れる。

「エヴリン嬢……」

 ギルバートは自身の手をエヴリンの頬に持っていく。

 エヴリンはギルバートのしようとしていることが分かり、目を瞑った。

「紅茶、持って来たわよー」

 唇が触れる寸前で、バーバラの声が聞こえ、エヴリンとギルバートは咄嗟に距離を取る。

 二人共顔が真っ赤である。

「お邪魔しちゃったかしら?」

 バーバラはふふふっと茶目っ気たっぷりの表情である。

 エヴリンとギルバートは黙り込んだままだった。

 ニャターシャとレオニャルドは相変わらずじゃれ合っている。

 甘く、少し気恥ずかしい空気が漂っていた。

 そんな中、エヴリンは少しぎこちなく紅茶を飲む。

 華やかな香りが口の中に広がった。

「それで、ギルバートはエヴリンちゃんと一緒に西マギーアにも行くのよね?」

 バーバラがそう切り出すと、ギルバートは「はい」と頷いた。

(……ギルバート様をサフィーラ公爵家の家族に紹介する。お父様、お母様、お兄様達は何とかなるとは思うけれど……)

 エヴリンの脳裏に祖父の姿が浮かぶ。

 東マギーアを毛嫌いしている祖父。ギルバートのことを簡単に認めてくれるとは思えない。

 エヴリンはそれが憂鬱だった。

 思わず右手のルビーのブレスレットを強く握ってしまう。

「浮かない顔ね、エヴリンちゃん」

「エヴリン嬢のお祖父(じい)様のことか?」

 バーバラもギルバートも、エヴリンの表情が曇っていたことに気付いていたのだ。

「……ええ」

 エヴリンはため息をつきながら頷いた。

「お祖父様は、マギーア王国が東西に分断される内乱が起こった時、妹を東陣営に殺されているんです。お祖父様はそれが許せないみたいで。だから、お祖父様がギルバート様と会ったら……」

 エヴリンはそこで口をつぐんだ。

「俺は……前にも言ったがエヴリン嬢のお祖父様と話をしてみたい。この気持ちは変わっていないぞ」

 ギルバートの真紅の目は真っ直ぐである。相変わらず覚悟が決まっている表情だ。

「確かに(わたくし)世代になると、東や西を恨む人は多いと思うわ。むしろ、(わたくし)が例外なのかもしれないわね」

 バーバラは窓の外に見える国境の壁に目を向けた。


 西マギーアと東マギーア、ほんの少しずつ交流が始まってはいるが、まだ国境にそびえ立つ壁は撤廃には至っていない。


「他人を変えることは簡単じゃないわ。でも、だからと言って分かってもらうことを諦めては駄目よ。前にも言ったけど、やれるところまでやって、それから後は天に任せなさい。光の女神ポース様と闇の神スコタディ様は見守ってくださるわ」

 穏やかなシトリンの目、どっしりとした様子のバーバラ。

「バーバラ様……」

 エヴリンはバーバラの言葉にどこか安心感を覚え、勇気をもらえたような気がした。

 ニャターシャとレオニャルドも、「みゃー」と鳴いてエヴリンに頬を擦り寄せている。

 柔らかく温かいニャターシャとレオニャルドはエヴリンを包み込んでくれるようだった。

 エヴリンはニャターシャとレオニャルドを見て表情を綻ばせた。

「お祖母(ばあ)様の仰る通りですね」

 ギルバートもフッと力強く笑っている。


 エヴリンとギルバートは、バーバラの言葉に少しだけ背中を押された気がした。






᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥






 二日後。

 エヴリンの東マギーア滞在可能期間がギリギリに迫っていた。

 ギルバートはそれに合わせてエヴリンと共に西マギーアについて来てくれる。

 今度はエヴリンがギルバートにサフィーラ公爵家の家族を紹介するのだ。


「エヴリン嬢、会えて嬉しかったよ」

 ギルバートの父ジョゼフは朗らかな表情をエヴリンに向ける。

「はい。(わたくし)もです」

 エヴリンはジョゼフと握手を交わす。

「エヴリン嬢、また来てちょうだいね。魔道具のことも、色々と教えて欲しいわ」

 ギルバートの母リンジーは名残惜しそうな様子だ。

「ええ、もちろんです」

 エヴリンもすっかりリンジーと打ち解けていた。

「エヴリン嬢、次いらした時は西マギーアのこと、もっと教えてくださいね」

「西の名産品も楽しみです!」

 ギルバートの弟達、ベンジャミンとトマスもエヴリンがまた来ることを楽しみにしていた。

「楽しみにしていてちょうだいね」

 エヴリンはふふっと二人に微笑んだ。

 ギルバートも家族に挨拶し、二人はルビウス公爵家の屋敷を後にするのであった。

 その際、バーバラから声をかけられるエヴリンとギルバート。

「エヴリンちゃん、ギルバート、後悔のないようにね」

 色々と経験をしたからこそのバーバラの言葉は、エヴリンとギルバートの胸にスッと染み渡る。

 バーバラの言葉があれば、百人力のような気がした。

「バーバラ様、ありがとうございます」

「出来る限りのことをやってみます」

 エヴリンとギルバートはスッキリしており、それでいて覚悟を決めたような表情になっていた。

「エヴリン嬢、では行こうか」

「ええ」

 エヴリンはギルバートにエスコートされて乗り合い馬車に乗った。


 サフィーラ公爵家には、紹介したい人がいるとだけ手紙に書き、ギルバートが東マギーアの人間であることは伏せている。

 事前にギルバートが東マギーアの人間であることを知らせてしまうと、エヴリンの祖父がソルセルリウム帝国まで乗り込で来そうな予感がしたのだ。


 前回は一度東マギーアを出てベーテニア王国を経由してから西マギーアに入った。しかし、少しだけ東西融和が開始した今は国境の壁に設けられた関所から入ることが出来るようになったのだ。






᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥ ᪥






 エヴリンとギルバートは西マギーアの王都に到着した。

(いよいよだわ)

 エヴリンは緊張しながら乗り合い馬車を降りる。

「エヴリン嬢、サフィーラ公爵家に案内を頼む」

 ギルバートの声も、緊張のせいで心なしか硬い。

「ええ」

 エヴリンはギルバートを案内しようとした。

「エヴリン」

 一歩歩き出した瞬間、エヴリンは何者かに声をかけられた。

 エヴリンの肩がピクリと震える。

 その声は、エヴリンにとって聞き覚えのある声だった。

(まさか今遭遇するとは……)

 エヴリンの背中に冷や汗が流れる。

「お祖父様……」

 エヴリンに声をかけたのは、彼女の祖父だった。

「紹介したい人がいると手紙に書いてあったが……まさかそこにいる東マギーアの男ではないだろうな?」

 エヴリンの祖父は憎悪のこもった目つきでギルバートを睨んでいた。

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